71_軌陸トラック


トラックに軌陸ユニットを装備し軌陸兼用としたものを指す。
以下、本項ではトラックそのものの解説を中心に述べる。

■トラックのメーカーについて
かつてはどの自動車メーカーもトラックを製造していたが、現在も後述の小型・中型・大型トラックすべてを製造しているのはいわゆる「大手4社」のみである。下記に大手4社とブランド名を表に示す。

日野自動車(HINO) いすゞ自動車(ISUZU) 三菱ふそうトラック・バス(FUSO) UDトラックス(UD)
小型 デュトロ エルフ キャンター カゼット※
中型 レンジャー フォワード ファイター コンドル※
大型 プロフィア ギガ スーパーグレート クオン

※主要車種のみ記載
※小型トラックにおいてはトヨタ自動車(トヨエース、ダイナ等)も大手に含める場合がある。
※UDトラックスのカゼットはキャンターのOEM車、コンドルはフォワードのOEM車である。

 

■トラックの種類について
トラックの種類は下記3通りの方法で区分できる。

①積載量での区分
主にメーカーやドライバー等が呼称しており、トラックの区分では最も一般的である。
小型トラック…積載量2t以下を指す

中型トラック…積載量4t前後およびそれ以上

大型トラック…積載量10t前後およびそれ以上

②道路交通法における区分
警察庁が道路交通の取り締まりのために制定している道路交通法では、リンク先の通り更に細かく区分されており、運転免許の種類についてもこの区分に依っている。トラックに関するものだけを抜粋すると下記の通り。

大型自動車 車両総重量11t以上、最大積載量6.5t以上、または乗車定員30人以上
中型自動車 車両総重量7.5t以上11t未満、最大積載量4.5t以上6.5t未満、または乗車定員11人以上30人未満
準中型自動車 車両総重量3.5t以上7.5t未満、最大積載量2t以上4.5t未満、または乗車定員10人以下
普通自動車 上記以外

③道路運送車両法における区分
国土交通省が所管し、主に車両の登録(新規・継続車検)の際に用いるのが道路運送車両法である。
道路運送車両法では「自動車の種別」(普通・小型・軽自動車・大型特殊・小型特殊の5つ)で自動車を区分しており、トラックはその殆どすべてが「普通自動車」に該当する。
更に下位区分で「自動車の用途」(乗用・乗合・貨物・特種の4つ)が設けられており、トラックの場合は「貨物」か「特種※」に該当する。
「特種」用途自動車とは、救急車や消防車など特種な目的のために使用される装備を搭載した自動車を指し、他の用途の自動車に比べて各種税金が安い等の特例が設けられている。
軌陸トラックも軌陸ユニットが装備されているため、「特種」用途の「保線作業車」か「軌道兼用車」として登録される場合が多い。

※「特種(とくだね)」と呼称する。自動車の種別のほうの「特殊」と紛らわしいため。

 

■トラックの架装について
乗用車と異なり、先述したトラックメーカーはキャブ(運転室)をシャーシ※の上に設置した「キャブ付きシャーシ」の状態で製品を出荷する。いわば運転室以外フレームむき出しの状態であるため、フレームの上に別のメーカーの工場でボディーを設置して晴れて完成車となる。
この作業の事を「架装」といい、架装専門のメーカーを「(コーチ)ビルダー」あるいは「架装メーカー」という。

※シャーシ…フレームにエンジンやタイヤなど走行装置を取付ただけの状態のものを指す。

架装メーカーが架装するボディーは、軌陸トラックの場合は下記4つが殆どである。

・平ボデー…「アオリ」と呼ばれる仕切で四方を囲った荷台を載せたもの。

・パネルバン…主にアルミ製の箱型荷台を載せたもの。

・ダンプ…荷台が昇降し上開きか下開きに開閉できるアオリ(「ゲート」という)を通して土砂等を排出できる構造のもの。

・特装車…上記以外、昇降式高所作業台や検測機器および操作室等、特定の作業に使用するための装置を架装したもの。

 

■主な架装メーカー
架装メーカーの数は業界団体である日本自動車車体工業会に加盟しているだけで約100社あり、日本鉄道車輌工業会等他の業界団体に加盟している架装メーカーも含めるとその倍はあると考えられる。
軌陸トラックの架装を行っている架装メーカーの内、主要なものを下記に示す。

・軌陸車テック(長野県松本市)…東日本における各種軌陸トラックの架装例が多い。
・東洋車輛(大阪市西淀川区)…西日本における各種軌陸トラックの架装例が多い。
・松山重車輌工業(新潟市北区)…軌陸トラックの架装も手掛ける。
・アイチコーポレーション(埼玉県上尾市)…高所作業車製造大手。高所作業台が架装された軌陸トラックを販売する。
・タダノ(香川県高松市)…クレーン製造大手。クレーンや高所作業台が架装された軌陸トラックを販売する。

軌陸トラックの仕様は架装メーカーの思想や技術が多大な影響を与えていると言ってよく、軌陸トラックを観察する上で留意されたい。

■軌陸トラックの構造
軌陸トラックの構造を下記に示す。

・軌陸ユニット…駆動方式は様々あり、タイヤと鉄輪の間に中間輪を介してタイヤの動力を伝動させるもの、エンジンの回転をPTOで油圧に変換し鉄輪自体を駆動させるもの等がある。(写真の個体には中間輪らしきものが見える)
・転車台…踏切から線路に進入する際に用いる。踏切上で軌陸トラックを停止させ、軌間の中央に転車台を降ろし、車両を線路の方向へ90°回転させた状態で軌陸ユニットを降ろす事で載線が行われる。
・ナンバープレート…車両の登録情報を読み取る手がかりとなる。写真の場合は軌陸トラックながら、「1」ナンバー(貨物用途)にて登録となっており、恐らく所有者が民間事業者(ニッケン)であるため、軌道兼用車の構造要件(鉄道事業の許可を受けた者)が満たせず「8」ナンバー(特種用途)で登録ができなかったものと思われる。

