高倍率ズームコンデジの銘板回収能力

■はじめに
いまや保守用車撮影に欠かせない存在ともなった高倍率ズームコンデジ。
ここ近年で保守用車の調査が急速に進んだ理由の1つとして彼らの存在が挙げられるといっても過言ではない。

ではどれだけの銘板回収能力があるのだろうか。
当コラムでは代表的な機種を持ち出して比較検証した結果について紹介したい。

今回検証に使用した機材のスペックは以下の通りである。

Canon
PowerShot
SX720HS
NIKON
COOLPIX
P1000
Canon
EOS R6 +
RF24-240
iphone12
(参考)
焦点距離[mm]
(35[mm]フィルム換算)
24-960
(40倍)
24-3000
(125倍)
24-240
(10倍)
13-26
(2倍)
デジタルズーム 4倍 4倍 1.6倍
(クロップ)
5倍
幅[mm] 109.7 146.3 138.4 71.5
高さ[mm] 63.8 118.8 97.5 146.7
奥行[mm] 35.7 181.3 約200 7.4
質量[g] 270 約1415 約1430 162

保守用車鉄の中でユーザーが多い2機種をチョイスしたほか、高倍率ズームレンズ付きの一眼レフとスマートフォンでの検証も合わせて行った。

撮影条件として「どれだけ大きく鮮明に撮れるのか」を確認するため全て三脚を使用し撮影者の力量に左右されやすい手ブレの影響を排除した。そのため機種によっては手持ちで撮ると大きさは十分だが文字が読めないということも発生しうることを予めご承知おき願いたい。

 

■近距離の銘板の場合
まずは比較的近くにある車両の場合である。
駅のホームから営業線を挟んだ側線にいる保守用車を撮る時のイメージが近い。

△吉川美南駅の側線に佇むトキオのCD010A

距離はだいたい5[m]半といったところ。

△計測器本体の底部からの距離なので表示より実際はもう少し近い

 

・スマートフォン
まずはスマートフォンで撮った場合。

車両全体が写るように撮ると39[mm](デジタルズーム1.5倍)であった。

そしてデジタルズーム最大の130[mm]。

トキオの銘板であることはわかるが文字を読み取ることはできなかった。

・デジタル一眼+高倍率ズームレンズの場合
同様にデジタル一眼で車両全体と銘板を撮影した結果は以下の通りとなった。

 

これくらいの近さであれば拡大表示にしなくても銘板の情報を読み取ることができた。

・PowerShot SX 720 HSの場合
SX720の場合は以下の通りとなった。

 

 

光学ズームだけでも十分な大きさの画像が撮れ、申し分ない結果となった。

・COOLPIX P1000の場合
P1000の場合は以下の通りとなった。

 

 

3000[mm]で撮影しようとしたところ被写体までが近すぎてピントが合わないという結果となった。
5[m]も離れれば「近すぎる」とはならないと思うが近距離で大きく写すようなことは想定していないのかもしれない。

 

■遠距離の銘板の場合
望遠ズームの威力が発揮されるのはだいたいこのあたりからとなろう。

△ラフターを積んで東鷲宮保守基地で待機するCT0001

距離を測ると概ね20[m]くらい先の銘板ということになる。

被写体との距離がこれくらいというのは「よくある」といえるかもしれない。

・スマートフォン
まずはスマートフォンで撮った場合。

車両全体が写るように撮ると107[mm](デジタルズーム4.1倍)であった。

そしてデジタルズーム最大の130[mm]。

辛うじて新潟トランシスの銘板であることがわかるが内容は読み取れない。

・デジタル一眼+高倍率ズームレンズの場合
同様にデジタル一眼で車両全体と銘板を撮影した結果は以下の通りとなった。

 

銘板を撮るには240[mm]は物足りなく思えるが内容を読み取ることができた。

・PowerShot SX 720 HSの場合
SX720の場合は以下の通りとなった。

 

 

銘板情報も鮮明に読み取ることができ、申し分ない結果となった。

・COOLPIX P1000の場合
P1000の場合は以下の通りとなった。

 

