B 40

写真:JR東日本から東鉄工業へ移管されたB 40 DE

 


 

B 40はMATISA製のマルチプルタイタンパーである。本記事では日本に輸入されたB 40 DE並びにB 40 UEB 40 UEGについて取り扱う。

 

■概要

B 40 UE側面図
白井,文献20より

B 40はB 200の後継機種に当たる。前後運転台とタンピングユニットおよび2軸ボギー台車の配置はB 200の形態を継承しているが、タンピングユニットとレベリング・ライニング機構に大幅な改良が加えられた。

 

(1)タンピングユニット

高周波楕円運動方式タンピングユニットの概要図
(よこすかYYのりものフェスタ2019の展示より 提供:まさ405)

 

(左)従来のタンピングユニット(B 85のもの、白井 国弘『保線機械の取扱と事故防止:マルチプルタイタンパ』1973年,アース図書,p.49より)
(右)高周波楕円運動方式タンピングユニット(泉北高速のB 20 AC-75のもの、よるきゅう氏提供

本機種より高周波楕円運動方式タンピングユニットが搭載されるようになった。従来は一つの偏心軸で片側のユニット全体を振動させていたが、B 40以降は向かい合ったタンピングツールそれぞれの支点に偏心軸が組み込まれる方式となった。また振動数が従来の2160rpm(36Hz)から2700rpm(42Hz)に引き上げられた。この改良により、つき固め可能なバラスト量やつき固め速度がさらに向上した1)

 

B 40 DEのタンピングユニット構造図
白井,文献2より

B 40 DEは一般軌道用機(ラインマルタイ)で、タンピングユニットは従来のダブル機と同じく2丁づき32頭式である。ガイドローラーにより曲線部でも常にレール中心に位置を合わせる仕組みとなっている2)

 

B 40 UEのタンピングユニット構造図
白井,文献2より

B 40 UEは分岐器対応のスイッチマルタイで、タンピングユニットは従来機よりも更に複雑な構造となっている。分岐器などの障害物を避けるためにユニットをレール左右方向に横降りする仕組みはB 133より引き継がれているが、B 40 UEではさらに、横に並んだ2本1組のツールを広げた状態(幅280mm)または重ねた状態(幅160mm)に変更できる構造となった。こうした工夫により、非常に幅の狭い部分や急曲線でもツールを挿入できる。ツール開き幅の調整や、前/後ユニットのみのつき固め操作も可能である3)

 

展開状態のB 40 UE防音カバー

なお、防音カバーもツユニットの横振りに合わせて展開することができる。

 

(2)レベリング・ライニング機構

レベリングのための検測は従来、ワイヤーなどの機械式検測機構を用いていたが、本機種より全面的に光学式検測を用いたものに改められた。

 

B 40の検測トロリー配置図(左)と高低検測の概要図(右)
左右の図で前後が逆になっている点に注意
(左)白井,文献2より,(右)白井,文献5より

レール高低の検測方法は上図のとおりで、A点の検測トロリーに赤外線投光器が、B点に遮光板が、C点に赤外線受光器がそれぞれ取り付けられている。受光器は上下に2つあり、3点の高さが揃えば両方が同じ光量を受ける。レールの高低に狂いがあれば上下で光量に差が発生するため、光量が揃うまでレールをリフティング装置でこう上する、という仕組みである4)

なお、リフティング装置は一般軌道ではローラークランプを、分岐器部ではフッククランプを使用する5)

 

B 40の水準検測概要図
白井,文献5より

またレール水準の狂いは、B点検測トロリーの傾きをシャフトでC点の平面性用トランスデューサーに伝えることで検出する。トランスデューサーが発生する電位差は事前に設定されたカント設定スイッチなどが発生させる電位差と総合され、リフティング装置のサーボバルブに通電することで必要量のこう上が行われる仕組みである6)

 

B 40の通り検測概要図
白井,文献7より

ライニング用の通り検測装置は従来通りのワイヤー方式であるが、トレーラーワゴン(後述)を装備しているものはA~Dの4点での検測が可能であり、2組の装置の検測結果を合成する仕組みとなっている7)

 

(3)その他の装備

B 40 UEのトレーラーワゴン

B 40ではオプションとして以下の装備を取り付けることができる。

記録装置:検測された①正矢、②高低、③カント、④軌間、⑤平面性の各項目の変化量を自動的に記録紙へチャートとして出力できる8)

トレーラーワゴン:1軸式の付随車。D点検測車輪、タンピングユニット散水用タンク(約1000ℓ)、後部自動連結器およびピンリンク式連結器、バイブレーションコンパクタ、後部照明装置、応急用ジャッキ、トレーラー用脱線復旧装置などを装備できる9)

バイブレーションコンパクタ:タンピングと同時にマクラギ端周囲の道床を締め固める10)

