HSC500


■概要

山陽新幹線にて使用されていたR300Aの置換用に開発された高速確認車。
山陽新幹線に25両、北陸新幹線に8両が納入された他、九州新幹線向けとして12両がジェイアール西日本テクノスが部品販売を行い、ケイ・エス・ケイ(現JR九州エンジニアリング)が製作・納入している。

 

■開発

置換にあたってJR西日本が実施したコンペで5社の中からジェイアール西日本テクノスが受注した。
開発のコンセプトは確認車走行速度の向上による保守作業時間の拡大と確認行路削減である。

コンセプトに基づいて要求された主要な機能・仕様は下記の通りである。

1.110[km/h]での走行
・0[‰]時最高速度:110[km/h]以上
・15[‰]時最高速度:90[km/h]以上
・0~110[km/h]への加速時間:100[秒]以内
・110[km/h](15‰)からの停止距離:400[m]以内

2.400[m]先の良好な視認性
・400[m]先を照らす照明及び400[m]先をとらえるカメラとモニタの設置

3.保安機能
・建築限界支障測定装置の設置
・新幹線用保安装置の設置

4.その他の仕様
・低騒音であること
・既定の大きさ、質量以下であること
・耐久性があること

上記の仕様に合わせて要素ごとの開発が行われた。
開発にあたってR300Aを種車としてエンジンの換装や前方監視装置の搭載などの改造を平成9年6月から12月にかけて施工し、小郡新幹線保守基地にて試作車を用いた各種試験を実施した。

・台車
従来のR300Aでは走行装置に板バネ、リンク構造の走り装置を採用しており、最高速度が70[km/h]程度であったため本車では最高速度向上に合わせて台車を採用することした。
台車の選定にあたっては2軸のボギー台車と一軸台車が比較されたが、2軸台車を使用すると重量が増加し、エンジン出力が更に必要になることや、台車長が増加し、確認車留置線に収まらないために一軸台車が選定された。
一軸台車は気動車や保守用車用として実績がある富士重工製の一軸台車 FU-120D が採用された。(現在は新潟トランシス製)
この一軸台車は高速走行性能に限界があると考えられており、計算モデルによるシュミレーションが鉄道総研により実施された。
シュミレーションの結果、130[km/h]から減衰が悪くなり、140[km/h]で蛇行動が発生したことから、120[km/h]で走行する際の安定性に問題無いと結論付けられた。
実際の走行試験においては120[km/h]までの走行試験を行い、110[km/h]時のQ/P値は0.67[-]程度で、蛇行動も発生しないことを確認した。

△新潟トランシス製 FU-120D 一軸台車

・エンジン
最高速度の向上のために高出力エンジンの選定が行われた。
選定に当たっては、高出力であること、在来線気動車でも使用されており、検修と補修部品を共通化することができる小松製の SA6D125-1(250[kW]/2100[rpm])が採用された。
加速度試験においては0~110[km/h]を79[秒]で加速し、仕様を満足していることを確認した。

・制動装置
仕様値を満たすためのブレーキとして空気ブレーキのみでも足りる可能性はあるが、不安定な粘着制御に頼ること等を考慮してブレーキ力が確実なレールブレーキとの組み合わせが検討された。
レールブレーキは渦電流と電磁吸着を併用した方式で、全体のブレーキ力の40[%]を負担させることとした。
当時富士重工製のR300B(最高速度100[km/h])では電磁吸着ブレーキが装備されており、本車の開発にあたり参考にされたと見られる。
渦電流ブレーキ力は速度に関係なくほぼ一定であったが、吸着ブレーキ力は速度の低下と共に大きくなり、低速域での振動防止のため30[km/h]までの使用とされたが、10[km/h]から40[km/h]までの速度で実施された構内走行試験においてレール頭面に白色層の生成が見られたため、レールブレーキは採用されず空気ブレーキのみとする方式に変更された。

