■はじめに
『鉄道工事で頻繁に使用されている軌陸トラック(軌陸車)は自動車の用途等の区分では「軌道兼用車」という特種用途自動車に分類される。』

上の文章は一面では正しいが正確ではない。
というのも特種用途自動車は8ナンバーとなるがそうではない軌陸車も「多数」存在するからである。

このコラムではこれらの軌陸トラックは一体何者なのかについて解説していきたい。
なお、後述の保安基準に触れている部分は記事執筆時点(2024年5月現在)の最新版である自動車技術総合機構(NALTEC)の審査事務規程(第56次改正)によっている。参考文献の項で規程へのリンクを張っているがリンクは常に最新の規程を参照するようになっているため後々見ると規程が改訂され書きぶりが異なっている可能性がある。その点予めご承知いただきたい。
■軌道兼用車の定義
軌道兼用車はその名の通り、道路走行で使用するタイヤの他に「線路又は軌道上を走行するための車輪を有している1)」ものを言う。
ここだけ見ると軌陸トラックは「イコール軌道兼用車」としてもいいようにも思えるが軌道兼用車と見做せる要件はこれだけではない。
軌道兼用車は誰でも保有できるわけではなく前段として「鉄道事業の許可を受けた者若しくは軌道事業の特許を受けた者又はこれらの者と線路又は軌道の維持、修繕、復旧作業等を行うことに関する契約を締結している者が、線路又は軌道の維持、修繕、復旧作業等のために使用する自動車であって2)」という条件がある。
■レンタカー会社所属の軌陸トラックの扱い
前述の日デコンドルの軌陸トラックの所属はレンタカー会社のSACOSであった。車検証上の表記は不明ではあるが車両の所有者はリース会社の可能性はあるものの少なくとも使用者はSACOS(サコス株式会社)であろう。
となると、いくら鉄道の保守工事で使用するために作られた車であっても「鉄道事業の許可を受けた者」でも「軌道事業の特許を受けた者」でも「これらの者と(中略)契約を締結している者」でもないSACOSの保有車は軌道兼用車にはなりえない、ということになる。
では「一体あの軌道走行できるダンプは何なのか?」ということになるが1ナンバーであることからもわかる通り「(軌道走行もできる)ただのトラック(車体の形状としてはエンジンが運転席の下にあるのでキャブオーバ)」という扱いとなる。
文献2)には貨物自動車と見做す条件として
特種用途自動車等以外の自動車であって物品積載設備(要は荷台)があり所定の構造要件を満たすもの
となっている3)。油圧等で駆動される軌道走行用の鉄輪が付いていたとしても特種用途自動車ではなく貨物自動車の条件を満たすものであればそれは「貨物自動車」という扱いとなり街中で見かける普通のトラックと同じ扱いをされている。すなわち
「軌道走行ができるただのトラック」というのが国土交通省によるレンタカー会社所属の軌陸ダンプの分類ということになる。
■他にもある1ナンバーの軌陸車
レンタカー会社の軌陸車は軌道兼用車扱いをされないということはお分かりいただけたと思う。
それでは鉄道会社や鉄道会社から保守を委託されている会社に所属する軌陸車は全て軌道兼用車なのかというと実はそういうわけでもない。
以下の写真を見ていただきたい。

日本リーテックはJR東日本管内ではお馴染の電気系の保守業者である。前述の「鉄道事業の許可を受けた者と線路又は軌道の維持、修繕、復旧作業等を行うことに関する契約を締結している者」の条件を満たす会社であるし3つの構造要件4)は満たしているように見える。しかしながら軌道兼用車の8ナンバーではなくキャブオーバの1ナンバーである。これはなぜなのだろうか。
これについては当該車両の要求仕様がわからないのでなぜ8ナンバーでないのか断言することはできないが、2つほど可能性が考えられる。
1.2段書き登録であるため
2段書き登録というのはあまり聞き慣れない言葉かもしれない。要は1つの車両を2つの車両状態で公道を走行できるようにするために車検場で2つの車両状態で保安基準に適合していることを確認したものである。身近な例を挙げると除雪用のトラックで夏場は除雪プラウが不要なのでプラウ付きとなしの2つの状態で車検登録したものとなろうか。
この車両は側面から見るとわかりやすいがトラッククレーンを備えた荷台付きトラックの上に高所作業装置が載っている形となっている。

