■概要
東武鉄道は明治30(1897)年11月に設立された1)、2023年度末現在で民鉄16社中近畿日本鉄道の501.1[km]に次ぐ第2位の463.3[km]の旅客営業キロを持つ2)鉄道会社である。
保守用車の所有は東武鉄道本体であるが、実作業については外注となっているものもある3)。軌道部門では外注化が昭和32(1957)年頃から開始されている。現在はマルタイ搗き固め・レール削正作業等が東武建設株式会社鉄道部を始めとした数社4)、電気部門のうち電気設備の検査・保守業務については東武エンジニアリング株式会社の担当となっている5)。
軌道モータカー
平成初期の頃には3[t]、5[t]、7[t]といった小型の軌道モータカーも存在していたが現在は20[t]及び25[t]級のモータカーとなっている6)。20[t]級は昭和58(1983)年から25[t]級は昭和60(1985)年から導入が開始された7)。特に25[t]級は貨物輸送の近代化に伴い線路砕石輸送を臨時貨物列車によるホキ車から砕石運搬車に移行する目的での投入で日光線の連続勾配区間でも輸送可能なように水平線で500[t]の牽引力としている7)。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
マルチプルタイタンパー
昭和37(1962)年に芝浦製のMTT-13Eとみられる電気式マルタイが東上線区間に納入されたのが最初である15)。
その後昭和47(1972)年8)からマチサのBNRI-85が計6両導入され全線的な線路搗き固めの機械化が実現した。平成3(1991)年にプラッサーの09-16CSMが導入となり9)以後ラインマルタイはマチサに代わりプラッサーの09型が採用されている。
平成11(1999)年に09マルタイでは施工困難だった分岐部及びガードレール区間用にスイッチマルタイ(08-275)が導入された9)。これら2両のスイッチマルタイは令和3(2021)及び令和4(2022)年製の08-475によって更新された。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
バラストスイーパー
芝浦製の自走式(型式不明)がマチサのBNRI-85と対になるように6両導入された7)のを皮切りに現在でもマルタイとセットで使用されている。平成6(1995)年に松山重車輌工業製に切り替わって9)からは同社製品のみが使われている。令和6(2024)年にMR1306、MR1307の後継機MR1313が導入された。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
レール削正車
レール頭頂面に発生する波状摩耗に対する抜本的な対策として平成10(1999)年にスペノ製のRR16M14が導入された9)。現在では令和2(2019)年製のLRR16M47が使用されている。
![]() |
|
![]() |
検測車
平成9(1998)年に導入された9)プラッサーのEM120(EM80-40)は平成29(2017)年度に引退し現在は松山重車輌のMS0243及びMS0244が使用されている。
EM120導入以前にも検測車は存在していたと考えられるが詳細は不明である10)。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
軌道自転車
保線機器整備製のATカートを保有している。少なくとも二世代はいるものと思われる。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
軌道兼用車
平成2(1990)年に軌道専用の信号通信検測車を、平成4(1992)年に軌陸両用の架線検測車が導入されたが、平成17(2005)年度から信号と架線の検査機能を一体化した軌陸両用の電気検測車が配備されている11) 12)。
それとは別に架線の検査・補修用として油圧昇降式作業台を設けた架線作業車を各拠点に配置している。平成21(2009)年3月からは夜間の沿線の騒音対策としてバッテリー動力でも動作するハイブリッド架線作業車も導入されている11)。
同社の軌道兼用車の特徴としてナンバープレートの一連番号が同社の社名を連想させる希望ナンバーの「・102」であるものが多いことが挙げられる。希望ナンバーではないとある個体については製造上の理由により希望ナンバーを取得できなかったためとのことで、同社がその点に強い拘りを持っていることが窺える13)。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
|
![]() |
トロ
広大な路線網を持つだけにトロも多数在籍している。
トロの大半は松山重車輌工業製であるが、トキオ製や珍しいヤマナカ製のトロも保有している。
【ダンプトロ】
