軌道モータカー(ロータリー装置付)

古く雪国では雪害により交通の不便を強いられていたが、経済活動の停止や財政負担が社会的に認知されるようになり、昭和31(1956)年に雪寒法(積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法)が制定されたのを機に冬季の道路交通が確保されていった。

国鉄でも冬季の運行確保が推進され、除雪の効率化、機械化を目的にした多くの技術研究課題が採択されるに至った。
本軌道モータカー(ロータリー装置付)は従来キマロキ編成にて行っていた除雪をより機動的に行うため、昭和34(1959)年度技術研究課題『ロータリー式除雪車の試作』として製造されたものである。

本軌道モータカー(ロータリー装置付)は国産としては最初期の軌道モータカーロータリーとなる。
試験研究や実際の運用で改良を重ねたため同一車種内で型番が分かれている。
銘板へ型番の表記は無いが、製造元の新潟鐵工では型番で区別がされていた。

 

MC



△MC 1号車 4枚羽根バイルハックを備える。 村山熙『ロータリー式除雪モータカー』,新線路,14巻3号,鉄道現業社,(1960.3)より

昭和34(1959)年度に試作車が完成し札幌へ配備された。

セミ・センター・キャブ型の車体で長い機関室側にロータリー除雪装置が装備される。
ロータリー除雪装置として、ワンステージのバイルハック型ロータリー除雪装置を採用した。
ワンステージとは雪の掻き寄せから投雪までを一つのブロアで行う方式である。
本形式ではワンステージのブロア(φ800 L=360)を横に2つ並べて装備している。

試作車では除雪装置内にフランジャーが取り付けられていたが、雪の壁を作る原因となったため改造時に移設されている。
この時代はシュートが装備されておらず、ブロア直接投雪方式のため投雪方向の制御が大まかにしかできなかった。


△バイルハック型ロータリー除雪装置 奥村実『モータカーロータリーが改良されるまで』,新線路,16巻3号,鉄道現業社,(1962.1)より

バイルハック型ロータリー除雪装置は試験の結果、雪の流動が悪く、前方に雪を押しのけて排雪不能になるアーチング現象などの問題があったため、翌年に改良が実施されることになった。

 


△昭和35年度改良が行われたMC 奥村実『モータカーロータリーが改良されるまで』,新線路,16巻3号,鉄道現業社,(1962.1)より


△赤谷線で除雪作業試験を行う2号車 村山熙『ロータリー式除雪モータカー』,新線路,14巻3号,鉄道現業社,(1960.3)より

昭和35(1960)年度の改良として札幌配備の1号車が大直径3枚羽根バイルハックへ変更が行われた他、改良が反映された2号車が新潟へ配備された。
除雪量は若干増加し、アーチング現象は減少したが、実用上問題が残るため翌年に更に改良が実施されることになった。

 

MC1



△MC1 形式図 長岡技術科学大学収蔵 『荘田文庫』より

昭和35(1960)年の試験の結果を受け大改造を行った形式。
昭和36(1961)年に只見線配備され、本線、構内除雪に大活躍した。

前年の試験で問題となったロータリー除雪装置を、バイルハック型からツーステージのロルバ型ロータリー除雪装置に変更した。
ロルバ型ロータリー除雪装置ではロルバ型スクリューで雪を砕いてから投雪用ブロアへ掻き込むため、雪の流動性が改善された。
投雪用ブロアはφ800 L=360 2つから φ1200 L=500のもの1つに変更され、投雪能力が56%向上した。

MCでは積雪があると後退できなかったため後退用の簡易スノープラウが装備された。 そのため30[cm]程度の積雪までなら後退できるようになった。
又、ブロアを始動する際の投雪方向の確認用に投雪方向指示器が追加された。

 

諸元

■ 寸法・重量

長さ 11,450[mm]
2,600[mm]
高さ 4,420[mm]
軌間 1,067[mm]
軸距 4,150[mm]
自重(夏姿) 14[t]
自重(冬姿) 18[t]

 

■走行用エンジン

エンジン名称 いすゞ DA120
エンジン出力 102(89)[PS]/2200[rpm] ※

 

■除雪用エンジン

エンジン名称 三菱  DH24C
エンジン出力 225(195)[PS]/1600[rpm] ※

※()内数値は旧JISによる

 

■動力伝達

走行用変速機 4段変速歯車式
除雪用変速機 2段変速歯車式
逆転機 2段変速機付平歯車組合せ式

 

■燃料容量

燃料タンク容量 600[L]

 

■牽引性能

勾配 牽引重量 単車積載時 重量牽引時
水平線 100[t] 45[km/h]以上 20[km/h]以上

 

■除雪性能

ブロワ回転数 最高400[rpm]/1600[rpm]
スクリュー回転数 最高100[rpm]/1600[rpm]
最大除雪幅 4500[mm]
最小除雪幅 2200[mm]
フランジャー R,L,T35[mm]

 

MC2



△MC2 手動操作式のシュートが装備された 秋元清『雪への備え』,新線路,18巻2号,鉄道現業社,(1964.2)より

1963年頃から製造されたモデル。
投雪方向の制御のためキャップ付きシュートが装備された。
MC1では短く小さい機関室側の除雪装置が後退用の簡易スノープラウであったが、MC2より大型の固定式スノープラウへ変更された。
DL31として北陸鉄道で活躍した個体が有名である。


