写真:Track Maintainer
Jackson Vibrators「the JACKSON TRACK MAINTAINER 1962」『International Railway Journal』1巻11号,1961年,p.7.より
本項では、アメリカ・Jacksonが開発したマルチプルタイタンパーとその系譜について述べる。
表:Jackson社の変遷
1922年 | Corwill Jacksonが米ミシガン州ラディントンにてElectric Tamper and Equipment Companyを設立1) |
1937年 | Jackson Vibratorsを設立(Electric Tamper and Equipment Co.と併存)2) |
1960年 | O.F. Jordanを買収・合併しJackson Jordanとなる3) |
1990年 | Jackson JordanはPandrol Internationalに買収され、Pandrol社の保線機械部門・Pandrol Jacksonとなる2) |
1999年 | Pandrol JacksonはHarscoに買収され、Harsco社傘下の保線機械部門・Fairmont Tamperと合併しHarsco Railとなる2) |
Jackson社は上記の変遷を経ており、現在ではHarsco Railに合流している。本稿および本項以下のページでは、Electric Tamper and Equipment Co.設立からHarsco Rail発足より前を総称して「Jackson社」と呼ぶこととする。
■概要
Jackson製Multiple Tie Tamperの広告
ELECTRIC TAMPER & EQUIPMENT CO.「JACKSON MULTIPLE TIE TAMPERS」『Railway Engineering and Maintenance』47巻5号,1951年,p.422.より
1922年にCorwill Jacksonがアメリカ・ミシガン州ラディントンで設立したJackson社は、タイタンパーをはじめとする電動モーター駆動の鉄道・建設用機械を製造していた。
Jackson社は1947年、車両型の自走式道床つき固め機を発表する。欧州で先行していた同種の機械とは異なり、こちらは手持ち式の電動タイタンパーを多数取り付けたタンピングユニットをバラスト道床へ挿入する仕組みであった4)。Multiple (Tie) Tamperと名付けられたこの小型な電気式マルタイは戦後の北米で急速に普及し、1953年には50以上の鉄道事業者で使用されるまでに広まった5)。
1950年代の文献における自走式道床つき固め機の表記例
Jackson以外のメーカー製品も含めて、Jackson製品に由来する「マルテイプルタイタンパー」の名で表記されている
尾台 三吉「マルティプルタイタンパーについて」『施設教育』6巻10号,1953年,pp.13-15.より
日本では戦後、国鉄は保線作業の機械化を推し進めるため、欧米製の自走式道床つき固め機について積極的に情報収集していた。その中でJackson製品は「マルチプルタイタンパー」と訳されて日本へと紹介されることとなる。結果的に国鉄が日本最初のマルタイとして1954年に導入したのはMATISA・Standardであったが、この過程で「マルチプルタイタンパー(マルタイ・MTT)」というJackson製品に由来する語が、日本において自走式つき固め機を指し示す普通名詞として定着するに至った6)。
Jackson製マルタイの形態は時代を経るごとに、外観が馬車のような曲線的な屋根→簡易な柱で支えた平たい屋根→密閉式キャビン、タンピングユニットがアーム2本・丸パイプ製→アーム4本・丸パイプ製→アーム4本・角パイプ製、とおおむね変化している。現在でもHarsco Railから6700 Tamperなど、Jackson由来のマルタイが発売されている。
「マルタイ」という語の由来となった一方で、日本への導入例は少なく、1950~60年代に4機種が、1990年代に1機種が確認されている。
■機種
日本へ導入された機種は以下の通り。
伊能 忠敏「新型マルタイ(ジャクソン)」『新線路』13巻12号,1959年,グラフp.より
国鉄の東京操機工事事務所へ導入された。ツールは12本。
日本国有鉄道 『新幹線’62』,1962年,日本国有鉄道,p.9.より
東海道新幹線建設時に国鉄へ導入された。ツールは4本。
富士物産株式会社「自動レベリング装置付ジャクソントラックメンテナー」『鉄道線路』12巻8号,1964年,p.後付19.より
東海道新幹線建設時に国鉄へ導入された。ツールは8本で自動レベリング装置に対応。
山本 陽一「ヤードタンパー」『新線路』18巻12号,1964年,グラフp.より
東海道新幹線建設時に国鉄へ導入された。ツールは4本で分岐器対応型。
松田 務「腐ってもマルタイ:今、明かされるマルタイのすべて…」『トワイライトゾ~ンMANUAL』5号,1996年,pp.190-209.より
山形・秋田新幹線建設時にユニオン建設へ導入された機種。
■文献
1)Ludington Daily News「JENSEN: Inventors of Mason County」https://www.shorelinemedia.net/ludington_daily_news/news/opinion/columnists/jensen-inventors-of-mason-county/article_d8d6ce0a-9b2d-58c5-a543-20c000eaf013.html(2025年2月15日取得).
2)Harsco Rail「History」https://harscorail.com/about-us/history/(2025年2月15日取得).
3)JORDAN SPREADER「O.F. Jordan Company History」http://www.trainweb.org/JordanSpreader/history.htm(2025年2月15日取得).
4)Simmons-Boardman Publishing「Multiple Tamper」『Railway Age』122巻18号,1947年,p.889.
5)ELECTRIC TAMPER & EQUIPMENT CO.「JACKSON MULTIPLES」『Railway Track and Structures』49巻3号,1953年,p.207.
6)在羽 テヌヒト『なぜ自走式道床つき固め機を 「マルチプルタイタンパー」と呼ぶのか:おフミさんの研究ノートNo.2』,2023年,交現社在羽製作所.