HTR170R

アイキャッチ画像:日本除雪機製作所『創立50周年記念社史 じょせつき』日本除雪機製作所, 2012年より引用

概要


HTR170Rは、1995年に1両が製造され2016年まで黒部渓谷鉄道SP1形として使用されたロータリー除雪車である。同機は日本除雪機製作所(現:NICHIJO)がはじめて全工程を手掛けた鉄道向け除雪車として知られる。

1995年、黒部渓谷鉄道は除雪車の代替更新にともない親会社の関西電力を通じて国際入札にて除雪車を調達することとなった。この際に日本除雪機製作所では日商岩井(現:双日)を経由して入札に参加し、技術審査を経て受注する。
同社は三和興業時代の1958年に日本初のロータリー除雪機関車である留萠鉄道DR101CL向け除雪装置の開発を行い、機関車本体は新潟鐵工所に委託製造した経緯はあったが、それから37年も経っており鉄道車両の経験はないに等しい状態であった。

黒部渓谷鉄道では冬季間運休のうえ架線は撤去され、橋梁上のレールは撤去される。その間の除雪は行われないため、春が近づくにつれ除雪と復旧作業が行われる。硬く締まった雪を除雪する(春山除雪)ため、この除雪作業には氷雪を削り取って投雪が可能なピーターカッター形ワンステージ式の除雪装置を持つ除雪車が使用されて来た。
これに対し、日本除雪機製作所では一般的なリボンスクリュー形ツーステージ式の除雪装置を提案する。当初、黒部渓谷鉄道はこの提案に難色を示すが、日本除雪機製作所は北海道大学低温科学研究所に協力を得て、同社の除雪装置でも春山除雪が可能であることを立証、採用に漕ぎつけた。

当時、道路用除雪車の経験しかなかった日本除雪機製作所としてこの車両の製作は未経験の事態に数多く見舞われ、非常に短納期であったことから数々のトラブルにも見舞われた。しかしながら、関係者の努力の甲斐あって1995年12月までに無事に竣工したことが同社社史にて記されている。

HTR170Rの車体は、同社の80馬力級道路用除雪車であるHTR81のスタイルを引き継いでおり、道路用除雪車メーカが作った車両であることがよく顕れている。
一般的な保守用車によく装備される転車装置は持たないが、代わりに車体と走り装置は分離して旋回することができるようになっていることが大きな特徴である。


日本除雪機製作所『創立50周年記念社史 じょせつき』日本除雪機製作所, 2012年より引用

1995年にHTR170Rは黒部渓谷鉄道の春山除雪に活躍したものと思われるが、その一方で2001年の段階で旧来のピーターカッター形除雪車が稼働している写真も残されており、どのように運用されていたかは調査が望まれる。
2016年に後継のHTR230Rが登場したため引退し、現在では札幌市手稲区のNICHIJO本社にて保存されている。

 
参考文献


1) 日本除雪機製作所『創立50周年記念社史 じょせつき』日本除雪機製作所, 2012年
2) 『黒部峡谷鉄道、冬じまいに備えて 前編』みすず刈る信濃の撮ってお記, https://count32totteoki.naganoblog.jp/e370857.html