■概要
トンネル中央通路ではトンネル内点検を目的とする巡回車の他にも、夜間作業において人員及び資機材を運搬する車両が存在する。
これらの車両は長大トンネルの坑口から作業現場までの長い移動距離を移動する為のものであった。本車は上記の用途での専用車両として大鉄工業で2014年より開発され、2018年に完成した車両である。
製造は自動車向けのトレーラーを製造している両備ホールディングス(SOREX)であり、JR西日本管内に配備されている。
■導入背景
元よりトンネル中央通路の運搬機械としてはテーラーにガイド輪を付けた車両などを配備していたが、
・一方向にしか進めず、方向転換の際に人力で持ち上げて方向転換する必要があり、挟まれ等の労働災害のリスクがあった。
・交換部品の供給が終了している部品もあり修繕に苦慮している。
・機械故障に起因する作業中止のリスクがある。
の課題があった。
この課題解決を張るため、下記を基本コンセプトとして大鉄工業で新幹線通路用の走行台車が開発されることとなる。
・約1,000mm幅のトンネル中央通路内を走行可能な車体幅とする。
・運転者が着座状態によりホーム下(高さ1,550mm)を走行可能な車体高とする。
・前後に運転室を設け、前後進ともに同一速度での走行を可能とする。
・運転者を含め8名の添乗を可能とする。もしくは、軌道整備を実施するに足りる器具一式を積載可能とする。
・20%の勾配を登坂可能とする。
以上を踏まえプロトタイプが製造された。
■プロトタイプ

プロトタイプの設計概要は次の通り
・中央通路の幅を考慮して車体幅は800㎜とし、車体側面にガイドローラーを設置。車体高は座面を地上高600㎜とし、運転者が着座状態でホーム下を走行することが可能である。
・前後輪は単輪、中央に二輪の駆動輪を備えた構造としており、前後の単輪を連動させた二輪操舵機構を採用。設計最小半径を2,900mmとしている。また車体前後にジャッキローラーが付属しており、車体を扛上させ、駆動輪を軸とした回転移動が可能である。
・駆動はインホイールモーターを採用することで、前後進を同一速度で走行させたり、旋回時に内外周の回転を差動させる機構をギヤ機構無しで簡素化して実現している。
・8名が着座可能な荷台面積を確保し、運転者及び後方の運転席着座者を含めた10名が添乗可能。また重量物の資機材の積卸が容易に行えるよう、側面カバーは着脱可能な構造である。
・登坂力確保のため、三菱のGB280エンジンを搭載。また前後間の軸間距離が長いため、勾配変化に対応できるよう車体中央付近で分割するヒンジ構造としている。
■プロトタイプからの改良
プロトタイプにより試験運用をした結果、課題が判明した。
・操舵用のハンドルレバーが2本、走行用油圧調整レバー1本の計3本を取り扱う必要があり、操作が複雑・走行用油圧調整レバーが運転席横にあるが、脚等が接触し誤操作してしまう恐れがある他、中央位置が不明確で、意図せず後進する懸念がある。
・勾配変更点において、台車の屈曲域が不足し、中央輪が浮きスリップが発生する。また登坂能力が不足しエンストが発生する。
・前後輪から中央輪までの距離が異なるため、ハンドル操舵角が前後運転席で異なる。
・車体幅800mmで作業者2名が横隊するのが窮屈であった。
・急曲線でオーバーハングにより台車端部が壁面に接触した。
上記の課題を踏まえ、以下の改良が加えられた。
・操舵用のハンドルを通常の2輪車と同じストレートハンドルに変更。また、後部運転席でのハンドルの誤操作を防ぐため、添乗用の垂直ハンドルを増設した。
・走行用油圧調整レバーを操作位置で固定できる構造とし、後進時には解除レバーを取り扱う機構とした。
・屈曲角を12°から15°に拡大。また登坂能力向上のためエンジンを三菱のGB300へ変更、油圧ポンプの圧力増加を図った。
・台車を縮小し、前後輪と中央駆動輪の軸間距離を同一とした。これにより台車の耐久性と走行安定性が向上した。
・添乗姿勢を立位に変更。また添乗者の為に手摺を増設した。・オーバーハングによる接触防止として運転者ステップ付近の角を切り欠き。それに伴い運転者足場を内側に拡幅、及び足元に防護カバーを設置した。

上記の改良を施した機械の機能確認として、再度走行試験が実施され、開発着手時に掲げていた性能要求をすべて満たすことが確認された。
■プロトタイプ改良型の諸元
項目 | 諸元 | 備考 |
車両重量 | 490[kg] | |
車両総重量 | 930[kg] | 8人の乗車重量を含む |
乗車定員 | 8人 | 運転席に2名乗車 |
全長 | 3,950[mm] | 前後ジャッキ部分を除く |
全幅 | 840[mm] | ガイドローラー寸法を含む |
全高 | 1,350[mm] | |
軸距 | 3,200[mm] | |
速度(平坦路) | 0~20[km/h] | |
登坂能力 | 最大22[%] | |
最小回転半径 | 2,900[mm] |
■量産型

量産型では、プロトタイプや改良型になかった前面風防が追加されている。JR西日本管内の山陽新幹線と北陸新幹線に配備が進んでおり、大鉄工業の他レールテック所属の車両が確認されている。
■量産型の諸元
項目 | 諸元 | 備考 |
車両重量 | 560[kg]以内 | |
車両総重量 | 1,000[kg]以内 | 8人の乗車重量を含む |
乗車定員 | 8人 | 運転席に2名乗車 |
全長 | 3,950[mm] | |
全幅 | 880[mm] | |
全高 | 1,350[mm] | |
軸距 | 3,200[mm] | |
最低地上高 | 140[mm] | |
速度(平坦路) | 0~20[km/h] | |
登坂能力 | 最大22[%] | |
最小回転半径 | 3,300[mm] |
参考文献
1)坂本士『新幹線通路用台車の開発』,新線路,第72巻10号,鉄道現業社,(2018.10)
2)大鉄工業株式会社『幹線通路用走行台車』
https://www.daitetsu.co.jp/gijyutsuten/gijyututen5.pdf(2025.01.18)