佐藤工業の除雪装置付貨車移動機


 

本項では佐藤工業が製造した除雪装置付貨車移動機について解説する。

 

■概要

佐藤工業は1862(文久2)年創業の佐藤組をルーツとする総合建設業者。1910(明治43)年に設置された佐藤組富山鉄工場(のちの佐藤工業富山工場)では、橋梁や鋼材、産業機械の製造も手掛けていた。1949(昭和24)年、国鉄の資材購入が一般競争入札化された際に鉄道関連機器の製造へ参入し、ジャッキや天井走行クレーンのほか、貨車移動機の製造も手掛けていった。しかし東京オリンピック後の「40年不況」の影響もあり、不採算部門と見なされた鉄道関連事業からは1967(昭和42)年に撤退した1)。ただし貨車移動機についてはその後も1970年代初頭まで作例がある2)。1973(昭和48)年に佐藤鉄工株式会社として分社化され現在に至っている。

 

■ラッセル式貨車移動機


佐藤製の片寄せ形ラッセル式移動機
丸瀬布いこいの森保存機

佐藤製のラッセル式移動機は、通常の10t移動機と同様のキャブ形状である(いわゆる”半キャブ”)。現在までに確認されている個体は全て片寄せ形で、足回りはロッド式である。片寄せ用スノープラウは左寄せが一般的であるが、佐藤製ラッセル式移動機は右寄せを採用しているのが特徴である。1961(昭和36)年ごろから製造が始められたが、上記のように佐藤工業が貨車移動機を製造したのは1960年代が中心であったため、その後も生産が続けられた協三製のラッセル式移動機に比べてかなり数が少なかったと思われる。

 

■ロータリー式貨車移動機

ラッセル式移動機は当初から佐藤と協三の2社が手掛けていたようだが、ロータリー式移動機は1960年代製の協三製個体が発見されていないため、当初は佐藤のみが製造しており、佐藤の撤退後に協三が参入したと思われる。

佐藤工業製のロータリー式移動機は、形態によって大きく最初期型・初期型・中期型・後期型の3種類に分けることができる。ただし、この分類は解説のため便宜的に名付けたものであり、公式の呼称ではない。

 

1)最初期型


最初期型と思われる個体
横山慎二氏代理投稿記事より)

1961(昭和36)年から製造されたタイプ。代表例としては、新潟鉄工所大山工場で確認された個体や、敦賀の日鉱亜鉛専用線で使われていた製番106(1961年12月製)が挙げられる。

キャブ形状は通常の貨車移動機に近い”半キャブ”である。ロータリー除雪装置は三菱重工製(スクリューコンベアが2本)を使用している。また、ロータリー装置側前面にはボンネットが無く、代わりに作業者用の通路(ランボード)と手すりが設置されている。足回りがインサイドフレーム(車輪が軸受けの外側)であるのも大きな特徴である。

最初期型は非自走型ロータリー式移動機を国鉄浜松工場で自走化改造したものと同一と思われるが、現状では確証がなく調査中である。

 

2)初期型


日本曹達高岡専用線の製番123B
入間郡氏投稿記事より)

1963(昭和38)年ごろに製造されたタイプ。代表例としては、高岡の日本曹達専用線で使われていた製番123B(1963年12月製)が挙げられる。最初期型と比較して、キャブと窓の形状が若干変更されている。また、ロータリー装置側前面にボンネットが追加され、作業者用の通路が廃止された。非ロータリー装置側の端梁形状も変更されている。

 

3)中期型


越後交通長岡線ロ-103・製番130
貝島コロ助氏投稿記事より)

1964(昭和39)年ごろから製造されたタイプ。代表例としては、越後交通長岡線で使われていたロ-103(製番130・1964年製・元国鉄06-28-01-127)が挙げられる。初期型と比較して、キャブが全幅に渡る形状となったのが大きな特徴である。またこの時期から除雪装置が三菱製から新潟鉄工製(中央にレーキを配したスクリューコンベア1本)へと移り変わっていった模様である。

 

4)後期型


越後交通長岡線ロ-102
藤岡雄一氏代理投稿記事より)

1968(昭和43)年ごろから製造されたタイプ。代表例としては、越後交通長岡線で使われていたロ-102(製番4318・1968年製)が挙げられる。中期型と比較して、足回りがアウトサイドフレーム(車輪が軸受けの内側)となったのが特徴である。先述のとおり、佐藤工業の貨車移動機はおおむね1970年代初頭までに生産が終了しており、この形態が佐藤製ロータリー式移動機の最終型となったと思われる。その後は後期型とほぼ同形状のものが、協三工業によって製造されていった。

なお、このほか越後交通栃尾線向けに、ロータリー式移動機を762mm軌間仕様に縮小した除雪車が少なくとも1台確認されている3)

 

■脚注

1)佐藤鉄工株式会社社史編纂委員会編『佐藤鉄工85年史』佐藤鉄工,1996年.
2)沖田 祐作『機関車表』2014年,ネコ・パブリッシング,pp.18678-18682による.
3)モデル8『越後交通栃尾線の車両たち』2017年,モデル8出版事業部.

 


 

■ラッセル式移動機

 

■ロータリー式移動機:最初期型

 

■ロータリー式移動機:初期型

 

■ロータリー式移動機:中期型

 

■ロータリー式移動機:後期型