相模鉄道の保守用車

(写真:令和元(2019)年の春頃のみ見られたYOKOHAMA NAVY BLUE塗装の09-3号機)


■概要
相模鉄道(相鉄)の現業組織の内、保線区(保線作業担当)と電力区(電車線作業担当)が保守用車を所有している。
この他トンネルや橋梁の維持管理を担当している営繕区も保守用車を使用する場合がある。1)
保守基地は西横浜駅構内に設けられているが、電力区所有の軌陸車およびトロは上星川駅構内にて保管されている。

■保守用車の特徴

機種 メーカー 型式 社番 導入年 保有時期不明 1976年
時点保有数2)
1986年
時点保有数3)
1999年
時点保有数4)
2024年
現在保有数
記事
軌道モータカー 堀川工機 WD-H4TW 1 堀川工機カタログ記載)8
WD-H5 1
WD-H7CA 1 堀川工機カタログ記載)8
RD-H3G 1 堀川工機カタログ記載)8
WD-H10CA 1 1
WD-H10CA(クレーン付) 1 1
WD-H20A 1
WD-H26A 1
WD-H28A (じゃりぼー) 1998/15) 1 キャブのみ現存(場所不明)
WD-H28A 07-2(じゃりべー) 2007/25) 1
WD-H28A 09-3(じゃりすけ) 2009/25) 1
マルチプルタイタンパー マチサ BNRI-85 1974/16) 1 1
B40UE 19937) 1
PT 09-16CSM (ぷるたん) 20115) 1
バラストスイーパー 芝浦 BC-2 1 1
トロ 堀川工機 SN60570RT 1 1 除草剤散布トロ
DT6-2WA 6 ダンプトロ
下記DT6と同一個体の可能性有
DT-6 10 ダンプトロ
上記DT6-2WAと同一個体の可能性有
DT-6 No.1~10 2000/125) 10 ダンプトロ
RT-15A 6 レール運搬トロ
RT-15 No.1~5 2008/35) 5 レール運搬トロ
RCC 2 前方監視トロ
RCC No.1~2(すぱなっち/ばーるっち) 2009/35) 2 前方監視トロ
ヨシイケ科研 1ton軽便トロ No.1 2013/75) 1
不明 レール運搬トロリー 6
軌陸車 堀川工機 陸軌両用車 1 堀川工機カタログ記載)8
アイチコーポレーション LX04A (でんゾウくん) 1 2021年頃廃車
LX04A (でんゾウくん) 2011/45) 1 2023年頃廃車
東洋車輌 TOC38STWU-T (でんゾウくん) 2020/125) 1
TOC38STWU-T (でんゾウくん) 2023/15) 1

歴代保守用車一覧。あくまで筆者が確認できた個体の一覧であるので、これ以外に未確認の個体が存在する可能性がある事をご理解いただきたい。

歴代殆どの車種において堀川工機製となっており、現行車種についてはレール運搬トロや前方監視トロまで堀川製で揃えられている。半世紀前の昭和51(1976)年時点でも多くの車種が堀川製である事や、軌陸車の事を「陸軌車」と呼称する点においても堀川との関係の深さが伺える。

レール削正車や検測車は保有しておらず、前者は日本スぺノのレンタル機を陸送で搬入し削正作業を行っている。後者について、相鉄・東急直通線開業以降は東急所有の検測車を回送し作業を行うようになった。


現役時代のWD-H26A(No.2号機)。9000系の塗装となっている。

保守用車の外観にもこだわりが見受けられる。基本的に黄色が多い保守用車の外観色だが、同社の場合は旅客車と同色となっている。90年代後半まで一般的な黄色であった模様だが、同時期より当時の看板車両であった9000系と同色に塗装される様になった。9)
平成18(2006)年にグループカラー(相鉄ブルー・相鉄オレンジ)が導入され、翌年より旅客車へのグループカラー塗装が開始されると、保守用車においてもグループカラーが塗装される様になった。
20000系以降の塗装色(YOKOHAMA NAVY BLUE)についても、軌道モータカー09-3号機が令和元(2019)年の一時期ラッピングされていたが、同年3月の相鉄・JR直通線レール締結式のセレモニー用に行われた模様で、同年5月にはラッピングが解除されている。


