14_巡回車


■概要
新幹線の長大トンネルにおいて架線・線路の締結装置等の巡回点検に使用される保守用車で、線路上ではなく上下線間のトンネル中央通路内を走行する。

△上下線間のトンネル中央通路を走行するトンネル巡回車 文献n)より

新幹線の営業時間帯にも巡回が行えるよう建築限界を支障しない車体形状となっている他、列車通過時の飛来物から作業員を防護するため鋼板で全面を覆い窓部には強化ガラスやポリカーボネートを用いている。
上記のような構造を有した営業時間帯に使用できる車両がいわゆる「巡回車」であるが、本DBでは営業時間帯に使用できる構造を有さない「トンネル中央通路を走行する保守用車」も「広義の巡回車」として本Categoryにて取り扱う。

 


■ダイハツ製? 試作車(1974)
山陽新幹線には多くのトンネルが存在し、特に岡山~博多間においては53%をトンネルが占めるためこの間の巡視を安全に能率よく行うため国鉄新幹線総局 電気部を中心にトンネル巡回車の開発が行われた。
4輪の走行輪と側壁に沿って走行するための4輪の案内輪、車庫へ収容する際に使用する横取車輪を有した車体に背中合わせに作業員2名が乗り込み、前後それぞれの運転台を操作する構造で、この基本構造は今日でも同一である。機関にはガソリンエンジンが採用されており、試運転の結果「運転室内の騒音や温度を改善すれば実用化可能」と評価されたが、狭い運転室内でエンジンから発生する騒音と温度の問題を解決するのは難しく、量産車では電動式に変更されている。

△試作されたトンネル巡回車 文献n)より

■ 諸元

長さ 2,900[mm]
1,000[mm]
高さ 1,250[mm]
車輪径 500[mm]
軸距 2,000[mm]
自重 400[kg]

 

■ 走行性能

最高速度 20[km/h]
登坂能力 10[‰]

 

■機関
4サイクルガソリンエンジン 空冷直立単気筒:6.5[PS]/3,600[rpm]

 


■ダイハツ製 量産車 AR20(1976)
前述の試作車の試験結果を踏まえバッテリー駆動の量産車が製作された。
量産車は岡山~博多間に導入された「A型」と、新大阪~岡山間に導入された「B型」が存在する。
この2種類の差は巡回車車庫からトンネル中央通路への連絡通路の構造の違いによるもので、岡山~博多間では通路が直行する直線のみで構成されているのに対し、新大阪~岡山間では半径5[m]の曲線が介在している。
巡回車は基本的に操舵機構を持たないため前2輪/後2輪のA型では曲線を通過できない。そのためB型では前1輪/中央2輪/後1輪の車輪配置とし操舵機構を装備している。なおB型では横取車輪は省略されている。
量産車は電気部と施設部それぞれで使用され、電気部が架線の点検を行う際は車内の窓から上部を、施設部が線路の締結装置の点検を行う際は扉を開き椅子の座面高さを上げ側方を見ながら巡回を行った。

■ 諸元

A型 B型
長さ 2,950[mm] 2,970[mm]
1,000[mm] 1,140[mm]
高さ 1,450[mm] 1,550[mm]
トレッド 550[mm] 800[mm]
軸距 2,000[mm] 1,080+1,080[mm]
自重 780[kg] 550[kg]

 

■ 走行性能

A型 B型
1充電走行距離 30~40[km] 32[km]
充電時間 8~10[h] 8~10[h]
回転半径 5[m]
トレッド 550[mm] 800[mm]
軸距 2,000[mm] 1,080+1,080[mm]
自重 780[kg] 550[kg]

 

■制動方式
油圧式及び駐車ブレーキ

 


■ダイハツ製 上越/東北新幹線・電気部仕様(1982)
上越・東北新幹線の開業に合わせ量産車(A型)を改良した型式で、改良点は下記の通りである。
・横取装置展開用手動油圧ポンプの電動化
・タイヤのチューブレス化(パンク対策)
・走行用バッテリー保温装置追加
・座席ヒーターカバー追加
・案内輪大型化
・動力伝達方式変更(チェーン→タイミングベルト)
・窓傾斜角度変更(架線(上方)視認性向上)