△北陸鉄道にて活躍したのち、那珂川清流鉄道保存会にて保存されるMC2

MCからMC2までで23両が製造された。
製造番号は1号車からである。

 

諸元

■ 重量

自重(夏姿) 14[t]
自重(冬姿) 18[t]

 

■走行用エンジン

エンジン名称 いすゞ DA120
エンジン出力 102(89)[PS]/2200[rpm] ※

 

■除雪用エンジン

エンジン名称 三菱  DH24C
エンジン出力 225(195)[PS]/1600[rpm] ※

※()内数値は旧JISによる

 

■牽引性能

勾配 牽引重量 単車積載時 重量牽引時
水平線 100[t] 45[km/h]以上 20[km/h]以上

 

 

MC3 MC4



△昭和50年製造 MC4

昭和38(1964)年3月から製造されたのがMC3、昭和42(1967)年から製造されたのがMC4となる。
製造番号は201号車からでMC3、MC4で続番である。
国鉄向けに137両、それ以外の国内向けに4両の製造が確認されている。
標準軌向けも存在し、東海道新幹線関ケ原・米原地区用として2両存在した。

車両の仕様は日本国有鉄道規格において軌道モータカー(ロータリー装置付液体変速式115PS)として昭和38(1964)年に制定されている。
日本国有鉄道規格番号は JRS-75042-5D-13AR8 である。
細分類としてN形とS型が存在し、それぞれ軌間1,067[mm]用と1,435[mm]用である。

走行用エンジンの変更に伴い、MC2まで小さく短かった機関室が大型化した。
また、運転室が大型化され、出入口が妻から側面に移設されている。
シュートキャップの開閉部がネジを用いた手動式のモデルとシリンダを用いた油圧式の物が確認できる。

MC3とMC4の製造年以外の差は不明である。

 

諸元

■ 寸法・重量

冬姿長さ 11,620[mm]
夏姿長さ 7,400[mm]
2,700[mm]
高さ 3,500[mm]
軸距 4,300[mm]
軌間 1,067/1,435[mm]
車輪径 660[mm]
自重(夏姿) 17[t](N形)18[t](S形)
自重(冬姿) 20[t](N形)22[t](S形)

 

■走行用エンジン

エンジン名称 いすゞ DA640-1TDP
エンジン出力 135(115)[PS]/2200[rpm]※

※()内数値は旧JISによる

■除雪用エンジン

エンジン名称 三菱  DH24C
エンジン出力 225(195)[PS]/1600[rpm] ※

※()内数値は旧JISによる

 

■動力伝達

液体変速機 新潟コンバータ DBG-90形
逆転機 ハスバ歯車組合せ式(前進のみ高低速2段切換付)
駆動輪 前後2軸駆動

 

■ブレーキ方式

主ブレーキ方式 空気ブレーキ
補助ブレーキ ネジ式手ブレーキ、センターブレーキ、トロブレーキ(N形のみ)

 

■空気・燃料容量

空気圧縮機形式 C400
ブレーキシリンダ φ180[mm]xSt200[mm]x2[個]
元空気ダメ容量 220[L](110[L]×2)
燃料タンク容量 500[L]

 

■除雪装置

ブロア φ1100[mm]/高速400[rpm]低速310[rpm]
カキ寄セスクリュー φ1000[mm]/高速130[rpm]低速100[rpm]
フランジャ
アイスカッタ
後スキ

 

■牽引性能(N形)

勾配 牽引重量 単車積載時 重量牽引時
水平線 100[t] 55[km/h]以上 35[km/h]以上
10‰ 45[t] 54[km/h]以上 23[km/h]以上
25‰ 40[t] 31[km/h]以上 10[km/h]以上

 

■除雪性能

最大除雪量 1500[t/h]
ロータリー除雪幅 4500[mm]
投雪距離 15[m]

 

 

参考文献

1)松田務 『モロ、ハイモ』, トワイライトゾ~ン マニュアル14, ネコ・パブリッシング, (2005)
2)新潟鉄道管理局『雪にいどむ 雪と鉄道』, 新潟鉄道管理局, (1973)
3) 保線機械研究グループ『保線機械便覧』, 日本鉄道施設協会,(1978)
4) 坂芳雄, 椎名公一『保線機械と使用法』,山海堂, (1970)
5) 村山熙『ロータリー式除雪モータカー』,新線路,14巻3号,鉄道現業社,(1960.3)
6) 奥村実『モータカーロータリーが改良されるまで』,新線路,16巻3号,鉄道現業社,(1962.1)
7) 社史編纂委員会『新潟鉄工所100年史』,新潟鉄工所,(1996)
8) 秋元清『雪への備え』,新線路,18巻2号,鉄道現業社,(1964.2)
9) 日本国有鉄道『軌道モータカー(ロータリー装置付液体変速式115PS)』,日本国有鉄道規格,(1964)
10)林野博,『新幹線の雪害対策』,新線路,24巻12号,鉄道現業社,(1970年12月)