脱線復旧装置:脱線した場合、油圧式の昇降シリンダーと横送りシリンダーで線路へ復帰させる11)

逸走防止装置:一定時間毎に警報を発し、これに応じない場合緊急ブレーキがかかる。また、ブレーキを掛けずに席を離れたり、エンジンを停止させたりすると緊急ブレーキが掛ける12)

 

■運用

日本におけるB 40の導入事例は大半がB 40 UE(およびUEG)で占められている。これは導入した各社が1990年代初頭に、分岐器・脱線防止ガード・ATS地上子などの障害物や、急曲線区間に対応したマルタイを探していたことに由来する。

 

JR東日本のB 40 UE

本機種を日本で最初に導入したのはJR東日本であった。1989年を「機械化元年」と位置付けて保線機械化を推進していたJR東が、分岐器つき固めの機械化策として1990年3月に品川保線区へ配置したB 40 UEが輸入第1号機となった13)。その後、JR東はB 40 UEおよびB 40 DEを複数輸入しており、これらは後に保線業務の外注化に伴い各軌道建設会社へ移管された。

そのほか、京阪が1991年にB 40 UEGを14)、1993年にJR九州15)と相鉄16)がB 40 UEを、また1993年以前に大阪市交通局がB 40 UE17)を導入している。

なお、JR東日本管内で使われた個体には再輸出例が存在する。少なくとも2台のB 40 DEがインドネシアへ輸出されているほか18)、MATISAのフランス法人でB 40 L(日本には輸入例のない、短車体のシングル機)のオーバーホール時に、第一建設工業で使用された個体のパーツが流用されたことがある19)

現在、国内に現存するB 40は高萩駅近くに保管されている1台のみである。

 

■諸元

代表的な諸元は以下の通り20)

全長(車体のみ) 18.280[m]
全長(トレーラー含む) 22.755[m]
全幅(防音カバー内) 2.700[m]
全高 3.860[m](エアコン含め3.900[m])
自重 48.68[t]
作業能力 570[m/h]
タンピングツール UE・UEG:1丁づき16頭
DE:2丁づき32頭
レベリング能力 こう上力2×12.5[t]
最大こう上量150[mm]
ライニング能力 ライニング力12.5[t]
最大ライニング量±200[mm]
ツール振動数 2700[rpm]
エンジン GM 8V-92TA 8083-7400 420[PS]/1800[rpm]
コンプレッサー Westinghouse Tu-Flo500 7.0~8.1[kg/cm^2]
自走速度(回送時) 80[km/h]

 

■脚注・文献

1)小倉 賢治「マルタイの概況」『新線路』41巻10号,1987年,pp.24-28.MATISA Matériel Industriel S.A.『TOOLS FOR TAMPING MACHINES』https://www.matisa.ch/jp/matisa-tools-tamping.php(2023/06/25取得).

2)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(2)」『新線路』47巻4号,1993年,pp.36-40.

3)白井,前掲2.

4)白井,前掲2.

5)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(3)」『新線路』47巻6号,1993年,pp.42-45.

6)白井,前掲5.

7)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(4)」『新線路』47巻8号,1993年,pp.24-27.

8)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(6)」『新線路』47巻12号,1993年,pp.36-39.

9)白井,前掲8.

10)白井,前掲8.

11)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(7)」『新線路』48巻3号,1994年,pp.26-31.

12)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(8)」『新線路』48巻5号,1994年,pp.29-31.

13)杉山 真一郎「分岐器用マルタイの導入」『新線路』44巻5号,1990年,pp.14-17.

14)岩井 利昭「マルタイの更新」『日本鉄道施設協会誌』30巻2号,1992年,pp.25-26.松田 務「腐ってもマルタイ:今、明かされるマルタイのすべて…」『トワイライトゾ~ンMANUAL』5号,1996年,pp.190-209.B 40 UEGは脱線防止ガード対応機とされるが,UEとの詳細な違いは不明.

15)鉄道現業社「JR九州に新型マルタイが導入される」『新線路』47巻8号,1993年,p.58.

16)渡辺 勝美「線路施設と保線」『鉄道ピクトリアル』49巻臨時増刊号,1999年,pp.39-40.

17)阪本 享司「線路と保線」『鉄道ピクトリアル』43巻臨時増刊号,1993年,pp.50-52.

18)Indonesian Railway Preservation Society『Safari Balai Yasa Mekanik Cirebon, Maret 2023』https://irps.or.id/2023/03/safari-balai-yasa-mekanik-cirebon-maret-2023/(2023/06/26取得).

19)MATISA FRANCE『Bourreuse de ligne simple tête type B 40 L』https://www.matisa.fr/lightbox/?pid=754(2023/06/26取得).

20)白井 國弘「新型マルタイ入門:マチサB-40形式(1)」『新線路』47巻2号,1993年,pp.28-33.

 


 

■B 40 DE

 

■B 40 UE