平成2(1990)年の名鉄瀬戸線喜多山駅で撮影された芝浦製電気マルタイ。機種名不明だが、直流発電機が右後面に搭載されている事からMTT-15Dであると思われる。
■概要
芝浦製作所が製作した電気式マルタイの中でも初期のグループである。
製作第1号機であるMTT-1から昭和30年代後半製作のMTT-15までは、タンピングユニットが軸距間に装備されているオープンカーであり、芝浦より一歩先に国鉄へ導入されていたマチサ・スタンダードの影響が垣間見える特徴的スタイリングであった。
一方で搭載する機能や装備はモデルチェンジの度に追加されてゆき、後に続く芝浦製電マルの基礎を築いたグループであるともいえる。このため各機種で装備は異なるものの、基本的な構造は共通しており、本DBではまとめて解説する。
機種名 | MTT-1 | MTT-2 | MTT-3 | MTT-4 | MTT-13 | MTT-14 | MTT-15A | MTT-15D |
製作年 | 1957年 | 1958年 | 1958年 | 1959年 | 1959年 | 1960年 | 1962年 | 1964年 |
エンジン型式 (燃料) |
不明 | トヨタR型 (ガソリン) |
トヨタR型 (ガソリン) |
トヨタF型 (ガソリン) |
トヨタD型 (ディーゼル) |
いすゞDA220 (ディーゼル) |
いすゞDA220 (ディーゼル) |
いすゞDA220 (ディーゼル) |
作業走行 | – | 作業走行用 電動機 |
走行用 電動機 |
走行用 電動機 |
走行用 電動機 |
走行用 電動機 |
エンジン直結 | 油圧モーター |
回送走行 | – | – | エンジン直結 | |||||
タンピング ユニット昇降 |
昇降用 電動機 |
昇降用 電動機 |
昇降用 電動機 |
昇降用 電動機 |
油圧 シリンダー |
油圧 シリンダー |
油圧 シリンダー |
油圧 シリンダー |
直流発電機 | – | – | – | – | – | – | 交流発電機の励磁機 として搭載 |
MTT-1~15各機種における機能の変遷。モデルチェンジ毎に新機能が追加されてゆく様子がお分かりだろうか。大間・加藤・安達(1968)p133-135 表24および保線データ・シート(1965) p144-145 表1より抜粋して作成。
■構造解説
全機種とも、エンジンを動力とする交流発電機を搭載し、発電された三相交流電流を走行用・油圧ポンプ駆動用・タイタンパー駆動用等の各種電動機(モーター)へ供給している。先述の通り各機種で基本的な構造は共通しているため、本項では中央鉄道学園三島分教所(1964)を参考とし、代表機種といえるMTT-14AおよびMTT-15Aの解説を中心に述べる。
各部の解説は下記の通り。
・交流発電機…内蔵されたエンジンで駆動する内燃発電機である。
・直流発電機…MTT-14では交流発電機の励磁電流を灯具などの直流電源としていたが、MTT-15ではエンジンを動力とする直流発電機が搭載されるようになり、灯具の他に交流発電機の励磁機の電源も兼ねるようになった。
MTT-15Aの交流発電機(左)と直流発電機(右)。なおMTT-15でも各機種で搭載位置が異なる様で、15Aの後継機である15Dは交流発電機と直流発電機が左右逆に配置されている。中央鉄道学園三島分教所(1964)p148より引用。
・離線装置…油圧式離線用ジャッキを用い車体を上昇させ、側梁のフックに収納されている離線レールを離線用車輪下へ挿入し、手押しで線路外へ待避させる。
離線用ジャッキが伸びて車体が浮き上がった状態。車体とレールの間に離線レールを挿入し線路外へ待避させる。中央鉄道学園三島分教所(1964)p143より引用。
・タンピングユニット…ツールの根元に装備された起振用電動機により振動を発生させている。タンピングユニット上下昇降機構について、MTT-4までは昇降用電動機による電動であったが、MTT-13以降は油圧シリンダーによる昇降に変更された。
タンピングユニットを真横から見た写真。右側が運転台で、運転台直下からタンピングユニットを接続している昇降用油圧シリンダーが見える。中央鉄道学園三島分教所(1964)p101より引用。
・走行装置…後輪駆動であり、MTT-14までは走行用電動機を装備し、クラッチや変速機等の走行装置と接続されていたが、MTT-15からはエンジンが直接走行装置へ接続されるようになった。
