秋元清, 『ジェット除雪』, 新線路, 21巻3号, 鉄道現業社, 1967年3月より引用
概要
ジェットスノーブロワとは、ジェットエンジンの噴流で線路上の雪を吹き飛ばす除雪車のひとつである。
ジェットエンジンを除雪に用いる利点として、その噴流のみを利用できればよいので特別な機構が一切不要であることが挙げられる。
■ 大宮工場製試作ジェット除雪車
本邦においては、1961年に国鉄大宮工場において製作され、北海道内で試験が行われた試作ジェット除雪車が有名である。
これはトキ15000形式 トキ17988号車に防衛庁の協力のもと入手した日本ジェットエンジン社製J3ターボジェットエンジンを搭載した車両である。開発には国鉄本社工作局が関与しているほか、試験には防衛庁第三研究所の関係者が立ち会ったことが伝えられており、単なる国鉄の一工場からの発案による代物ではなかったことが伺える。その経緯を踏まえると、この試作ジェット除雪車は特殊な立ち位置の存在であったと捉え、本稿では深く踏み込んで解説することはしない。しかし、ジェットエンジンを利用した除雪車への取組みとして紹介すべきものであることから一応記したものである。
■ 東海道新幹線におけるジェットスノーブロワの試み
保守用車としてジェットエンジンを利用した除雪車は、ただひとつ1966年度に東海道新幹線関ケ原地区向けに試験導入されたジェットスノーブロワである。
これは東海道新幹線において列車が高速走行することによる雪の舞い上がりと列車への着雪を防ぐために試行錯誤が行われていた時代の試行のひとつであった。
これは米国・ピッツバーグにあったRailway Maintenance Corporation社（Portec RMC社の表記もある）製のもので、ゼネラル・エレクトリック社製J47ターボジェットエンジンを利用したものであった。また、ジェットエンジンのほかに走行用機関を持っており、自走が可能である。同機は北米の降雪地帯を走る鉄道で導入されており、現存する個体もあるようだが詳細は不明である（参考動画：https://www.youtube.com/watch?v=ybKpY-E-tTE）。
なお、詳細は不明であるがESSCO社なるメーカが同型のジェットスノーブロワを製作しているようで、カナダ国鉄（CN）に導入されている（参考動画：https://www.youtube.com/watch?v=8AgfPXH0I2I）。
東海道新幹線での試験では、ジェットスロットル70 %噴射時にノズルから15 m離れた場所で24 m/s、40 m離れた場所で16 m/sの噴流が測定され、雪は熱風によりみぞれ状になって飛散することが確認された。このときの除雪範囲は道床の肩部まで程度で、レールのフランジウェイブの雪は残ってしまうことが判明した。小雪であれば相当の速度でもって除雪できる可能性が示されたが、それよりあまりに過大な騒音が問題視されている。
ノズルの向きにもよるが、ジェットスロットル70 %噴射時にノズルから100 m離れた場所で74～96 ホン（ホンはそのままdBに換算できる）の騒音が測定されている。これは地下鉄車内からパチンコ店店内並みの騒音とされるもので、とてもではないが深夜はもちろん日中であっても迂闊に利用できるものではないことが分かる。その後は吸音・防音装置を設置して約10ホン程度の騒音抑制効果が確認されている。
しかし、この頃になると水タンク車を用いて雪を湿らせることで雪の舞い上がりを防止できることがわかり、防雪対策としてはスプリンクラーによる散水へと移っていくことになり、ジェットスノーブロワの本格導入は行われなかった。
なお、ジェットスノーブロワと同時期に大型ディーゼル機関車（911形）の前頭部に送風式ブロワを取り付け、新大阪－米原間にて走行させたところ、列車への着雪量が半減する効果が確認されている。
メーカ
秋元清, 『ジェット除雪』, 新線路, 21巻3号, 鉄道現業社, 1967年3月より引用
北米向けに保守用車を供給していたメーカ。Portec RMC社と表記されることもある。
参考文献
1）秋元清, 『ジェット除雪』, 新線路, 21巻3号, 鉄道現業社, 1967年3月
2）斎藤雅男, 『3. 東海道新幹線の雪氷害とその対策 (1) 雪氷害の特質とその対策』, 雪氷, 33巻3号, 日本雪氷学会, 1971年
3）歩く短魚雷, 『国鉄ジェットエンジン搭載除雪車』, 短魚雷工作局, 2016年
4）環境省, 『一般環境騒音について』, https://www.env.go.jp/air/ippan/
5）Oil-electric, 『Track Gang #2 McWilliams Multiple Tool Air Tamper』, http://www.oil-electric.com/2008/05/track-gang-2-mcwilliams-multiple-tool.html