■ 諸元

長さ 2,950[mm]
1,000[mm]
高さ 1,250[mm]
タイヤサイズ 145SR2
軸距 2,000[mm]
自重 850[kg]以下

 

■ 走行性能

走行速度(1速/2速/3速) 4/8/16[km/h]
登坂能力 110[‰]

 

■電動機
強制空冷式直流 直巻

■制動方式

主ブレーキ 4輪制動 油圧内部拡張型
駐車ブレーキ 2輪制動 機械式内部拡張型

 


■日本車輌製 上越/東北新幹線・施設部仕様 WJ-3(1982)
上越・東北新幹線の開業に合わせ開発された型式で、従来は締結装置の点検を扉を開放し椅子の座面を上げて行っていたが、積雪地域であることから扉を閉めたまま行えるよう、全高を高くした上で側面窓を追加し全面覆工式とした。全高を高くした部分は建築限界の関係で非常に幅の狭い形状となっている。

■ 諸元

長さ 3,300[mm]
980[mm]
高さ 1,877[mm]
車輪径 474[mm]
自重 1630[kg]

 

■ 走行性能

最高速度 15[km/h]
1充電走行距離 40[km]
登坂能力 120[‰]

 


■山陽新幹線電気/施設部兼用仕様(1982)
上越/東北新幹線向け仕様が若干の用途の違いで電気部と施設部で別メーカーの類似車種をそれぞれ購入し、充電設備も別々となったことに対し、会計検査院より不経済であると指摘がなされた。そのため山陽新幹線のトンネル巡回車更新時に向けて、電力設備/線路設備の両方が車内より点検可能な兼用巡回車の仕様が策定された。なおこの型式について実車の存在は確認されていない。

△山陽新幹線老朽取替用兼用仕様 文献n)より

■ 諸元

長さ 3,000[mm]
980[mm]
高さ 1,877[mm]
車輪径 468[mm]
自重 1,300[kg]

 

■ 走行性能

最高速度 15[km/h]
1充電走行距離 40[km]
登坂能力 120[‰]

 


■長谷川工作所製 青函トンネル仕様
青函トンネルは延長が長いことからディーゼルエンジン仕様のトンネル巡回車が使用されている。
また乗車定員が通常のトンネル巡回車が2名であるのに対し4名となっている。
青函トンネルのトンネル巡回車は開業時に導入されたと思われる型式と、新幹線開業に合わせ設置された限界支障報知装置に接触しないよう車高を低くした2型式が存在する。
なお、低車高の型式が同社製かは不明である。


■宮田工業製 JR東日本・電気/施設部兼用仕様(2010)
1982年頃に導入された上越・東北新幹線の電気/施設部のトンネル巡回車の老朽化に伴い、その置換用として電気/施設部兼用のトンネル巡回車が新たに開発された。
先代のトンネル巡回車と比較しての主な改良点は下記の通りである。
・電気部・施設部兼用仕様化
・ブレーキ改良(電気ブレーキ→回生ブレーキ)
・走行モータートルク安定性改善(インバーター制御サーボモーター化)
・バッテリー小型軽量化(鉛蓄電池→リチウムイオン電池)
・営業列車320[km/h]運転対応(ポリカーボネート窓厚8→10[mm]/車体前面鋼板厚5.5→6[mm])
なお、本形式は横取車輪が省略されており車体下にハンドリフターを差し込んで車体の横移動を行う。

△JR東日本 兼用仕様 文献n)より

■ 諸元

長さ 3,000[mm]
965[mm]
高さ 1,890[mm]
自重 1,300[kg]

 

■ 走行性能

最高速度 15[km/h]
1充電走行距離 40[km]
登坂能力 120[‰]

 