 

 

 

銘板の文字が打刻されている様子もわかる描写能力であった。

 

■超遠距離の銘板の場合
最後に超遠距離の銘板を狙った結果について紹介する。

△金町の定位置にいる青いMFS50

距離を測ったところ35[m]くらいということだった。

35[m]も先の10[cm]角の銘板を普通は狙おうと思わないだろう。

・スマートフォン
まずはスマートフォンで撮った場合。

車両全体が写るように撮ると横に長い車体であることもあって53[mm](デジタルズーム2倍)であった。

そしてデジタルズーム最大の130[mm]。

特徴のあるプラッサーアンドトイラーの銘板であることがわかるが内容はわからない。

・デジタル一眼+高倍率ズームレンズの場合
同様にデジタル一眼で車両全体と銘板を撮影した結果は以下の通りとなった。

 

流石に銘板情報はこの距離だと無理ではと思っていたが撮りやすいプラッサーの銘板とはいえ読める程度に撮れていたことに正直驚いた。

・PowerShot SX 720 HSの場合
SX720の場合は以下の通りとなった。

 

 

銘板に書かれた文字も概ね読めるほどクリアに撮ることができた。

・COOLPIX P1000の場合
P1000の場合は以下の通りとなった。

 

 

 

 

とても35[m]も離れているところから撮っているとは思えない結果となった。

 

■暗所性能の比較
高倍率コンデジは2機種とも優秀な性能を見せた。
ただいつも晴天で良い条件での撮影というわけではない。

参考までに暗所での撮影した時の結果についても取り上げる。

△ロケ地:新宿駅5・6番線ホーム、被写体:同7・8番線ホーム階段裏にいるCK80URT-3(SACOS所属)

SX720、P1000ともにISO400で1000[mm]前後の焦点距離で撮影した。
この場所は日中でも暗いのだが2機種ともAFは正常に動作した。

まずは2機種で撮った車体全体とその等倍切り出しを見ていただこう。

次に銘板とその等倍切り出し。

SX720はP1000と比べるとコンパクトであるがゆえに明るさが不足するかと思われたが1000[mm]付近の開放F値の差(P1000のF5.6に対してSX720のF6.9)以上のものは見られなかった。
銘板撮影時のシャッタースピードはP1000が1/2秒、SX720が1秒で、体感では1段差くらいに思われた。

 

■SX720はP1000の完全互換なのか
テスト前の予想を覆して良好な結果を見せたSX720。
この結果を見て「大柄なP1000がなくてもSX720があれば十分なのでは?」と思った方もいるだろう。
ただ光学ズームで足りずデジタルズームが必要な難しい条件となった時に2機種の間に境界線ができることがある。

以下は逸脱防止ガード運搬編成用搬送台車の銘板を狙った結果である。

△逸脱防止ガード運搬編成用搬送台車

まずはSX720。

前述の新潟トランシスやプラッサーアンドトイラーと比較すると三東&三井物産の銘板は読み取りにくいので条件としては厳しい。
結果、銘板に書かれた文字は概ね読めるが、製造年月や製造番号の打刻の読み取りはできなかった。

一方P1000はというと

条件としては霧雨が降り始めてしまった分良くなかったが製造年月の「H25 2」や製造番号の「13MK046」といった打刻を読むことができた。

P1000は嵩張る上重いのは事実だが、光学性能にやはり差がありこういった難しい状況では歴然とした差が出ることもあるのもまた事実と言える。

あとは携帯性や「どこまでの銘板回収性能を求めるか」によってどちらが自分のスタイルに合っているかで判断してもらったらよいのではないかと思う。

 

■おわりに
いかがだっただろうか。

一眼+高倍率ズームがあれば遠くの銘板でもそこそこ撮れたという結果となった。
しかしながら製造メーカーによって同じ距離でも銘板回収の難易度は異なるのは事実で難易度が高い銘板を回収するためにこうした「銘板回収に特化したコンデジ」を準備しておくといざという時に「撮れなかった!」ということがなくて良いかもしれない。

皆さんの機材選びの一助となれば幸いである。