ヨシイケ科研の軌道検測車

△貨物型モータカーに牽引され検測を行う吉池式総合軌道検測車 文献11)より


■概要
従来目視又は糸張り検測、測定ゲージにて行っていた軌道検測作業を機械化すべく被牽引式の総合軌道検測車を開発した。
総合軌道検測車は簡易な構造ながらも軌間/水準/通り/高低/(継目)の検測が可能で、450両程度が製造され全国に約200あった国鉄保線区に1両ずつ導入された他、私鉄各社やアメリカ・韓国・台湾・タイ・フィリピン・インドネシアの各国にも輸出された。
本ページでは便宜的に試作車・改良車・量産1次車・量産2次車と分けて呼称する。
ヨシイケ科研ではこの総合軌道検測車の他に、京王電鉄に導入された検測室を備えた総合軌道検測車や、東急電鉄に導入された自走式軌道検測車を製造した。
いずれも固有の型番が無いと推定されるため本記事でまとめて取り扱う。

 

■開発経緯
ヨシイケ科研の前身、吉池機械製作所を昭和5(1930)年に東京都大田区に設立し、東京計器製作所(現:東京計器)の協力工場として軍需品を製造していた吉池極は、昭和18(1943)年に東京への空襲を予期し工場を長野県小諸に設立した。
知人の紹介で小諸保線区を訪れた際に、ポイントや信号機の修理を行う場所が無く困っているという話を聞き、吉池機械製作所にて修理を請け負ったのが軍需の終了と併せて保線機械参入のきっかけとなった。
まず吉池は保線区で機械化の要望が強かったバラストの掻き出しとふるい分けについて新潟鉄道局・小諸保線区の協力を得て試作を行った。(当時長野は新潟鉄道局管内)
試作した無限軌道式砂利掻出機とコンベヤー式篩分機は国鉄主催の懸賞付き募集のあった第一回保線機械化展示会に出品されいずれも一等賞を獲得した。
その後保線機械化委員会第七回作業分科会ならびに第六回機械化分科会において研究議題として軌道検測車が選定されたのに基づき、第二回の保線機械化展示会にて軌道検測車の出品が募集され、これを開発する運びとなった。
余談ではあるが、吉池は東京計器製作所の戦中の長野への疎開に際して、小諸工場及び小諸学校工場の借り入れの斡旋を行った他、疎開前の大田区の工場を東京計器製作所に売却するなど東京計器製作所との結びつきが強かったようである。 東京計器は今日でも軌道検測装置やレール探傷装置を製作している。

 

■試作車(1947~)
開発は前述の無限軌道式砂利掻出機とコンベヤー式篩分機と同様に新潟鉄道局・小諸保線区の協力を得て行われ、信越線において各種試験を実施した。
試作型は軌間/水準/通り/高低の測定が可能で、測定値はそのままメーターで読むことができる他、用紙への記録も可能であった。
検測走行は軌道自転車による推進走行で、軌道自転車からメーターが読めるように総合軌道検測車の後部にメーターが付いているのが特徴的である。
試作車は第二回保線機械化展示会に出品され一等賞を獲得すると共に、運輸大臣より賞状・賞金も授与された。

△保線機械化展示会に出品された試作車 文献3)より

 

■試作車諸元

検測速度 5[km/h]
弦長 4.8[m]
通り測定 片側
水準測定 U字管付き
自重 150[kg]

 

■改良車(1948~)
試作車を元に研究調査を重ね、改良された総合軌道検測車は軌道自転車による推進式から軌道自転車又は軌道モータカーによる牽引式に変更された。
検測速度も向上し10[km/h]程度まで正確に測定できるようになった。
なお、吉池式が総合軌道検測車と呼ばれるのは同時期に登場した名工範式と中島式軌道検測車が手押し式の簡易な作りで軌間・水準のみの検測であったためと推定される。

△改良された吉池式総合軌道検測車 文献5)より

 