MTT-14A(上)およびMTT-15A(下)の走行装置。エンジン直結駆動となった15Aのほうが若干複雑ではあるが、基本的には動力源が電動機かエンジンかの違いで構造は共通する。中央鉄道学園三島分教所(1964)p116およびp167より引用。
・運転台…走行装置直上が運転台である。回転する運転席が設置されており、タンピング作業時は枕木方向にて、走行時はレール方向にて操作を行う。運転台には、ブレーキペダルや変速レバー等の走行用各装置、各種電動機のスイッチが配置された電気操作盤、タンピングユニット油圧昇降用レバーやバルブが配置されたマニホールドA等が設置されている。なおMTT-15Aでは走行装置の変更に伴い、アクセルペダルとマニホールドB追加された。4)
MTT-14A(上)およびMTT-15A(下)の運転台機器配置図。14Aでは走行用および起振用電動機の電気操作盤が走行時に運転席から届く位置に配置されている。一方で15Aではエンジン走行となったためアクセルペダルが追加され、走行用電動機の廃止に伴い起振用電動機のスイッチのみとなった電気操作盤の位置が移動している。中央鉄道学園三島分教所(1964)p129およびp172より引用。
■参考文献
1)中央鉄道学園三島分教所『保線重機械の構造と取扱』,交友社,(1964)
2)『保線データ・シートNo.8 保線機械その1』,鉄道線路,13巻7号,日本鉄道施設協会,(1965.7)
3)大間秀雄・加藤正・足立顕『機械保線作業』,中央鉄道学園,(1968)
4)石原一比古『電マルの生いたち(上)』,新線路,32巻4号,鉄道現業社,(1978.4)
5)株式会社芝浦製作所『50年のあゆみ』,(1989)
■脚注
1)大間・加藤・安達(1968)p133-135 表24に記載あり。
2)石原(1978)に記載あり。
3)株式会社芝浦製作所(1989)p65 図表3-4に記載あり。
4)クラッチおよびブレーキのバルブが配置されている。
5)参考文献にはいずれも製作台数の記載がなく、試作機である事から1台きりの製作と思われる。株式会社芝浦製作所(1989)p64-65によると、国鉄関係者に披露され意見を求めた結果として、MTT-2が製作され国鉄へ納入されたと記述がある。
製作年:昭和32(1957)年 製作台数:1台
納入先:無し
製作第1号機。自走できずモータカーによる牽引および手押しで移動する。試作機という扱いで、納入はされなかった模様。5)
製作年:昭和33(1958)年 製作台数:2台1)2)
納入先:国鉄
製作第2~3号機で初の国鉄納入機。屋根、運転席、作業走行(枕木間移動)機能が追加される。
製作年:昭和33(1958)年 製作台数:1台1)
納入先:名鉄
製作第4号機で名古屋鉄道(名鉄)へ納入された。回送走行機能が追加され完全な自走が可能となる。
製作年:昭和34(1959)年 製作台数:7台1)2)
納入先:国鉄
国鉄向け量産機。性能は前年製作のMTT-3に準じるが、交流発電機容量が25KVAとなり全長も長くなったため全体的に大型化している。本形式のみ離線装置用電動機を装備する。
製作年:昭和34(1959)年~ 製作台数:不明
納入先:名鉄、近鉄
名鉄向け量産機。MTT-4に準じ大型化しているが、エンジンが従前のガソリンエンジンからディーゼルエンジンとなり、タンピングユニット昇降用等で油圧ポンプが追加された。
新線路,15巻12号,(1961.12)芝浦製作所広告頁より引用
製作年:昭和35(1960)年~ 製作台数:37台2)3)
納入先:国鉄
MTT-13に準じディーゼルエンジンと油圧ポンプを搭載している。本形式よりタンピングユニットが装備されている部分の台枠が切り欠かれるようになった。
製作年:昭和37(1962)年~ 製作台数:67台3)
納入先:国鉄、名鉄、近鉄、小田急、営団、同和鉱業 他
MTT-14の改良型。走行機能がエンジン直結に変更され、従前まで装備されていた走行用・油圧ポンプ駆動用電動機が廃止されている。交流発電機も自励式から他励式に変更され直流発電機が追加されている。
春永駒男・小林陽三『保線作業機械化の現状と方向について』,近畿日本鉄道技術研究所技報,2巻1号,(1970.12) 第5図より引用
製作年:昭和38(1963)年~ 製作台数:不明
納入先:国鉄、近鉄、西鉄
MTT-15の標準軌仕様。国鉄納入機は芝浦製電マルで唯一の新幹線向けである。