軌道モータカー07-2号機にラッピングされている”じゃりべー”のステッカー。各車両でキャラクターが異なっており、事実上の愛称として機能している。

この他の特徴として、自走する保守用車については「じゃりべー」「ぷるたん」などのキャラクターがラッピングされている点が挙げられる。モータカーおよび確認台車にラッピングされている「じゃりべー」「じゃりぼー」「じゃりすけ」「すぱなっち」「ばーるっち」は社員によるデザインとの事であり10)、他のキャラクターも同様と思われる。

■車種別一覧
軌道モータカー

WD-H20A 町田(1986)より引用

歴代全て堀川工機製で揃えられている。

WD-H26A
WD-H28A(じゃりぼー)

廃車済
WD-H28A(じゃりべー)
WD-H28A(じゃりすけ)

トロ
電力区所有のものにヨシイケ科研製があるが、それ以外の現有車すべて堀川工機製である。
レール運搬トロや前方監視トロまで同社製で揃えられている事業者は珍しい。

レール運搬トロ

マルチプルタイタンパー

歴代で3代確認できる。初代と2代目はマチサ製であり、前者はBNRI-85、後者はB40UEであった。
3代目(現行)からPT製となり09-16CSMが使用されている。
なお関東大手私鉄では珍しく芝浦製作所製マルタイの導入事例が皆無である。

軌陸車
近年までアイチコーポレーション架装のLX04Aを2台所有していたが、令和2(2020)年および令和5(2023)年に東洋車輌架装のTOC38STWU-Tに置き換えられている。
先述の通り相鉄社内では軌陸車の事を「陸軌車」と呼称するが、これは堀川工機が自社製軌陸車に対して用いていた呼称であり、相鉄と同じく堀川工機のヘビーユーザーであった京王電鉄でも用いられている。11)
堀川工機のカタログには導入時期不明ながら1台の納入記録があり、これが初代機であると推定する。

LX04A(でんゾウくん)

アイチコーポレーション架装 廃車済
TOC38STWU-T(でんゾウくん)
東洋車輌架装
TOC38STWU-T(でんゾウくん)
東洋車輌架装

■脚注
1)相模鉄道株式会社安全対策部『そうてつの安全・安心を教えて(Vol.8)~工務のお仕事(保線区・営繕区)』,(2014,2)
2)小椋(1976)表4
3)町田(1986)表2
4)渡辺(1999)表2
5)現車銘板記載
6)相模鉄道総務部広報課『相鉄<パノラマ> この10年のあゆみ』,(1977)p30-31
7)渡辺(1999)
8)1980年代後半頃と思われる堀川工機のカタログの巻末に記載されている「主な納入実績(国内)」の項に納入先・機種名・両数のみ記載がある。
9)リンク先動画(平成11(1999)年4月の相鉄本線前面展望動画)の27:50頃、西横浜駅通過時に構内保線基地に佇む保守用車が見えるが、WD-28Aが9000系の塗装であるのに対し他車は黄色塗装である事が確認できる。
10)はまれぽ.com『相鉄線の作業車両、「じゃりべー」とは?』,(2016.6.13)  令和6(2024)年8月3日閲覧
11)京王電鉄株式会社『京王キッズおしごと隊 電車のしくみを知ろう!京王電鉄(高幡不動検車区・電力管理所)』,(2023) 令和6(2024)年8月3日閲覧

■参考文献
1)小椋哲郎『相模鉄道の保線概要について』,鉄道線路,24巻12号(1976.12)
2)町田弘志『線路と保線』,鉄道ピクトリアル,36巻8号臨時増刊号,(1986.8)
3)渡辺勝美『線路施設と保線』,鉄道ピクトリアル,49巻7号臨時増刊号,(1999.7)