登場当時の同社外観。なおベースシャーシは日産ディーゼル(当時)・コンドル(中型トラック)としている。
崎山・橋谷(2003)写真-1より引用
■概要
一般的な架空電車線方式で架設されている架線の内、「き電線」と「吊架線」を兼用としたものを「き電吊架線」という。架線の集約ができ、検測車による検測が可能となる等メンテナンス性が向上する他、通常では吊架線や架線柱のビームより上に架設されているき電線が吊架線と同じ位置となるため、き電線まで届く高い梯子を用意する必要が無く軌陸高所作業車による作業が可能となる等安全性の向上にもなる。
従前の架設方式(左)とき電吊架線方式(右)との比較。き電線の検測は目視で行っていたものが検測車使用が可能となり、梯子作業も軌陸高所作業車による作業への置き換えが可能である。
加藤(2020)図3および図4より引用
JR西日本ではき電吊架線方式を「ハイパー架線」と命名し、平成7年からハイパー架線化に取り組んできた。この当初においては鉄製トロに延線ドラムを積載し軌陸高所作業車を用いて延線作業を行っていたが、ハイパー架線用のき電吊架線は従来の吊架線より線条が太く重量物でもあるので、
・トロに大型のドラムとドラムジャッキを積み込むため踏切での載線が困難である
・トロにドラムブレーキ操作者を常に配備しなければならない
・延線時に線条が重いため支持物があおられふらつく上に線条が上下動する
…等の問題が出てきた。
そこで同工事の施工会社である西日本電気システム(NESCO)では、ハイパー架線延線作業用の延線車を開発する事になった。
開発のコンセプトは
・ドラムの自積載が可能
・各種電線の延線・撤去に対応可能
・省力化と安全な施工が図れる
の3点である。
■各種仕様
同車の架装は小松製作所が担当し、GB150Wの機種名が与えられている。
この時点で西日本電気システムが保有していたトロリ線用延線車をベースとして開発されている。
諸元は下記の通り。
全長 | 7,540mm |
全幅 | 2,460mm |
全高 | 3,500mm |
車体重量(大型車) | 15.4t |
積載能力(道路上) | 3,000kg |
積載能力(軌道上) | 4,150kg |
排気量 | 6,950cc |
積載クレーン吊り上げ能力 | 2.8t |
軌道上最高速度 | 30km/h |
作業走行速度 | 0~6km/h |
延線張力 | 980~3.920N(100~400kgh) |
崎山・橋谷(2003)より引用
稼働中の同車。各部のフキダシは後述の解説も参照の事。 崎山・橋谷(2003)写真-2より引用
同車の仕様は下記の通りである。
①ドラムアタッチメントの交換により通常の吊架線とき電吊架線の搭載に対応している。
(搭載できる最大のドラムサイズは2,200mm。)
なお延線装置には延線張力自動調整装置が装備されており、延線張力を一定とする事ができる。
②延線時の案内用として小型クレーン(2.8t吊)を搭載し、ブーム先に4面ローラーを装備している。
③ボデー部分にオペレータ席を設け延線装置と車両操作を可能としている。
また、ボデー後方に張力9,800N(1,000kgh)の電動ウインチを装備し、延線終了後の架線の張り上げ等に使用できる様にした。
同車は平成13(2001)年夏から小浜線電化工事現場で投入され、延線ドラムの自積載により2両編成での施工が可能となり踏切での載線を可能とした事、オペレータ席よりドラムブレーキと運転の同時操作が可能となった事、延線張力自動調整装置により支持物のふらつきと線条の上下動が減少した事等、多大な成果を挙げている。
従前のハイパー架線延線作業(左)と同車導入後(右)との比較。3両編成で行っていた作業が2両編成で行える様になり、またドラムを同車に搭載している事から、踏切での載線が容易である。
崎山・橋谷(2003)図-1および図-2より引用
■参考文献
1)崎山尚・橋谷幸夫『ハイパー架線用軌陸延線車の開発』,鉄道電気,56巻2号(2003.2)
2)加藤健二『鉄道事業者の電車線路設備(10)-JR西日本の電車線路設備概要-』,鉄道と電気技術,31巻6号(2020.6)