△電気作業車 『電気作業車』,鉄道電気,18巻,3号,鉄道現業社,(1965.3)より
■概要
1965年に富士重工が製作した新幹線用電気作業車である。
作業車とトロに水タンクを積んだタンク車の2両1編成にて組成される。
従来は軌道モータカーに”やぐら”を組んで作業を行っていたの対し、高所作業機を備えることで作業性を大きく向上させた他、高速走行を可能とするため一軸台車を採用するなど現在の電気作業車の元となる形となった。
■開発
従来工法となる”やぐら”を組んだモータカーとトロによる架線作業工法は1928年頃に出現し、東海道線 小田原~熱海間電化工事から1964年の東海道新幹線新設工事まで、またそれ以降の工事でも広く使用されていた。
東海道新幹線ではその後の保全作業を効率的な物とするため、強力な足回りと専用の作業装置を装備した電気作業車が開発された。
△電気作業用軌道モータカー(新幹線用)電車線工業のあゆみ編集委員会『電車線工業のあゆみ』電車線工業協会,(1983.9)より
・高所作業機
油圧操作式の高所作業機で、ブームの起伏・旋回・伸縮を行うことで空中を自在に移動することができる。
最高床面高さはレール面から7,200[mm]、作業半径は5,250[mm]であり、隣接線の作業を行うことも可能である。
△隣接線での作業 中谷菊男『新幹線の電気作業車』,新線路,19巻,4号,鉄道現業社,(1965.4)
・洗浄装置
電車線と地上を絶縁する碍子は表面に汚れや塩分が付着し汚損することで絶縁性能が低下する。
この対策として電気作業車はタンク車を連結することで碍子等の洗浄を行うことが出来る。
タンク車は作業車より電源供給を受け、給水ポンプによる給水・注水ポンプによる作業車への送水を行う。
作業車には敷地外への水の飛散による影響を抑えるため軌道外側から内側へ放水を行う他、噴霧針状ノズルの放水銃を採用している。
△作業イメージ 『電気作業車』,鉄道電気,18巻,3号,鉄道現業社,(1965.3)より
このタンク車1編成で架線延長60[km]分の作業が行えることから、台風などの碍子の急速汚損が上下線合計400[km]発生したと仮定した場合に7[両]が必要と両数根拠として算定された。
これに保守の組織、東海道新幹線沿線の汚損度分布状況が考慮され全線に作業車を16[両],タンク車を9[両]配置するのが妥当とされた。
△架線作業車及びタンク車配置計画(案) 『新幹線25kv電車線路及び車両用がいしの保守に関する研究』,日本鉄道電気技術協会
・台車
保守基地の間隔が広い新幹線での使用にあたり、従来の保守用車で使用していたリンク式の走り装置ではなく高速性能が高い一軸台車を採用している。
動力性能上は90[km/h](水平線,単車積載)が最高速度であるが、試運転時には最高速度110[km/h]を記録している。
・駆動装置
機関、トルクコンバーター、逆転機、変速機、プロペラシャフト及び最終減速機を経て車輪に動力を伝える2軸駆動方式である。
エンジンにはTMC200系列と同様のいすゞ DH100TP、トルクコンバーターに新潟コンバーター 8A-1500MR-2、終減速機は減速比2.19の物が採用されている。
■諸元
作業車 | タンク車 | |
長さ(連結面間) | 6,905[mm] | 7,050[mm] |
幅 | 3,000[mm] | 2,636[mm] |
高さ | 2,700[mm] | 2,417[mm] |
軌間 | 1,435[mm] | 1,435[mm] |
軸距 | 4,000[mm] | 4,000[mm] |
車輪径 | 762[mm] | 762[mm] |
自重 | 15.5[t] | 6.4[t] |
積載 | 2.0[t] | 6.5[t] |
■エンジン
エンジン名称 | いすゞ DH100TP |
エンジン形式 | 水冷4サイクル 6気筒 過給機付 |
エンジン出力 | 160[PS]/1,800[rpm] ※ |
※ JIS規格の呼称変更により新表示では185[PS]
■トルクコンバーター
名称 | 新潟コンバーター 8A-1500MR-2 |
■制動装置
作業車 | タンク車 | |
主ブレーキ方式 | 自動空気ブレーキ | 自動空気ブレーキ |
補助ブレーキ | ネジ式手ブレーキ | 側ブレーキ |
■転車装置
油圧昇降旋回手押式 |
■横取装置
手動テコ押式 |
■発電機
出力 | 35[kVA] |
電圧 | 三相交流 200[V] |
周波数 | 60[Hz] |
■作業台
最大高さ | 7,200[mm] |
作業半径 | 5,250[mm] |
対応カント | 180[mm] |
最大起伏角度 | 55[°] |
ブーム段数 | 2[段] |
作業台安全荷重 | 300[kg] |
ブーム旋回角度 | 300[°] |
起伏速度 | 1.5[°/s] |
伸縮速度 | 150[mm/s] |
旋回速度 | 6[°/s] |
参考文献
1)『電気作業車』,鉄道電気,18巻,3号,鉄道現業社,(1965.3)
2)中谷菊男『新幹線の電気作業車』,新線路,19巻,4号,鉄道現業社,(1965.4)
3)電車線工業のあゆみ編集委員会『電車線工業のあゆみ』電車線工業協会,(1983.9)
4)『新幹線25kv電車線路及び車両用がいしの保守に関する研究』,日本鉄道電気技術協会
5)『鉄道電気産業史』,日本鉄道電気技術協会