79_軌陸道床更換作業車


▪️概要
建設機械(建機)をベースとした軌陸の片持ち式道床更換車である。
合わせて広義の軌陸道床更換作業車として軌陸道床ふるい分け機・軌陸バラストクリーナーについてもこちらで取り扱う。

 

▪️登場以前
1967(昭和42)年頃から道床掘削に手作業に代わりバックホーが投入されるようになり人力での掘削という重労働は軽減された。しかし一晩で30[m^3]を掘削するのに狭い現場で300回以上バケットを繰り返し旋回するため一歩間違えば事故につながる危険性もあった。そのうえマクラギを一時的に移動する必要もありこれも重量物の移動という危険を伴う作業であった。

軌道上のみを走行する道床更換車は昭和40年代には存在したが、線路の外側に広いスペースを要するため限られた場所でしか使えなかった。そのため軌陸式として線路上だけでなく路上も走行できる軌陸式の道床更換作業車が欲しいという声が出ていた。

 

▪️軌陸道床交換作業車1号機の登場
その声に応えて水谷組が1989(平成元)年に三井造船エンジニアリングの子会社のメックスと手を組んで作ったのが軌陸道床交換作業車の第1号車であった。ただこの機械は現在の軌陸道床交換作業車とは異なり建機ベースではないもので軌道走行用の鉄車輪の外側に道路走行用のタイヤを付けたものであった(作業時にはタイヤを取り外す)。

この機械は路上走行可能で踏切等を利用し載線することができたため作業効率がアップした一方、専用に開発したためかなり高額になったと思われ軌陸道床更換車のスタイルを確立するには至らなかった。

 

▪️建機ベースの車両の登場
現在の形に近いものは東武鉄道依頼の下、水谷組が1992(平成3)年に0.9[m^3]バックホウをベースに開発したものが初出となる1)

△建機ベースの軌陸道床交換機1号機と思われる個体。「軌陸の水谷組」の文字が見えるのでデモ機と思われる。製作を担当した南鉄工所の文字も見える。文献3)より

 

▪️現行機のスタイル
開発費を抑えるためバックホウベースとし履帯でトレーラーからの乗り降り・離載線を行う。車両重量に耐える場所とスペースがあれば2,3分で離載線が可能となっている。

△外観

上記画像の1号機と比べるとカッターバーや第1コンベアーの形状が大きく異なっているのがわかる。また公道を走る際にトレーラーに積載状態で高さ3.8[m]以下である必要があるため第2・第3コンベアーは取り外して別車両で運搬できる構造となっている。

以後、要求性能に応じて形状を変えながらも片持ち式の軌陸道床更換作業車という形式が定着し現在に至っている。

 

参考文献
1)『メックスと水谷組道床交換機開発』,日経産業新聞,1989年4月6日,日本経済新聞社
2)尾島智行『片持式道床掘削機・もも太郎』,新線路,第62巻4号,鉄道現業社,(2008.04)
3)株式会社南鉄工所『製品紹介 - 道床更換機』
https://www.minami-tk.co.jp/product/roadbed-exchange/(2023.06.18取得)
4)増田喜孝『軌陸形道床更換機による分岐器の道床更換作業』,新線路,第47巻10号,鉄道現業社,(1993.10)

脚注
1)文献4)のp.18写真-1で軌陸道床更換作業車の載線の様子があり、「水谷組」の文字が見える。キャブの形状も似ているため水谷組が開発したデモ機と思われる。同p.18によると「7年の年月を要し、当社の指導のもとで請負業者が開発に成功したので」とあるので1985(昭和60)年頃に東武から製作依頼があったことがわかる。同時にこの「依頼」はメックスと水谷組の共同開発の軌陸道床更換作業車1号機(1989(平成元)年)よりも前であるためこちらの製作にも東武が噛んでいる可能性はあるが正確なところは不明である。