オートマルタイ

(写真:オートマルタイT-2。背後の風景から芝浦製作所の試走線で撮影された写真と思われる。)


■概要
レベリング装置付きのマルチプルタイタンパーは1950年代後半頃より欧州で開発が始まり、昭和34(1959)年には世界初のレベリング装置搭載機であるVKR-04がPlasser&Theurerによって開発された1)。MATISAやTAMPER等他メーカーでも実用化が相次ぎ、日本においても昭和37(1962)年に新幹線建設工事用としてMATISA BN 60が導入された。
翌年より国鉄と鉄道技術研究所2)では自動レベリング装置付きマルチプルタイタンパーの研究が開始され、最終的には昭和45(1970)年に登場したMTT-25AKとして実用化に至る。
先述の通りこの研究は国鉄主導で行われたが、最終的には芝浦製作所との共同開発という形となり、同社の製品として昇華している事から、当サイトでは芝浦製作所製のマルチプルタイタンパーとして取り扱うものとする。
T-1~4の4機種が試作されたが、製作当時から全てまとめて「オートマルタイ」「自動マルタイ」と呼称される機会が多かった事から、当サイトにおいてもこの呼称を用いる。

T-1

完成直後のお披露目時の撮影と思われるT-1 伊能・秋元(1963.5)図AおよびBより引用

昭和37(1962)年に国鉄浜松工場で開発された3)記念すべき最初の試験機である。国鉄保有のMATISA B 27に装着する形で試験を行っており、この機種のみ開発に芝浦製作所が関わっていない。

T-1のレベリング機構 伊能(1963.5)図2より引用
レベリング機構は、上記図の通り既に搗き固められたC-D点間に存在する2組のトロリーを高低の基準とし、トロリー間を結んだロッドとB点が水平になるまでこう上する。水準に関してはCトロリーの直上に搭載された振り子を基準とした。
ロッドを基準とするレベリング作業は繰り返すうちに誤差が累積する懸念があり、これの修正のためA点に平均こう上量を足したA’点とB点間である程度の誤差が出た場合、検出と修正を行う制御記憶装置を搭載している。光源車等車体から離れた位置に居るトロリーを設けない点、ロッドを基準として高低検出を行う点など、当時国内に存在した唯一のレベリング装置搭載機であるMATISA BN 60との類似点が多く、伊能(1963.5)でもBN 60のレベリング機構を参考として本機種を説明している。

試験の結果、予想通り累積誤差が認められた上、誤差も3mm~5mmほどと大きく、続くT-2では全体的な構造の見直しが迫られた。

T-2


(上)T-2全景。車体直上の光源~スリット~受光器と床下に見える測定桿に注目。
(下)T-2の全体図。 河村・篠田・中山・林・遠藤(1970.10)図2.2aおよびbより引用

昭和40(1965)年に開発された2番目の試験機である。MTT-17Bをベース車として開発されており、本機種より芝浦製作所との共同開発機となった。光源車、油圧ユニット、本体、検出車の編成で構成され、光源車~検出車間には光源~スリット~受光器が搭載されている他、本体のタンピングユニット直下に設置された測定車輪と検出車の間には測定桿(かん)と呼称されるロッドが配架されている。
これらの機構を用いて下記3方式のレベリング機構の試験が繰り返された。

水準検出方式 高低検出方式
A方式 左右測定車輪の高低差を測定桿の回転角に変換し、検出車に搭載された水準器に伝達され水準を検出する 光源から照射された光が~スリット~受光器間で一直線となるまでこう上を行う
B方式 測定車輪の軸上に搭載された水準器で、タンピング箇所の水準を検出する A方式と同じ
C方式 A方式と同じ 測定桿の前後に水準器を搭載し高低の狂い量を検出する

試験の結果B方式以外は要求精度に達する事が確認された。
C方式は測定桿の回転角を基に水準と高低を水準器で検出していたが、両者の変換のために関数の設定が必要な事、変換の際のオーバーシュートが原因で高低レベリングの仕上がりに影響を与える事が問題視された。このためA方式の発展形として続くT-3形が開発される運びとなった。

T-3

T-3全景。光源と受光器が各2個となっており、測定桿は廃止された。
河村・篠田・中山・林・遠藤(1970.10)図2.3aより引用

昭和42(1967)年3月に完成した3番目の試験機である。T-2と同様MTT-17Bをベースとしており、T-2に引き続き光源車~本体~受光器で構成されているが、線路中央に一筋の光線を通していたT-2と異なり、光源と受光器が各2個となる様改良されている。

T-3のレベリング機構。河村(1968.8)図7より引用

レベリング機構は上記の通り、左右いずれかの光源を基準とし、受光器2個との間に三角形の光平面を作る。光源と受光部は水準器とサーボバルブによって水平が確保されており、この光平面をスリットを通過するようになるまでレベリングを行うものである。

T-3形では曲線通過時に受光部直下に設置された測定車輪からカント量を計算し、カントに応じてスリットの高さを適正位置に制御できる縦曲線・緩和曲線・円曲線自動装置が新規開発され搭載されている。

T-4


(上)T-4全景 光源車とレベリング機構が装備されたMTT-21という雰囲気である。
(下)T-4の全体図。 河村・篠田・中山・林・遠藤(1970.10)図1.1および図4.1より引用

昭和44(1969)年4月に完成した4番目の試験機であるが、実用機第1号として製作され、ベースも電マルで当時最新機種であったMTT-25となっている。機種名はMTT-25AKと命名され、その後国鉄や私鉄各社へ大量に納入されたMTT-25AKシリーズの元祖となった。
レベリング機構はT-3のものと同一であり、曲線自動装置も搭載されている。その他の装置はMTT-25と同一で、従前の試験機に搭載例が無かった転車装置も搭載されているが、タンピングユニットに油圧モーターが追加され、タンピング方式が重マルと同様の振動押込形に改められており、キャビンの2-4位側の窓ガラスが1枚物に変更されている。

本機種は完成後に国鉄の東京西局へ納入され、実際に道床搗き固め作業に使用された事が確認できる。4)国産レベリング装置搭載マルタイの実用機第1号としての務めを見事果たした記念碑的存在の機種といえる。

■参考文献
1)伊能忠敏・秋元清『軌道面自動調整装置』,新線路,17巻5号,(1963.5)
2)伊能忠敏『自動マルタイ』,新線路,17巻5号,(1963.5)
3)河村浩『マルチプルタイタンパ用自動レベリング装置』,鉄道線路,16巻8号(1968.8)
4)河村浩・篠田源治・中山泰喜・林盈司・遠藤英男『オートマルタイ』,鉄道技術研究報告,732号(1970.10)

■脚注
1)Plasser&Theurer『The path to exemplary working efficiency』 https://www.plassertheurer.com/en/company/history,(2024年12月31日閲覧)
2)当時は国鉄が運営する国鉄の内部組織であった。
3)伊能・秋元(1963.5)
4)河村・篠田・中山・林・遠藤(1970.10)p54