■概要
ロングレール輸送用機関作業車は浜松のレールセンターからレール更換現場に新品レールを運搬、取卸した後レール更換後の発生レールを積み込みレールセンターまで持ち帰る作業を担うロングレール輸送車の機関車である。
JR東海では経年、レール摩耗及びレール傷等により年間約200[km]のレール更換を施工している。
■ロングレール輸送車導入以前
当初は定尺レールを現地に配列し現場溶接することでロングレールを製作していた。しかし材修場等で予め200[m](現在は150[m])のロングレールを製作して輸送した方が得策であるため昭和37(1962)年に輸送試験を行った上でロングレール輸送が開始された。
レールへの疲労を考慮して摩耗の遅い直線部分も含めて昭和56(1981)年頃までには更換を行うことが必須となり、更換能力を考慮すると昭和47(1972)年度より年間240[km]程度を更換することが求められた。そのため浜松レール溶接センターを新設、また現地へレールを輸送するための939形ロングレール輸送更換車が昭和45(1970)年度に製作された。牽引は当初は912形ディーゼル機関車2[両]で行われたがのちに911形ディーゼル機関車1[両]の牽引となった。
このレール更換車は200[m]レール16[本]の能力であったため東海道新幹線全管内の対応はできなかった。またレールの取卸し・積み込みは機関車のない作業車側からしかできないため反対方向で作業をする際には機関車および作業車の付け替えが必須であった。
911形ディーゼル機関車の老朽化更新時期に合わせてロングレール輸送の効率化を進めるためロングレール輸送車は導入された。この輸送車の導入により全線へのロングレールの供給体制が整うとともに取卸し作業の大幅な効率化が図られることとなった。
■初代ロングレール輸送用機関作業車 LRA-9100形
△文献3)より。
平成6(1994)年1月に完成し性能確認の後4月1日より使用が開始された。
機関作業車[A車]は走行用及び作業用の動力を発生する車両で、1両ずつ編成の両端に連結されている。万一エンジンが1基故障しても健全なエンジン3基で最寄りの基地に自走収容できる能力を有している。
牽引能力としてはロングレール輸送更換車の倍である200[m]レール32[本]を確保している。
また車両の両側にレールガイドとレール小返り防止用レール姿勢制御装置が設けられているほか機関車前方にレールの積卸しを行う開閉式取入れ口を設けている。そのため編成前端・後端のどちらからでも新レールの取卸し、古レールの積み込みができる構造になっている。
△文献3)より
主な車両の構造は以下の通り。
△A車の概要図。文献1)より
■主要諸元
車両数量 | 2[両] |
車両重量 | 92.70[t] |
連結面間距離 | 18.00[m] |
車体全幅 | 3.38[m] |
車体全高 | 4.49[m] |
積載重量 | 0.00[t] |
機関定格出力 | 975[PS]×2×2=3,900[PS] |
主発電機出力 | 665[kW]×2×2=2,660[kW] |
主電動機 | 230[kW]×4×2=1,840[kW] |
駆動制御 | (エンジン+発電機+VVVF)制御 DEC方式 |
走行性能 | 運転速度:70[km/h](性能最大95[km/h]) 作業速度:3~6[km/h] |
勾配バランス速度 | 20[‰]勾配登坂バランス速度:25[km/h]以上 |
最大牽引重量 | 150[t]×8[軸]=1,200[t](600[t]×2=1,200[t]) |
■二代目ロングレール輸送用機関作業車 LRA-9200形
△二代目ロングレール輸送用機関車 LRA-9200形
老朽化した初代に代わり平成23(2011)年3月に更新が行われた。
両端の機関作業車はそれぞれディーゼル機関を2基搭載しVVVFによる電動駆動方式を取り入れプッシュプルとして作業時は低速走行のほか作業用電源となるエンジン発電機を兼用できるものとしている。なお、大型で特殊な保守用車であることから故障により運転を阻害しないよう通常の動力系の他1機関又は1装置が故障しても走行及び作業を継続できる以下のようなシステムを備えている。
(1)通常の走行では両端の機関車の4機関のうち3機関を使用し、1機関が故障しても切替を行って非常走行ができるようになっている。
(2)作業モードの時は機関作業車の第一機関で主電動機に給電、低速駆動走行し、第二機関で300[kVA]の作業電源を作る。反対側の機関車の第一機関は走行用、第二機関は待機予備用となるようにしている。
(3)通常走行時の作業用保安電源は先頭の機関作業車の補機電源から供給している。
(4)各種の装置電源故障に対しては非常切換えができるようになっている。
■主要諸元
ディーゼル機関 | 水冷4サイクルV型12気筒 直接噴射式(カミンズQST30) 783[kW]/1,800[rpm]×2×2=3,132[kW] |
主発電機 | 回転界磁式ブラシレス同期発電機(東芝STD-558A) 760[kW]×2×2=3,040[kW] |
主電動機 | かご形誘導電動機(東芝SEA-103B) 190[kW]×6×2=2,280[kW] |
主変換装置 | ダイオード整流IGBTインバータ装置 540[kW]×2×2 |
ブレーキ装置 | 電気指令式空気ブレーキ |
作業速度 | 3~6[km/h] |
最大引張力 | 187[kN]×2=374[kN] |
■参考文献
1) 南島袈裟彦『ロングレール輸送車作業』,新線路55巻7号,鉄道現業社(2011年7月)
2)島田秀典、長澤寿尚『車種別機械概要⑦ ロングレール輸送車』,鉄道施設協会誌2018年7月号,日本鉄道施設協会(2018年7月)
3)日本機械保線株式会社『ロングレール輸送車』
https://www.nkh-cjrg.co.jp/business/transport/long-rail/
(2022.11.17)
4) 名倉伊三美『新しいロングレール輸送車の導入』,新線路48巻10号,鉄道現業社(1994年10月)
5) 名倉伊三美『新幹線の機械化作業への取組み』,新線路48巻7号,鉄道現業社(1994年7月)
6) 『60kg200mロングレール輸送試験が計画されている』,新線路24巻2号,鉄道現業社(1970年)
7) 島村貞夫『新幹線のロングレール輸送更換車』,新線路25巻6号,鉄道現業社(1971年)