■量産1次車(1950~)
改良型を元に量産が行われた。
作業員の座るスペースが追加されている他、検測速度も15[km/h]まで向上しており、改良型からさらに改良が重ねられている。
第三回保線機械化展示会に出品され最優秀賞を獲得した。文献8)では「未だ多少改良の餘地はあるが何といっても機械化委員會の生み出した最大傑作ですよ」と評されている。
1950年時点で14両が国鉄に導入されている。

△第三回保線機械化展示会に出品された量産車 計器盤手前に人が座るスペースが追加されている 文献7)より
△上中里~王子間にて軌道検測を行う様子 文献6)より

 

■構造
車体はジュラルミン形鋼製で前車・後車の二分割構造となっており、中央測定部は後車に搭載されている。
測定軸は全3軸からなり、第1軸(A-A’車輪)が前車、第3軸(B-B’車輪)が後車、第2軸(C-C’車輪)を前車・後車で共有しており、第2軸を中心に前車・後車が軌道変位に合わせて追従する構造となっている。

△車体構造・軸配置 文献10)より

・高低測定
軌道に高低差があると前車・後車に角度差が生じる。
この角度差を読み取り高低量へ変換して測定を行う。
高低量は1/2スケールで記録紙に記録されていたが、1/1スケールにて記録されるよう改良された。

・通り測定
第1軸と第3軸はフランジ付き車輪が、第2軸はフランジ無し車輪が用いられており、車体は第1軸から第3軸までが一直線に結ばれている。
第2軸付近には中央シューが設けられており、これをレール内側に押し付け出入量を測定することで記録を行う。
通り量も1/2スケールで記録紙に記録されていたが、1/1スケールにて記録されるよう改良された。

・軌間測定
通り測定と共通の中央シューにより測定を行う。

・水準測定
車体に吊り下げられた重錘と車体の間の間隔から測定を行う。

 

■量産1次車諸元

長さ 5,430[mm]
1,500[mm]
高さ 800[mm]
検測速度 15[km/h]
通り測定 片側
弦長 4.8[m]
水準測定 U字管付き
自重 420[kg]

 

■量産2次車(1953~)
量産1次車では精度・検測速度が低かったためこれを向上した他、後退運転不可、脱線しやすい等の不具合を通り測定機構にプレートを用いる等の改良を施して解消した。
量産2次車は第四回保線機械化展示会に出品されて一等を受賞した。

△量産二次車形式図 ()内寸法は標準軌仕様である 文献16)より
長さ 5,260[mm]
1,395[mm]
高さ 670[mm]
検測速度 30[km/h]
弦長 5.0[m]
通り測定 両側
水準測定 U字管無し
自重 500[kg]

 


△貨物型モータカーに牽引される総合軌道検測車 簡易的ではあるが屋根が追加されている。 (片倉穂乃花所蔵)


 

■京王電鉄に導入された総合軌道検測車
前述の総合軌道検測車を大型化したような構造で、車体中央に測定室が設けられている。
軌間/水準/通り/高低の検測が可能で、検測走行の際は軌道モータカーに牽引される。

△京王電鉄に導入された総合軌道検測車 文献22)より

 

諸元

長さ 6,080[mm]
1,897(2,265)[mm] ()内標準軌寸法
高さ 2,320[mm]
軸距 5,000[mm]
軌間 1,067/1,435[mm]
検測速度 直線30[km/h]
曲線10[km/h]
分岐5[km/h]
回送速度 直線30[km/h]
分岐5[km/h]
自重 2,000[kg]

 


 

■東急電鉄に導入された軌道検測車
従来東急電鉄では上述の吉池式総合軌道検測車にて検測を行っていたが、ペンドラムにより記録用紙に出力されたデータを人力で整理し、その後P値等の算出をコンピュータで行っていた。
このデータ整理の省力化を図るため新軌道検測車を導入した。

 

