■概要
ロングレールを輸送するために製造されたロングレール輸送編成で使用されているトロ。
山陽新幹線区間向け及びそれをベースとした北海道新幹線区間向けが存在する。
この項は北海道新幹線で使用されているロングレール運搬車を中心に述べる。
■導入の経緯
北海道新幹線が2016(平成28)年に開業した。青函トンネル区間は新幹線と在来線が走行する共用区間であるが1988(昭和63)年の青函トンネル開業から使われている在来線専用レールには敷設から30年以上経過しレールシェリング傷が増加しており傷の解消が緊急の課題となっていた1)。傷は青函トンネル入口付近の急勾配区間に多く発生していたものの、基本的には共用走行区間全線にわたって分布していた。全ての傷解消をする場合に定尺レールよりも長尺レールでの交換の方が効率的である。
従来のレール運搬は軌道モータカーに鉄製トロ3両を連結した編成で25[m]レールを1回あたり10[本]運ぶといったものであり長尺レール交換を行うには現地でレール同士の溶接が必要であった。共用走行区間の作業時間帯は週4回が3時間程度の間合いとなっており2)溶接口数は1口が限界であることから長尺レール交換の作業性は非常に悪い状況であった。
そこで200[m]レールの運搬可能なロングレール運搬車を導入することで現地での溶接口数を減らし在来線専用レールの抜本的な交換を実施しレールシェリング傷の解消を目指すこととなった3)。
■ロングレール運搬車の概要
一度に200[m]レールを10本の運搬が可能となっている。また、レール交換で発生する古レールの回収機能もあり最長で150[m]レールを最大10本積み込むことができる。ロングレール運搬車はブレーキの連動等の重連総括制御ができるようにした三重連の軌道モータカーにより牽引される。主な性能は以下の通り。
項目 | 性能等 |
運搬本数 | レール取卸し :200[m] レール 10 本 レール回収 :150[m] レール 10 本 |
車両編成 | レール取卸し :モータカー3 両 + 運搬車 11 両 レール回収 :モータカー3 両 + 運搬車 10 両 |
台車形式(トロ) | ボギー台車 |
車体長(最長トロ) | 18,269[mm] |
車輪径(トロ)・車輪形状 | 500[mm] 修正円弧踏面 |
最高速度 | 45[km/h] |
積載重量(トロ) | 120[t] |
牽引方法 | モータカー3 両(重連総括制御による運転) |
添乗キャビン | あり |
保守用車安全システム | 運搬車 1 台(添乗装置内) モータカー 各車両 1 台 (重連総括制御時は モータカー1 両のみ起動) |
照明設備 | 各車両の手摺りに LED 作業灯設置 添乗装置に LED 前照灯設置 |
動力装置 | 60[kVA] 発電機 1 基(A 車) 100[kVA] 発電機 1 基(F 車) |
その他 | 台車軌間は標準軌。台車の取り換えにより狭軌に変更可能 |
ロングレール運搬車は共用走行区間での交換作業完了後に在来線でも活用できるよう、車両寸法が作業時を除き新幹線・在来線両方の車両限界を満たすように設計されており台車の取り換えもできる仕様となっている。
11両(ないし10両)のロングレール運搬車はA車~F車の6種類から構成される。
車両種別 | 主要搭載装置 | 200[m]レール運搬時 | 150[m]レール回収時 |
A車 | レール取卸装置、添乗装置、発電機 | 1両 | |
B車 | 電動ウインチ、レール誘導装置 | 1両 | |
C車 | レール誘導装置、レール寄せ装置 | 1両 | |
D車 | レール寄せ装置 | 6両 | 5両 |
E車 | レール積付装置、レール寄せ装置 | 1両 | |
F車 | 電動ウインチ、レール寄せ装置、発電機 | 1両 |
■レールの取り卸し
レールの取り卸しはA車に備わった車体左右にあるレールシュートから2本同時に行うことができる。
ただし使用の目的が在来線専用レールのみの交換であることからB車とC車に設置したレール誘導装置により積載した10本のレール全てを片側のシュートから取卸すことができるようになっている。