空気ブレーキのみでブレーキ力を確保するための方策として、高い摩擦係数を有する特殊鋳鉄制輪子を新たに開発した他、滑走が発生しにくい高速時にブレーキシリンダ圧力の増圧制御を採用した。
増圧制御は2段階制御で、45[km/h]以上で増圧される。
制動試験においては、初速110[km/h]、下り15[‰]、雨天条件での非常制動で400[m]以内に停車できることを確認した。

・前方監視装置
110[km/h]走行時の制動距離400[m]より先の支障物を発見するための装置として開発が行われた。
前方監視装置はJR西日本技術部の開発品で、三永電機製作所が実際の製造を担当した。
照明としてキセノンサーチライトを採用し、当該線中央において400[m]先で200[lux]の照度を確保した他、さく外への光害を極力抑えるため集光性の高い照度特性とし、隣接線保守用通路での照度が5[lux]としている。
カメラは16倍ズームレンズを使用した3CCDカメラが2台搭載されている。
これらはサーチライトの照射範囲とカメラの画角が一致するように連動しており、曲線区間等でも常に軌道を監視することができる。
ビデオカメラは運転台のジョイスティックで左右に首を振ることができる他、ズームすることができる。
これらの装置は箱に納められて屋根上に搭載されており、進行方向を変更するときは180[°]反転させて使用する。

△前方監視装置 手前に3つ並んでいる物は安全装置の測距部で前方監視装置とは無関係である


△前方監視装置操作盤

平成11年から平成12年にかけては量産に向けた応力・耐久試験や試作車の量産化準備改造が行われ、平成13年5月に量産1号車が完成した。
開発された本車は平成14年度上期までの山陽新幹線への導入が行われ、高速化による走行距離増により確認車行路が6行路削減されることとなった。

本形式の導入後の追加装備や変更点を下記に示す。

■軸箱温度監視装置
従来は車両の検査の度に軸箱を分解して状態を確認していたが、部品の信頼性が向上したことや状態が良いものでも分解検査をしたがためにかえって不具合を発生させてしまうことを背景に、常時状態を監視することで分解検査を不要とする検査方式が採用された。
軸箱温度監視装置はこの状態監視のために導入された設備で、軸箱側面に設置された温度センサーで日々の軸箱温度を記録する他、軸箱と外気温の差が40[℃]以上になった際に警報を発する機能を有している。

 

■検知棒の変更

本車では下部限界支障検知装置(検知棒)はR300Aで装備していたものを流用して装備していたが、山陽新幹線開業以来使用されてきたことから老朽化が進行しており、経年劣化による故障が頻発していた。
そのため新たに本車用の検知棒を開発することとなった。
基本的な構造は従来品と同様だが、検知棒を前後双方向に倒せるようにしたのが特徴で、仮に前端の検知棒が支障物との衝撃により破損した場合でも後端の検知棒を使用して確認作業を継続することができる。
本検知棒は試験の後に2006年から各車へ取付が行われ、2007年3月中に全車へ取り付けられた。

△新型検知棒 写真は格納状態である

 

■レール締結装置状態監視装置の装備
レール締結装置の締結状態を監視するためにレール締結装置状態監視装置が装備された。
測定部はラインセンサカメラとレーザー投光器で構成されており、測定したデータは処理部に伝送され、締結装置の脱落や緩みの有無の検知が行われる。
走行試験の結果ケーブルを外乱として誤検知があるものの、締結装置の状態監視が行えることが確認された。
現在装備されている車がいるかは不明である。

 

■慣性測定式軌道検測装置の装備
軌道狂いをリアルタイムに、極力簡便・低コストに把握するための手法として本車へ軌道検測装置が装備された。
軸箱下面に加速度センサを取り付け、試験が行われ著大な軌道狂いの有無を確認できることが確認されたが、現在も装備されているかは不明である。

 

■北陸新幹線向けの増備
北陸新幹線向けの本車はスノープラウを装備する他、貯雪構造となっている軌道脇から乗り込むための伸縮式ハシゴ、軌道からの逸脱を防ぐL型ガイド、脱線復旧用アウトリガなどを備えている。
他にも安全システム等の装備が異なると思われるが型式は共通である。

