MR1693

概要


従来型の軌道モータカー(MR786)では勾配区間の多い山間部でけん引能力に制限があり、特にバラスト散布作業の作業量減少や施工計画の煩雑さが課題となっていたため、その問題解消を目的として導入された軌道モータカーである。また、従来型よりも大型となっている。
MR1693に取り付けられている伐採装置は、線路沿線の整備、観光列車運行に伴う景観伐採等でJR九州管内における伐採作業が年々増加傾向にあることや、住宅地、農耕地への除草薬散布作業の施工制限(2019年度より6~10月散布禁止)に伴い、今後さらに伐採作業が増加することが懸念されたため取り付けられた。

 

主要諸元比較


■ 規格

項目 MR1693 MR786(従来型)
最大長さ 8,750[mm] 7,900[mm]
最大幅 2,834[mm] 2,637[mm]
最大高さ 3,656[mm] 3,658[mm]
自重 25,000[kg] 18,000[kg]

 

■ 性能

項目 MR1693 MR786(従来型)
総排気量 11,000[cc] 7,500[cc]
定格出力 250[kw]/2,000[min]-1 180[kw]/2,000[min]-1
最大トルク 1,600[N・m]/1,400[min]-1 870[N・m]/1,700[min]-1
走行性能(単車時) 50[km/h] 50[km/h]

 

■ けん引性能
これまで勾配25‰以上の区間において、バラスト運搬散布車のけん引両数に制限されていたが、勾配35‰でのけん引が可能となり、勾配区間での制限が解消された。(標準けん引両数:3両)

けん引(勾配) MR1693 MR786(従来型)
けん引(0‰) 280[t] 40[km/h] 250[t] 40[km/h]
けん引(10‰) 220[t] 15[km/h] 190[t] 15[km/h]
けん引(25‰) 130[t] 10[km/h] 100[t] 10[km/h]
けん引(35‰) 100[t] 10[km/h]

 

 

主要装置


■ 電磁弁ブレーキ制御装置
自車および被けん引車の電磁弁により「ブレーキ」「開放」「重なり」の各ブレーキ作用を制御する装置であり、入換ブレーキ弁のハンドル操作を行わず制動が可能である。


▲電磁弁ブレーキ操作盤(写真:MR786)

 

■ 定低速走行装置
作業走行用として一定の低い速度で走行可能な油圧駆動装置である。
運転室計器盤の油圧走行用ダイヤルを右に回すことで速度が上昇し、左に回すことで油圧ブレーキが作用する。

走行用油圧ポンプ 55[cc/rev]
走行用油圧モーター 56[cc/rev]
走行性能 速度 0~8[km/h]
最大けん引重量 10[t]
30‰勾配 10[t]牽引 5[km/h]以上
定低速走行時エンジン回転数 1,400[rpm]

 

■ 電磁弁シンクロブレーキシステム(SSB)
被けん引車の適当な制動力を任意に設定する装置であり、自車のブレーキ操作と同調、同期した電気信号を出力する制御装置である。
バラスト運搬散布車の荷受台に取り付けられた減圧弁ブレーキ用の貫通制動管をそのまま使用し・電磁弁・シンクロブレーキシステム制御ユニット等を取り付け、軌道モータカーのシンクロブレーキシステム制御ユニットから制御された電磁弁の作用によりブレーキシリンダーを作動させる構造である。


▲シンクロブレーキシステム表示器(写真:MR786)

 

■ 脱線復旧アウトリガー装置
脱線復旧対応型のアウトリガー装置を車体の四隅に装備しており、操作は有線リモコンで行い単独での操作と左右連動した操作が可能な構造である。

 

■ 保守用車分岐器割出防止装置
分岐器開通方向検知器にて開通方向を検知し、その情報を地上側の送波器より車上側に取り付けられている受波器に送る。
背向進入時に未開通方向からの保守用車に対して警報音を鳴らし注意喚起をする装置である。

 

■ クレーン装置
車体の後方に油圧作動型の屈折式クレーン装置を装備しており、操作は車体後部のコントロールバルブで行うほか、リモートコントローラーによる操作も可能な構造である。クレーンブーム先端にはアタッチメント(伐採装置)に使用する油圧の取り出しカプラを2回路設けている。

型式 X-CLX078BS-1RC (HIAB製)
最大作業半径 5.4[m]
油圧伸縮ブームストローク 1.7[m]
定格総重量 作業半径(m)-定格荷重(kg) 2.0[m]-2,380[kg]
3.5[m]-1,400[kg]
5.1[m]-980[kg]

 

■伐採装置
クレーン装置にアタッチメントとして取り付ける伐採機を装備し、線路脇の草・竹・雑木の枝を回転刃により伐採可能な構造としている。回転刃は、電動モータ一によりⅤベルトで駆動する構造となっている。また、油圧シリンダーによりカッター全体を上下に作動でき、油圧モーターによりカッター全体が旋回できる構造としている。
施工基面や盛土上の伐採作業に加え、クレーン装置に屈折式クレーンを使用していることから伐採機の最大作業範囲はレールレベルより高さ約12mに及び特に山間部の切取斜面やトンネル坑口等の除草作業の省力化が期待される。

△クレーンアタッチメントとして装備された伐採装置

 

参考文献
1)国丸陽 『軌道モータカー(MR1693)の導入』,新線路,74巻,6号,鉄道現業社(2020.6)