レール取り卸しにあたっては取り卸し現場までレールを固定しているE車のレール積付装置のレール締結を緩め、B車に搭載されている最大60[m]引出し可能な電動ウインチを使用してレールを引き出す。引き出されたレールがレールシュート端部より出たらロングレール運搬車が前進することでレールを引き出す。
2本目以降のレールは接続金具を用いて前レールの端部とワイヤーで接続し連続して引き出していく。最終レールの取り卸しではレール端部がレールシュートまで来たところでロングレール運搬車を一旦停止させA車に搭載されているレール吊り装置の電動チェーンブロックを用いてレール端部を緩やかに着地させる。
可動式のレールシュート及びレール吊り装置が搭載されていることによりレール取り卸しにおいてバールによる介添え作業や最終レール取り卸し時の設備防護等が不要となっている。
■レール回収
現地に残置してあるレール端部とレールシュート端部が重なるようにロングレール運搬車を停止させレール吊り装置でレール端部を吊り上げる。レール端部をシュートに載せた後ロングレール運搬車を回収するレールに向かって推進させレールを車両上に引き込む。レール誘導装置によりレールの進行方向を調整しつつレールが浮いて引き込めなくなるまで車両推進でレールを回収する。レールを引き込めなくなった後はF車の電動ウインチを使ってレールを所定の位置まで移動させる。
2本目以降も同じ工程を繰り返すがレール回収時は取り卸し時と異なり接続金具を使って連続的に回収するのではなく基本的に1本ずつ回収することとなる。
なお、レール回収を行う場合はロングレール運搬車の長手方向に働く圧縮力に対応するため連結棒を2.55[m](取り卸し時は6.35[m])のものにしたうえで車両編成を11両から10両に変更する必要がある。
■運用実績
現場での教育・訓練を経て令和2(2020)年4月導入、6月から本格的に運用を開始した。主に作業時間が4時間である拡大間合い4)を活用し週1回程度施工している。同年10月末までに20回程度作業を行い20,000[m]以上のレールを現地に運搬し、12,000[m]以上のレール交換を実施している。
注釈
1)新幹線と在来線が共用する共用レールは新幹線開業にあたり交換されている。
2)文献1)による。文献2)では2時間半となっているが、差異は文献作成者の主観によるものか文献作成時のダイヤ変更によるものかは不明。
3)文献2)。レール交換作業は現地にて200[m]レールを400[m]または600[m]に溶接した上で行われている。
4)文献2)。文献3)。文献4)。青函トンネルは夜間も貨物列車が走ることから通常間合いは約2時間半となっている。JR貨物との協議をして貨物列車のダイヤを変更することで4時間、日曜夜の新幹線を運休させることで最大6時間の拡大間合いとなっている。なお6時間の間合いが必要なのは架線の交換作業である。
参考文献
1)相馬雅人『北海道新幹線におけるロングレール運搬車の導入』,日本鉄道施設協会誌,第59巻2号,日本鉄道施設協会,(2021.02)
2)YOUTUBE『青函共用走行区間のロングレール交換【JR北海道】』
https://www.youtube.com/watch?v=VrAsOVZhCI4
(2024.04.18)
3)JR貨物『青函共用走行区間の保守工事に伴う貨物列車の運休等について』(2024.01.19)
https://www.jrfreight.co.jp/info/2024/files/20240119_01.pdf
(2024.04.18)
4)JR北海道『青函共用走行区間の保守工事に伴う新幹線列車の運休について』
https://www.jrfreight.co.jp/info/2024/files/20240119_01.pdf
(2024.04.18)
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20240119_KO_SeikanHosyukoji.pdf
(2024.04.18)
JR北海道所属(北海道新幹線用)
12M-30T-S-A ロングレール運搬車 A車
12M-30T-S-B ロングレール運搬車 B車
12M-30T-S-C ロングレール運搬車 C車
12M-30T-S-D ロングレール運搬車 D車
JR西日本所属(山陽新幹線用)
型式不明 ロングレール運搬車 B車