△北陸新幹線向けHSC500

 

■ 諸元

寸法・重量

長さ 8,250[mm]
3,640[mm]
高さ 3,748[mm]
軌間 1,435[mm]
車輪径 762[mm]
自重 17.5[t]

※寸法は接触式限界警報装置使用時

 

■エンジン
SA6D125-1(定格出力 250kW/2100rpm)

 

■ 走行性能

勾配 牽引重量 単車時 牽引時
水平線 20[t] 120[km/h]以上 96[km/h]
10‰ 20[t] -[km/h] 74[km/h]
15‰ 00[t] 105[km/h] -[km/h]
25‰ 20[t] -[km/h] 47[km/h]

 

参考文献

1)小川敦夫・福本守光・楠田将之『高速確認車導入に伴う触車事故防止対策について』,JREA,44巻,6号,日本鉄道技術協会,(2001.6)
2)武井昭洋・楠田将之『高速確認車の開発』,新線路,55巻,7号,鉄道現業社,(2001.7)
3)山根章・山藤克明・河田稔『新幹線用高速確認車の開発』 ,平成13年度全国「車両と機械」研究発表会,日本鉄道車両機械技術協会,(2002.3)
4)酉川秀雄『(株)ジェイアール西日本テクノス姫路製作所』,R&m,11巻,12号,日本鉄道車両機械技術協会,(2003.12)
5)藤井清和『こんなことがあった 高速確認車の燃料フィルターが落失しエンジン停止』,新線路,58巻,1号,鉄道現業社,(2004.1)
6)武井昭洋・佐々木英二『保守用車検査修繕方法の見直し』,新線路,58巻,8号,鉄道現業社,(2004.8)
7)木下敦之『九州新幹線における線路確認作業』,新線路,58巻,8号,鉄道現業社,(2004.8)
8)古谷慎吾・東史子・上田晴夫『高速確認車における新型下部限界支障検知装置の開発』,新線路,61巻,3号,鉄道現業社,(2007.3)
9)高木洋『山陽新幹線における高速確認車の左右動揺の検証及び対策の構築』,新線路,61巻,1号,鉄道現業社,(2010.1)
10)若槻幸浩『「ものづくり」事業の立上げと苦労ばなし』,R&m,18巻,8号,日本鉄道車両機械技術協会,(2010.8)
11)下野勇希『レール締結装置状態監視装置の開発』,JREA,53巻,10号,日本鉄道技術協会,(2010.10)
12)小野隆・下野勇希『確認車による軌道状態把握手法の検討』,新線路,61巻,12号,鉄道現業社,(2010.12)
13)舘宏一『こんなことがあった 保守基地に回送中の確認車が保守基地入り口門扉に衝撃し損傷』,新線路,67巻,1号,(2013.1)
14)ジェイアール西日本テクノス『高速確認車と高速軌道モータカー』,ポスターセッション資料,(2015)
15)井上孝司『山陽新幹線保守の最前線基地 福山新幹線保守基地』,新幹線エクスプローラ,37号,イカロス出版,(2015.12)
16)ジェイアール西日本テクノス 『新幹線高速確認車』 パンフレット
17)三永電機製作所「画像処理用光源装置」
https://www.san-eielectric.co.jp/okugai3.htm
18)西日本旅客鉄道 三永電機製作所 特願平10-293957「軌道確認車及びこの確認車による異物確認システム並びにこの確認車に搭載される投光器」
https://patents.google.com/patent/JPH11321648A

 

試作車 H9年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

山陽 H13年製造

九州

九州

九州 H15年製造

九州 H19年製造

山陽 H20年製造

山陽

九州 H22年製造

九州H22年製造

九州H22年製造

九州 H22年製造

九州 H22年製造

九州 H30年製造

九州 H30年製造

九州

山陽 H24年製造

山陽 H24年製造

山陽

山陽

北陸 H26年製造

北陸

北陸

北陸