■タケオカ自動車工芸製 トンネル巡回車
上越/東北新幹線・電気部仕様と類似した外観のトンネル巡回車を製造している。
JR東日本向けに納入された2両は電気駆動、JR西日本向けは電気駆動とガソリンエンジン駆動のハイブリッド式である。


■飯島機工製 トンネル巡回車
山陽新幹線向けA型や上越/東北新幹線・電気部仕様を基にしたとみられるトンネル巡回車や、山陽新幹線新大阪~岡山駅間向けの車体屈折式トンネル巡回車を製造している。
同社のトンネル巡回車は北陸新幹線に20両、上越新幹線に4両、山陽新幹線に5両が導入されている。

■ 走行性能(山陽新幹線A型相当 IK-TON4.2)

 

走行速度 高速15/低速3[km/h]
1充電走行距離 40[km]
登坂能力 高速100/低速200[‰]

 


参考文献
『トンネル巡回車のテスト』,新線路,28巻,9号,鉄道現業社,(1974.9)
『トンネル巡回車の試運転実施さる』,新線路,28巻,9号,鉄道現業社,(1974.9)
熊谷厚一『新幹線 長大トンネル用巡回車』,新線路,30巻,1号,鉄道現業社,(1976.1)
黒正純『最近の話題 トンネル巡回車について』,鉄道線路,24巻,1号,日本鉄道施設協会,(1976.1)
『新幹線のトンネル巡回車』,新線路,30巻,5号,鉄道現業社,(1976.5)
余頃靖『開業一年を迎えた 新幹線の軌道保守』,新線路,30巻,8号,鉄道現業社,(1976.8)
古賀勝彦『保線機械と作業環境問題』,鉄道線路,24巻,10号,日本鉄道施設協会,(1976.10)
稲積武彦『きでん室 トンネル巡回車』,電気鉄道,34巻,2号,鉄道電化協会,(1980.1)
佐藤昭『新幹線におけるトンネル巡回車の使用』,新線路,34巻,9号,鉄道現業社,(1980.9)
石井一元『新幹線用トンネル巡回車の仕様について』,会計と監査,34巻,3号,全国会計職員協会,(1983.3)
山下靖二,『灘の生一本とモグラ新幹線(神戸支所)』,新線路,38巻,7号,鉄道現業社,(1984.7)
櫛田文夫『長大トンネルの保守管理』,新線路,38巻,10号,鉄道現業社,(1984.10)
堀籠健『新幹線新型トンネル巡回車の導入』,新線路,65巻,4号,鉄道現業社,(2011.4)
坂本士『新幹線通路用走行台車の開発』,新線路,72巻,10号,鉄道現業社,(2018.10)
北海道旅客鉄道株式会社『トンネル豆知識』
https://www.jrhokkaido.co.jp/network/seikan/04.html(2022.09.28)
T-24(08nl),(2015/7/29),青函トンネルの巡回車、渡島大野駅の仮待合室に掲示されてた広報に載ってた。
https://twitter.com/3710dc205/status/626157146992840704?s=20&t=It3WPhV8u3fIAKkpsO3Uxg
旭川市『青函トンネル巡回車 株式会社長谷川工作所』
https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/sangyousinkou/prtool/prtool/category/kikai/k_sonota/co031_04.html(2022.09.28)(Internet Archiveにて閲覧)
みやぎ高度電子機械産業振興協議会『企業ガイドブック 第9版』
https://www.pref.miyagi.jp/documents/22987/792144.pdf(2022.09.28)
有限会社尾張技研『JR東日本様向け 新幹線用EVトンネル巡回車Ⅱ 保線用』
http://owarigiken.kir.jp/pdf/tonnelu2.pdf(2022.09.28)
タケオカ自動車工芸『TAKEOKAラインアップ』
https://takeoka-m.co.jp/lineup.html(2022.09.28)
飯島機工株式会社『トンネル巡回車(電気自動車)』
http://www.iijimakiko.co.jp/2011/08/20/460/(2022.09.28)
東進産業株式会社『トンネル巡回車(操舵式)』
https://toushin-s-k.co.jp/products/details6.html(2022.09.28)