平成初期のラインナップでは4[m3]、6[m3]といった比較的小柄なダンプトロも保有していたようであるが14)現在は大形化しているものと思われる。6両1編成のものは最後部車両に遠隔制御運転台を設けている。4両1編成のものは最後部に遠隔制御車が付けられている。
【砕石運搬車】
他社ではあまり聞かないタイプの保守用車であるが、貨物輸送の近代化に伴ってホキ車の代わりに登場した車両群である7)。昭和61(1986)年から導入が始まり4両1編成で5編成が在籍している。1両15[m3]積載で1回60[m3](約100[t])の線路砕石を輸送することができる。最後部車両には遠隔制御運転台が備わっている。
【レール運搬車】
一般的なタイプのトロであるが、平成初期の段階では3両1セットで25[m]レールを運搬するタイプが9編成、5両1セットで50[m]レールを運搬するタイプが1編成の計32両が存在していた6)。その後トキオ及びヤマナカ製のレール運搬多目的トロが導入されたため今後このタイプは増えないものと思われる。
【ロングレール運搬車】
ロングレール運搬用のトロである。現在使用されているのは令和5(2023)年導入の松山重車輌工業製で平成初期には東光産業製の200[m]ロングレール運搬車を保有していた6)。
【レール運搬多目的トロ(トキオ製)】
他社でも見かけるタイプの多目的トロである。同様の車種であるヤマナカ製と異なりこちらはレール積卸機は4機である。
【レール運搬車(ヤマナカ製)】
同様の車種であるトキオ製と異なりこちらはレール積卸機は3機である。
【遠隔制御車】
遠隔制御運転台を持つ遠隔制御車である。主に多目的運搬トロ及びモータカーと連結されて3両編成となっていることが多い。
【桁更換機】
桁更換機という保守用車はあまり見かけないが、現役かは不明ながらその姿は坂戸駅周辺で見ることができる。
【除草剤散布車】
初代除草剤散布車はなんと昭和28(1953)年登場と歴史のある保守用車である。また、6両あると推定される保有数も他社では例を見ない。令和6(2024)年に新型のMC0727が登場した。
脚注
1)文献1) p.96 年表による。会社設立登記が為された11月1日を創立記念日としている。
2)文献1) p.34 大手民鉄の鉄道営業キロのグラフによる。第3位は444.2[km]の名鉄で上位3社の営業キロが突出している(4位は195[km]の東京メトロ)。
3)文献6)および文献7) p.21 表-2「主な保守用車」。現在の担当分けは不明であるが文献7)より平成3(1991)年時点では砕石運搬、レール運搬、バラスト散布といった作業は直轄、マルタイ作業・ロングレール運搬は外注という分担となっているのがわかる。文献6)でレール削正について触れられているのでそちらの作業も外注であることがわかる。
4)文献5) p.31。
5)文献4) p.88。
6)文献7) p.21 表-2「主な保守用車」による。
7)文献7) p.21。
8)文献5、文献7)では昭和47年となっているが、文献8)では昭和46年となっている。ここでは多数派の昭和47年表記を採用した。
9)文献8) p.17。
10)文献2) p.16および文献8) p.17。文献2)から軌道専用の信号通信検測車が存在したことは判断できる。また、文献7)に「現在の新型軌道検測車を導入した。」とあるので置き換え対象となったものがあるとみるのが自然であろう。
11)文献1) p.62。
12)文献2) p.16。「1.はじめに」中に「信号通信検測車は軌道専用、架線検測車は軌陸両用」との記述がある。
13)文献3)。
14)文献7) p.21 表-2「主な保守用車」。
15)文献9)。
参考文献
1)東武鉄道株式会社『東武会社要覧2024』
https://www.tobu.co.jp/pdf/corporation/book_all.pdf
(2024.11.12閲覧)
2)市原芳広『東武鉄道の電気検測車』,鉄道と電気技術,第17巻3号,日本鉄道電気技術協会(2006.03)
3)東武ファンフェスタ2019会場内で係員から聞けた情報
4)菊池祐宜『東武鉄道(株)の巻』,鉄道と電気技術,第32巻7号,日本鉄道電気技術協会(2021.07)
5)町田光廣『-東武鉄道- 保線の保守体制』,新線路,第41巻6号,鉄道現業社,(1987.06)
6)東武建設株式会社『事業紹介 > 鉄道工事』
https://www.tobukensetsu.co.jp/business/railway.html
(2024.11.12閲覧)
7)坂井正春『保守用車の概要と使用手続 -東武鉄道-』,新線路,第45巻8号,鉄道現業社,(1991.08)
8)衣川裕司『東武鉄道の大型保線機械』,新線路,第54巻7号,鉄道現業社,(2000.07)
9)『保線作業に技術革新 マルチプルタイタンパ』,交通東武,355号,(1962.8.30)