近畿車輛の軌道モータカー

(写真:K-3型軌道モータカー KKS-7号機)


■概要
大手鉄道車両メーカーとして著名な同社であるが、保守用車の製作事例は極めて珍しく、軌道モータカーにおいては親会社である近畿日本鉄道(近鉄)向けの下記3機種しか確認されていない。

■K-3

養老線で使用されていた頃のKKS-8。屋根が増設された晩年の姿である。
沖田 祐作『機関車表』,2014,ネコ・パブリッシング,p11409より引用。

昭和37(1962)~38(1963)年にかけて天王寺営業局(南大阪線系統)および名古屋営業局(名古屋線系統)へ3台導入された。
当時近鉄が保有していた日本車輌製バラストクリーナーの牽引および電源用としての使用が主目的であり、40KVAの交流発電機を1台搭載しているため近鉄では発電型モーターカーと呼称していた。なお近鉄では同目的の発電機搭載モーターカーであるK-2型を三東に競作させている。
近鉄における機械番号はKKS-6~8が付与されている。1)
三東製K-2型は昭和48(1973)までに全廃され2)、日車製バラストクリーナーも成績が芳しくなく稼働も減っていったが、本機種は平成3(1991)年時点で全個体が健在であった。2)天王寺局配備の2台はこの時点でKKS-7が上本町局、KKS-8が名古屋局へ転属しており、前者は伊賀線、後者は養老線で使用されていた。KKS-8については昭和末期~平成初頭頃に発電機部が改造され屋根が装備される等形態が変化したが改造内容の詳細は不明である。松田(2002)によるとこの個体が最後の現役個体となった模様で、90年代後半~00年代初頭に廃車されK-3型は全廃となった。

■中型軌道モータカー
奈良線新石切~生駒間で建設中であった新生駒トンネルの工事用として昭和39(1964)年に上本町営業局(大阪・奈良線系統)に1台が導入された。3)機種名が不明であるため4)、本記事では近鉄の社内呼称である中型軌道モーターカーとして解説する。
工事用であるため100tもの牽引性能が確保されており、諸元についてもK-3型と比較してやや大型化しており制動装置も油圧式から空気式へ変更されている。当初は動力伝達装置に欠陥があったものの改善され、翌年には名古屋局向けに1台が増備されている。近鉄における機械番号はKKS-1~2が付与された。
当初は2台とも発電機は装備していなかったが、名古屋局配備のKKS-2は昭和40(1965)~45(1970)年頃に40KVAの交流発電機1台が増設され3)、近鉄の社内呼称も中型発電機付軌道モータカーへと変化した。2)平成3(1991)年時点では全車健在であったが2)、その後廃車となり松田(2002)では現存を確認していない。

上記2機種は諸元が判明しているので下記表にまとめた。

形式名 近鉄社内呼称 機械番号 購入年月 自重(t) 最大寸法
(L×W×H)
最高速度 作業能力 原動機 駆動軸数 軸間距離 制動装置 発電機 昭和45年現在の所属 平成3年現在の所属
K-3 発電型軌道モーターカー KKS-6 昭和37(1962)年10月 3.5 5.4×2.2×2.2 50km/h 水平線最大牽引力15t いすゞディーゼル水冷125HP 1軸駆動 2.7 油圧式2輪作用
および手動式
交流発電機
40KVA 1台
名古屋 名古屋
KKS-7 昭和37(1962)年12月 天王寺 上本町
KKS-8 昭和37(1963)年3月 天王寺 名古屋
不明 中型軌道モーターカー KKS-1 昭和39(1964)年10月 7.5 6.4×2,2×2.8 45km/h 水平線最大牽引力100t いすゞディーゼル水冷125HP 2軸駆動 2.7 空気式2輪作用
および手動式
なし 上本町 上本町
中型発電機付
軌道モーターカー
KKS-2 昭和40(1965)年2月 交流発電機
40KVA 1台
名古屋 名古屋

春永・小林(1970)第1表を基に作成。表中の「発電機」の項は小林(1975)から、「近鉄社内呼称」「機械番号」「購入年月」「機械番号」「平成3年現在の所属」の項は近畿日本鉄道(1991)から引用した。

■標準型軌道モーターカー

KKS-9 沖田 祐作『機関車表』,2014,ネコ・パブリッシング,p11407より引用。

平成2(1990)年9月に上本町局へ1台が導入された。こちらも機種名不明であるため、近鉄における社内呼称である標準型軌道モーターカーとして解説する2)。機械番号はK-3の続番であるKSS-9が付与されている。
近車製モーターカーとしては30年ぶりかつ最後の製作例である。令和6(2024)年時点で現存を確認できておらずおそらく廃車になったものと思われる。諸元が判明しておらず性能についても不明である。

■参考文献
1)春永駒男・小林陽三『保線作業機械化の現状と方向について』,近畿日本鉄道技術研究所技報,2巻1号,(1970.12)
2)小林陽三『新しい保線機械と道床改良作業システム』,近畿日本鉄道技術研究所技報,7巻1号,(1975.12)
3)松田務 『MC ~一般形モーターカー見聞録~』,トワイライトゾ~ンMANUAL11,ネコ・パブリッシング(2002)
4)近畿日本鉄道株式会社『保線機械経歴一覧表 平成3年4月現在』,(1991)

■脚注
1)三東製K-2型モーターカーも近鉄社内では発電型軌道モータカーと呼称され、機械番号はSTK3~5が与えられた。K-3型はその続番から付与されている。
2)近畿日本鉄道鉄道(1991)
3)小林(1975)
4)春永・小林(1970)および小林(1975)には発電型軌道モータカーについてはメーカー側の機種名と思われる「K-3」の記載があるが、中型軌道モータカーについては記載がない。引用元の表においても本機種だけ機種名の欄が空欄である事から、メーカー側の機種名が設定されていない可能性がある。