メルセデス・ベンツの軌陸トラック(ウニモグ)


■国産軌陸車とウニモグ軌陸車の違い
この項ではメルセデス・ベンツの軌陸トラックのうち日本国内で存在が確認されているウニモグ軌陸車について解説する。

ウニモグ(UNIMOG)はメルセデス・ベンツブランドで販売される(生産はダイムラートラック社)多目的作業用トラックでドイツ語のUniversal Motor Gerät(多目的動力装置の意味)の頭文字を取ったものである。

国産トラックベースの軌陸車はPTO(パワーテイクオフ)を動力源として油圧ポンプを回し道路走行用とは別の軌道走行用の鉄輪を駆動して走行するものが多い。

架装会社により仕様は異なるが車両に後付けされた駆動輪や油圧タンクの姿を確認できる場合がある。

油圧タンク
△油圧タンク

駆動輪
△駆動輪。油圧が一系統繋がっていてその先にある油圧モーターで前後進の駆動力を発生させる。

一方ウニモグは多目的動力装置と呼ぶだけあって多種多様な動力源を備えている。PTOはエンジンPTO(フロント/リア)及びトランスミッションPTO、そして車両の前/後/右側から油圧を取り出すことができる。ウニモグの軌陸車はこの油圧を利用して軌道走行用の装置を動かしている。

 

■ウニモグ軌陸車の架装メーカー
ウニモグで軌陸車を製作しているメーカーは数社存在するが当DBに収録されているのはドイツのザクロ社及びツヴァイベグ社の2社の車両である。


△上 ザクロ社製軌陸車(JR西日本向け) 下 ツヴァイベグ社製軌陸車(東京都交通局向け)

 

■ウニモグ軌陸車の分類
ウニモグ軌陸車は大きく分けて2つに分類することができる。
・軌道案内輪付モデル
・フリクションドライブモデル

各モデルの特徴については以下の通りである。

 

■軌道案内輪付モデル
駆動力を道路走行用のゴムタイヤでレールに伝達しているモデル。軌道上では線路から外れないように案内輪を下ろして走行する。

△京王電鉄所属の軌道案内輪付


△軌道案内輪付近拡大

このモデルの最大の利点は高い摩擦係数を活かした牽引能力の高さである。一般的な鉄道車両は鉄のレールの上を鉄輪で走行する。「少ないエネルギーで多くの物を運ぶ」という鉄道の目的には適ってはいるものの鉄と鉄との摩擦係数が低いため牽引車の重量に対してあまり牽引力を大きく取ることができない。

一方、ウニモグは鉄より摩擦係数が高いゴムタイヤで駆動するため牽引車両の重量に対して大きな牽引力を取ることができる。僅か13トンのウニモグで800トンの車両を牽引することができるとメーカーが謳っているのはその摩擦係数の高さ故のことである。

一方でタイヤで直接レールに動力を伝える構造上軌間と車両のトレッド(輪距)はある程度近い数値である必要がある。ウニモグ自体も初代から大型化してきておりトレッドも拡大している。そのため現行モデルで対応している軌間は標準軌の1,435mmや1,520mm、1,676mmといった広軌のみとなっている。

 

■軌道案内輪付UX100
トレッド(輪距)の関係で1,067mmの狭軌には軌道案内輪付のウニモグは本来成立しないが、1996年に登場した小型のウニモグUX100については唯一の例外となる。こちらはトレッドが狭いため軌道案内輪仕様で1,067mmの軌間に対応している。日本では東成建設所属の個体が確認されている。なお軌陸架装はザクロ社で今のところ確認されている軌道案内輪付モデル唯一のザクロ社架装車両となっている。

△東成建設所属の軌道案内輪付UX100

 

■フリクションドライブモデル
軌間1,435mm未満の狭軌に対応するのがメーカーがフリクションドライブと呼ぶモデルとなる。

△JR東海所属のフリクションドライブモデル

構造としてはタイヤとレールの間に鉄の筒を挟んで走行する形となり、車体がレールより浮いているようにも見える。
タイヤの駆動力はフリクションドラムと呼ばれる鉄の筒に伝わりタイヤよりも内側に入った鉄輪部分を経てレールに駆動力を伝えている。

△フリクションドラム部

この構造を取ることで狭軌への対応が可能となった。

しかしながらタイヤ-フリクションドラム/フリクションドラム-レール2箇所の摩擦係数のかけ合わせになってしまうためタイヤで直接駆動するものと比べると牽引力は大きく見劣りするものとなっている。

余談ではあるがフリクションドライブは構造上車両を前進させたい場合はギアを後退に入れて走行することとなる。
標準の前進8段後退6段のギアに加えて軌陸仕様は後退の7、8段が選択可能となっていてフリクションドライブであっても前後に時速50km以上で走行することが可能となっている。

 

■牽引用途以外のウニモグ軌陸車
なお、当DBには投稿はないもののかつてJR北海道が除雪用の軌陸車を所有していたようである。
このウニモグ軌陸車は夏季には簡易レール探傷車 スーパーレルチェッカー(SRC)の牽引にも用いられた。

△札幌駅構内や車両基地内の除雪で活躍した除雪用軌陸車 文献7)より

△軌陸ウニモグ牽引SRC 文献8)より

 

参考文献

1)ワイ・エンジニアリング株式会社『ウニモグの歴史』
http://www.yeng.co.jp/unimog/

2)Mercedes-benz.com『The Unimog. The powerful implement carrier.』
https://www.mbs-navigator.com/fileadmin/content/Unimog_Sales/Marketing/Broschueren/U_br_concept-UGE_ENG.pdf

3)Mercedes-benz.com『Technical information U 219 to U 530.』
https://www.mbs-navigator.com/fileadmin/content/Unimog_Sales/Marketing/Broschueren/U_br_technology-UGE_ENG.pdf

4)MBS World『Unimpeded view for the Kusttram.』
https://mbs.mercedes-benz.com/en/unimog/road-rail-operations/unimpeded-view-for-the-kusttram.html

5)ZAGRO『Unimog shunters』
https://www.zagro-group.com/en/products/shunting-vehicles/unimog-shunters.html

6)MBS World『Unimog U 423: Economic efficiency in shunting operations.』
https://mbs.mercedes-benz.com/fileadmin/user_upload/Documents/Unimog_2-Wege/DAIML_16_1684_ENG-02_exhibit_U423_shunting_vehicle.pdf

7)『はたらく電車100点』,講談社,(2000)

8)松浦 淳『新型レール探傷車(HI-RIC)の導入』,新線路,71巻,4号,鉄道現業社,(2017.4)


<軌道案内輪付モデル>

<フリクションドライブモデル>