■製作計画
・データ整理を機械化する
・検測速度、精度を向上する
・10[m]弦検測とする
・自走式とする
・運転操作は導入済松山重車輌工業製モータカーと同様とする

以上を踏まえて下記の通り製作を分担した。

車両関係 松山重車輌工業
検測機器関係 ヨシイケ科研機器
検出機器関係 東京測器研究所

 

■構造
車体中央に設けた運転室に前後それぞれの運転席を設けた1運転室2運転台の凸型形状で、車体前後に指揮者を添乗させるための監視室が設けてある。
検測データはアナログデータテープに記録され、地上側でA/D変換の後、コンピュータ処理が行われP値等が算出される。

 

△形式図 文献17)より
△晩年は改造により後車体に装置が追加されていた  文献20)より

検測項目

軌道狂い検測 軌間/水準/通り/高低/平面性
位置検測 駅/曲線の始終点/橋梁/高架橋の始終点/レール継目
距離検測 走行距離

 

諸元

長さ 11,300[mm]
2,720[mm]
高さ 2,950[mm]
軸距 5,000+5000[mm]
軌間 1,067[mm]
検測速度 R>600 20~35[km/h]
600≧R≧400 20[km/h]以下
400≧R≧200 15[km/h]以下
200≧R≧ 10[km/h]以下
回送速度 R>600 35~40[km/h]
自重 2,000[kg]

 

参考文献
1) 『保線機械化展示會作品』,新線路,1巻,7号,鉄道現業社,(1947)
2)岡田秀穂,『保線機械化えの足どり』,新線路,2巻,4号,鉄道現業社,(1948)
3)『第二囘 保線機械化展示會作品』,新線路,2巻,6号,鉄道現業社,(1948)
4)『保線機械化委員會第七囘作業分科會ならびに第六囘機械分科會開かる』,新線路,2巻,9号,(1948)
5)岡田秀穂,『新しい保線機械』,新線路,3巻,1号,鉄道現業社,(1949)
6)『表紙』,新線路,4巻,6号,鉄道現業社,(1950)
7)『躍進する…….. 保線の機械』,新線路,4巻,7号,鉄道現業社,(1950)
8)泰丹波『保線機械化 展示会を見る』,新線路,4巻,7号,鉄道現業社,(1950)
9)尾台三吉『保線に必要な軌道調査』,新線路,6巻,4号,鉄道現業社,(1952)
10)岡崎登『軌道検測車の使い方』,新線路,7巻,6号,鉄道現業社,(1953)
11)柴岡信丸『線路審査と線路検査』,新線路,7巻,10号,鉄道現業社,(1953)
12)『三年ぶりで行われた 第四回 保線機械化展示会』,新線路,7巻,10号,鉄道現業社,(1953)
13)『綜合軌道検測車の取扱要領を発表』,新線路,7巻,11号,鉄道現業社,(1953)
14)坂芳雄・椎名公一『保線機械と使用法』,山海堂,(1970)
15)『メーカー紹介 科研工業株式会社(ヨシイケ)』,鉄道線路,23巻,7号,日本鉄道施設協会,(1975)
16)高橋寛『保線機械便覧』,日本鉄道施設協会,(1978)
17)河合徹『東急の新軌道検測車について』,鉄道線路,29巻,4号,日本鉄道施設協会,(1981)
18)吉池極『保線機械製作43年を顧みて』,日本鉄道施設協会誌,25巻,6号,(1987)
19)『トキメック・ルネッサンス : 100年の歴史の上に』,トキメック100年史編纂室,(1996)
20)高橋英樹『東京急行電鉄 裏方の作業車たち』,立入厳禁,(1999)
21)伊能忠敏『保線作業の機械化』,新線路,57巻,12号,(2003)
22)ヨシイケ科研機器株式会社『ヨシイケの総合軌道検測車』
https://www.navida.ne.jp/snavi/796_4.html(2022.7)

 


 

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