見た感じ上部の高所作業装置は脱着が可能なようである。この状態ではクレーンが後方旋回できないので高所作業時には高所作業装置を付け、通常の資機材運搬時には高所作業装置を外してクレーン付きトラックとして使うという運用をしているのだろう。この場合
1.クレーン+高所作業装置の高所作業車
2.クレーン+荷台の資機材運搬車
の2つの状態で車検を取った2段書き登録ではないかと思われる。
2段書き登録についてはさておき、なぜ8ナンバーではなく1ナンバーとしたのかというと「2」の状態があるためと考えられる。
クレーン+荷台の資機材運搬車の状態で8ナンバーの軌道兼用車とした場合、最大積載量を「当該特種用途自動車の本来の用途に使用するために最小限必要な工具等を積載するための500kg以下の積載量5)」とすることもできる。しかし現場での使い勝手を考えると車両の許容限度一杯まで最大積載量を算定しておくのが妥当である。その場合、仮に8ナンバーの軌道兼用車としたとしても車検の有効期限が「普通の車両総重量8トン超の貨物自動車」の新規1年継続1年毎と変わらなくなってしまう。そうなると「敢えて」8ナンバーにするメリットがないため1ナンバーにしたのではないだろうか。
2.納入期限がひっ迫していたため
これはオーダーメイドの架装車両あるあるだと思うのだが、架装作業が遅延して納入期限に間に合わないかも!ということは珍しいことではない。これは個人的な実体験に基づくものであるが東武ファンフェスタで見聞きしたものでもある。

東武鉄道は軌陸車のナンバーを「・102(トーブ)」にすることに執念を燃やす会社で軌陸車の大半はこのナンバーである(しかも「と ・102」で揃えるというコダワリが光る)。上記車両は希望ナンバーではなかったので係員さんに尋ねたところ「架装が遅れて希望ナンバーが間に合わなかったんですよ」ということであった。
軌陸車については平成17(2005)年に起きた軌陸車不正問題の影響もあってかより慎重に審査及び検査を行うという傾向がみられる。それは審査事務規程にわざわざ「軌陸車等の架装の仕様の確認6)」という項目を設け後から装置の取り付けをしないかどうかを確認していることからも伺える。これはすなわち事前にナンバー登録を行う陸運局との提出書面の打ち合わせを行う必要があるということでもあり納入期限がひっ迫する状態で検査官からの書面に関する指摘で予定された日に検査が受けられないかもしれないというリスクを背負いこむことでもある。
一方で「軌道走行装置が付いたただのトラック」である1ナンバー登録であれば陸運局との事前の打ち合わせの義務はなく7)当日車両を持ち込んで問題がなければナンバー交付が受けられるため納期に間に合わせるという点で有利である。
納入期限に間に合わないというのは回避したい事態であるため発注者と受注者との間で1ナンバー登録でも問題ないという判断となれば敢えて8ナンバーにしないというのも妥当と言えるのではないだろうか。
この車に関しては1または2、もしくは両方の理由で1ナンバーあるのではないかと推測される。
以上、8ナンバーではない軌陸車の例を紹介したが、いかがだっただろうか。
ちなみに4ナンバーの軌陸車は数少ないながらも存在する。

今後、「あの軌陸車は何ナンバーだろうか」といった視点で見てもらうと面白いかもしれない。
注釈
1)文献1)の構造要件の1。
2)文献1)の構造要件。
3)文献2)の3 貨物自動車等 3-1。
4)文献1)の構造要件の1、2、3。
5)文献4)の7-124(10)
6)文献5) 4-23 軌陸車等の架装の仕様の確認
7)文献3) 1-3用語の定義「軌陸車等」。軌道走行できる1ナンバーのトラックはここに含まれない。
8)文献7) 4. 事前届出対象自動車(1)。軌道走行装置の取り付けには事前に書面審査が必要な改造は不要なため当日書面を提出すればよい車両となる。
参考文献
1)国土交通省『「自動車の用途等の区分について(依命通達)」の細部取扱いについて -軌道兼用車-』
https://www.mlit.go.jp/jidosha/kensatoroku/kensa/PDF/kubun-2-21.pdf
(2024.05.12)
2)国土交通省『自動車の用途等の区分について(依命通達)』
https://www.mlit.go.jp/jidosha/kensatoroku/kensa/kns07_1.htm
(2024.05.12)
3)自動車技術総合機構『審査事務規程 第1章 総則』
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/fkoifn0000000ljx-att/fkoifn0000000m1e.pdf
(2024.05.12)
4)自動車技術総合機構『審査事務規程 7-124,8-124 最大積載量』
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/fkoifn0000000ljx-att/fkoifn0000000n3d.pdf
(2024.05.12)
5)自動車技術総合機構『第 4 章 自動車の検査等に係る審査の実施方法』
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/fkoifn0000000ljx-att/fkoifn0000000m2l.pdf
(2024.05.12)
6))国土交通省『軌陸車等鉄道保線用車両の重量超過の問題への対応について』
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/09/090715_2_.html
(2024.05.12)
7)自動車技術総合機構『別添2.新規検査等提出書面審査要領 』
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/fkoifn0000000ljx-att/fkoifn0000000oab.pdf
(2024.05.12)