74_軌陸バックホウ


■概要
■軌陸バックホウ登場以前
■構造
■豊富な作業用途
・バケットアタッチメント
・タイタンパーアタッチメント
・グリッパーアタッチメント
・ロータリーカッターアタッチメント
・ロータリー除雪装置アタッチメント
・回転式ブレード板アタッチメント

 

■概要

軌陸バックホウは3K職場と呼ばれる保線分野の環境を改善するために1980年代末より投入された保線機械の一つである。

保線の現場では建築限界という限られたスペースでかつ短い線路間合という限られた時間内での作業が求められる。その上列車の運行に影響を及ぼさないよう仕事の完成度も要求される。

このため保線機械には現場近くに待機し、線路閉鎖後ただちに短時間で現場に赴き軌道上で作業する能力が求められる。

△日中現場近くに留置されており線路閉鎖後すぐに現場に向かうことが可能

軌陸バックホウはこれらの厳しい条件を満たすものであり、複数台同時に投入して短時間に集中して作業を行うことも珍しくない。

△複数用途で複数台が投入されることもある

 

■軌陸バックホウ登場以前

バックホウを保線作業に使用したいという発想は古くからあった。1963(昭和38)年度の試作保線機械としてバラストのかき込み作業を行うバラストカキ寄せ機というものが製作されている。

△バラストカキ寄せ機。文献8)より

これは三菱のH25をベースとして軌道走行用に鉄輪を装着したものであった。当時の記事によると多大な成果を収めたとあるがそれ以外に同種の機械がバラストかき寄せ作業を行った例は確認できなかった。

またクレーン付き軌道モータカーの油圧を活用したバックホー付きモータカーというものも製作された。

△バックホー付モータカー。文献9)より

他にも初期の軌陸バックホウと並行して使用されたものとして現場まで自走可能というパワー台車というものもあった。

△パワー台車。現場まで自走し現場では下りて作業を行っていたようである。文献10)より

現在ではそれらの姿を見ることはなく軌陸バックホウが幅広く使われている。それほどまでにこの機械は現場で求められていたものだったといえる。

 

■構造

現在見られる軌陸バックホウの大半は小形のバックホウ(油圧ショベル)に車輪部を設け高速で自走させ、現場への到着時間の短縮を図ったものである(初期には履帯でレール上を駆動するものも存在した)。主な構造は以下の通りとなっている。

△主な構造

油圧ショベルは全動作を油圧により行うためシャフトやギア等が動力伝達に不要でコンパクト化が図れる。動力の伝達はエンジンにより駆動される油圧ポンプが作動油タンクから油を吸い込み操作弁に油を送っている。運転室内の操作レバーの操作で各操作弁の回路を切り替え油圧モータ(走行モータ、旋回モータ)、油圧シリンダ(ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダ、オフセットシリンダ)を作動させ作業を行う。

軌道走行用の車輪は車軸を介して直接油圧モータで駆動する。レール上履帯作業時及び被牽引走行時用に車輪と油圧モータの接続を切るための機械式クラッチを備えている。

また軌道上でエンジンが停止して動かなくなった場合に軌道外へ退避できるように緊急脱出用補助エンジンを備えたものも存在する。

 

■豊富な作業用途

バケットアタッチメントを用いてバラストの掘削作業に用いられる他豊富なアタッチメントを用いて様々な作業を行うことができる。ここではいくつかの用途を紹介する。

 

・バケットアタッチメント

バラストを入れ替えたりする際によくみられる。

 

・タイタンパーアタッチメント

道床交換後の搗き固め作業で用いられる。

△搗き固め作業

道床の搗き固めというとマルチプルタイタンパーというイメージがあるが道床交換と並行して終わった箇所から搗き固め作業が可能なためタイタンパーアタッチメント付きの軌陸バックホウも広く使用されている。1時間当たり30[m]の作業が可能となっている。
マルタイほどではないが人力での作業と比較すると大幅な時間短縮となる。例えば一般区間でまくらぎ1本分8か所を搗く場合ハンドタイタンパで1人で作業すると100~120[秒]かかるのに対し軌陸バックホウでは20~30[秒]程で作業可能となる。

 

・グリッパーアタッチメント

マクラギの把持、取り出し及びマクラギ横の道床のかき出し等マクラギ交換作業で使用される。1時間当たり25[本]の交換能力を有する。

 

・ロータリーカッターアタッチメント

車両に備えている油圧を用いて軌道周辺の草刈・伐採を行うものである。

△草刈作業を行う軌陸バックホウ 文献7)より
・ロータリー除雪装置アタッチメント

車両に備えている油圧を用いてロータリー除雪装置を駆動するものである。

△ロータリー除雪アタッチメント

 

・回転式ブレード板アタッチメント

積雪時にラッセル除雪車で軌道上を除雪していくとできる線路わきに雪壁(いわゆる側雪)ができて排雪場所がなくなったり側雪が崩れて列車運行に支障をきたす恐れがある。

このアタッチメントは今まで人力で行っていた側雪の処理を軌陸バックホウを用いて行おうとしたものである。

△側雪を処理するアタッチメント付軌陸バックホウ 文献6)より

この方法は国鉄時代のキマロキ編成の排雪用列車からヒントを得たもので軌陸バックホウで側雪を線路内にかき寄せモータカーロータリーで線路外に投雪する。この方法で人力での作業と比べ約90[%]の作業負荷低減が見込まれる。

 

参考文献
1)服部正治 松田晴行『軌陸式油圧ショベル入門① コマツPC50UUT-2形』,新線路,48巻7号,鉄道現業社,(1994.7)
2)服部正治 松田晴行『軌陸式油圧ショベル入門② コマツPC50UUT-2形』,新線路,48巻8号,鉄道現業社,(1994.8)
3)服部正治 松田晴行『軌陸式油圧ショベル入門⑤ コマツPC50UUT-2形』,新線路,48巻12号,鉄道現業社,(1994.12)
4)服部正治 松田晴行『軌陸式油圧ショベル入門⑦ コマツPC50UUT-2形』,新線路,49巻3号,鉄道現業社,(1995.3)
5)水越湧太『軌陸BHによるつき固め』,新線路,74巻5号,鉄道現業社,(2020.5)
6)相見宏正 吉川章博 盛田達也『軌陸 BH 回転式ブレード板による機械除雪の有効性』,新線路,65巻10号,鉄道現業社,(2011.10)
7)松井軌道株式会社『ロータリカッター(草刈・伐採機)』
https://matsui-kidou.co.jp/merchandise/rotary-cutter/(2022.08.09)
8)秋元清『昭和38年度試作保線機械』,新線路,18巻5号,鉄道現業社,(1964.5)
9)久保田紀博・大野司・足達雅幸『JR九州における機械化の推進』,新線路,42巻9号,鉄道現業社,(1988.9)
10)『機械による道床更換』,新線路,43巻8号,鉄道現業社,(1989.8)