■多目的作業用自動車について

多目的作業用自動車とは、草刈装置や散水装置など各種アタッチメントを装備する事ができるトラックの事を指す。
日本において製造メーカーは存在せず海外からの輸入に頼っており、「ウニモグ」(ダイムラー製)や「ラドック」(ラドック社製)等の例が挙げられる。
両者とも軌陸仕様が日本においても販売されており、特にウニモグの販売例が多い様である。
上述してきたトラックの各種分類から外れるため建設機械と見做される場合が多いが、リンク先によると、道路運送車両法における「普通自動車」「特種」用途の「軌道兼用車」として登録が可能である(「大型特殊自動車」として登録がされない)ため、本DBでは軌陸トラックとして扱うものとする。

■軌陸車の歴史

大正時代の東京市電が使用していた「応急自動車」。後輪に鉄輪走行用らしき車輪が見える。
東京市電気局乗務員教習所(1923)より引用。

自動車をベースにした鉄道車両はかなり昔から存在し、世界中で考案されてきたため明確な起源を辿る事が難しい。本邦においても記録が少なく不明瞭であるが、戦前の時点で路面電車の架線保守用として自動車に鉄輪を取り付けた個体が存在している。1)
本邦国産の軌陸車で記録に残る最古の例は大正8(1918)年のシベリア出兵の際に陸軍が開発した装甲車である。満鉄の線路上からロシア国内に進軍するため、軌間可変機構を持たせたものであったが、道路用のタイヤも予備的に搭載し緊急時に装着し道路走行もできる仕様であった。2)その後も陸軍は91式広軌牽引車等多数の軌陸車が開発され、中でも昭和17(1942)年に開発された100式鉄道牽引車は終戦後多くの個体が国鉄等に払い下げられ保線用として使用されている。ちなみに100式の製作を担当したヂーゼル自動車工業は現在のいすゞ自動車および日野自動車の前身企業として著名である。


91式広軌牽引車。ボディーに吊り下げられているのがゴムタイヤで、鉄輪走行用車輪の外側に嵌め込んで使用する。
原(1975) 写真2より引用。

純然たる保守作業用としては戦後から開発が始まる。昭和25(1950)年に国鉄施設局が開発した動力架線車は、タイヤと鉄輪の交換により軌道モータカーとトラックの両方で使用できる軌道兼用車の嚆矢であったが、記録が殆ど残っておらずおそらく実用化も見送られたものと思われる。3)4)続いて昭和32(1957)年に国鉄電気局で開発された架線保守車は、三菱ジープをベースシャーシとし架線作業用の高所作業台と鉄輪/タイヤ可変機構を設けたものであった。当時貨物型モータカーで実用化されていた油圧式転車台を初めて装備したのもこの機種で、踏切から進入して転車台を用いて載線させるというアイデアの初出である。全国的に配備された他、私鉄にも多数の導入事例があり、保守用としては本邦初の実用化された軌陸車といえる。

架線保守車。三菱ジープがベースシャーシである。

2年後の昭和34(1959)に国鉄施設局と東洋工業(マツダ)が開発された道路兼用モーターカーは、平ボデートラックであるD1500をベースシャーシとした保線作業用であり、油圧式転車台を装備する他、軌道走行用車輪が予め装備されており、タイヤ交換なしで載線時に切替できる機構の初出であった。昭和37(1962)年頃には、軌道走行用車輪への切り替え機構が油圧式となった架線作業車が国鉄電気局で開発された他3)、同じく油圧式の軌陸切り替え機構を持ち、タイヤの回転と同期した鉄輪を装備するMJK-BKDシリーズが松山自動車工業と小田急電鉄により開発された。5)即ち昭和40年頃には技術的に現代の軌陸車は確立したといえる。


道路兼用モーターカー。マツダ・D1500がベースシャーシである。


松山自動車工業が架装したMJK-BKDシリーズ。
昭和40年代頃と思われる松山自動車工業カタログより引用。

上記の経緯で開発された架線保守車と松山自動車工業→松山重車輌工業製軌陸車が80年代頃まで主流であったが、90年代頃になるとレンタルのニッケン、アイチコーポレーション、小松製作所等、自動車業界で実績のある多数の架装メーカーが参入し、軌陸車の形態はますますバラエティー豊かになった。

踏切などの載線場所が数多く存在し、線路閉鎖も最低限の区間でよい事などから、在来線や私鉄では軌陸車による保守作業が数多く見られ、現在の本邦はまさに軌陸車大国である。

■脚注
1)東京市電気局乗務員教習所『電車機械器具図解 大正12年版』,(1923)等で紹介されている。
2)原乙未『広軌牽引車、装甲軌道車と鉄道作戦』,兵器と技術,336号(1975.5)
3)石崎徳蔵『機力施工に伴う事故防止』,鉄道と電気技術,8巻11号(1997.10)
4)『電車線工業のあゆみ 第3編 電車線技術の開発』,電車線工業協会(1983)
5)菅野久夫『現場のはなし 小田急電鉄-大野電力区の現況』,電気鉄道,25巻1号(1971.1)

■参考文献
1)一般社団法人全日本トラック協会『トラック早わかり』
https://jta.or.jp/ippan/hayawakari.html
(2021/10/17)
2)交文社特種車研究班『特種用途自動車の構造要件の解説〈平成30年2月〉』,交文社,(2018)
3)広田民郎『ツウになる! トラックの教本』,秀和システム,(2018)


■シャーシメーカー別分類
















■架装メーカー別分類