兼用型モータカー


TMC100型以前に鉄道省→国鉄へ導入されていたモータカーの内、資材運搬と人員輸送を兼用できる性能を有するものを指す。
したがって牽引能力は貨物型と同等かやや劣る程度なのに対し、定員は11名と貨物型より多く視察型の代わりに人員輸送にも使用でき、それ故にベンチに車輪が付いたような単純かつ特徴的な外観をしている。


兼用型モーターカーの製造風景 『武部鉄工所百年史』,株式会社武部鉄工所,(2019) p26 より引用

鉄道省では昭和6(1931)年に規格化され、昭和10(1935)年に規格が細分化されA型/B型に分かれた。1)
しかし性能面では座席形状しか違いがなく、座席が枕木方向にもあるのがA型、座席がレール方向のみであるのがB型である。2)
この他、A型は台枠の高さが車輪より低くタイヤハウスがあるのに対し、B型は台枠が車輪より高くタイヤハウスが存在しない点でも識別ができる。



兼用A型(上)および兼用B型(下)モータカー
『兼用型モーターカー』,発動機製造株式会社,(出版年不明) p1およびp2 より引用

貨物型同様、B型は時代が進むにつれて製造されなくなった模様で、昭和23(1948)年にはA型のみがJES 1802にて規格化されている。しかし兼用型自体も昭和20年代後半には生産が終了し、JESの後身であるJISには規格が引き継がれなかった。

製造終了時期が早かったためか保存事例も極めて少なく、蒲原鉄道で走行機器類が外されてトロとして使用されていた個体が片上鉄道保存会にて現存するのみである。但し鹿島鉄道が廃線直前まで使用していた貨物型が兼用型を改造した個体だった可能性があり、これが事実なら自走できる個体が21世紀まで生き延びた事になる。3)

■兼用モータカーの変遷
定期的にモデルチェンジされていた貨物型と異なり、兼用型は基本的な構造が規格化以来殆ど変わらなかったため、外観から製造時期を推定する事は困難である。ここでは大まかな変遷として、鉄道省及びJES-1802規格化以前、規格化以後と分類し解説する。

<鉄道省規格化以前>
先述した昭和6(1931)年規格化以前は各社が独自に設計し納入していたと思われ、仕様や形態もバラバラであるが、特徴が似ている個体を比較する事でメーカをある程度推定できる。下記はその一例である。



(上)は昭和3(1928)年東京瓦斯電気製鉄道省新宿保線区所属(当時)の兼用型、(下)は南満州鉄道線路上で兵士を乗せている兼用型。(製造年および撮影年不詳) 軌間こそ違うが前後端梁上の手摺形状や台枠から飛び出たタイヤハウス等の意匠が共通しており、下段の個体も東京瓦斯電気製と推定できる。
(上)三善威『国産モーター・カー試験成績に就いて』,第四回改良後援会記録,(1929)p153 より引用
(下)藤田昌雄『日本の装甲列車』,潮書房光人社,(2013)p225 より引用


昭和3(1928)年製鉄道省大垣保線区所属(当時)の兼用型。タカタモーター(→東京発動機)および加藤製作所製で、Hの字状に配置された座席等、数年後に規格化される兼用A型と意匠が似ておりプロトタイプのひとつと推定できる。
三善威『国産モーター・カー試験成績に就いて』,第四回改良後援会記録,(1929)p151 より引用

<鉄道省及びJES-1802規格化以後>

典型的な鉄道省及びJES-1802規格兼用型モータカー 湯本幸丸『写真解説 保線用機械』,交友社,(1967)p193 より引用

昭和6(1931)年規格については資料が発見できず詳細不明だが、昭和10(1935)年規格以降は生産終了までこの形態であった。下記は昭和10(1935)年規格と昭和23(1948)年JES-1802規格の図面比較だが、各部寸法が殆ど変更されていない。


(上)昭和10(1935)年規格兼用A型モータカー全体図 『兼用型モーターカー』,発動機製造株式会社,(出版年不明) p3 より引用
(下)昭和23(1948)年JES-1802規格兼用軌道モータカー全体図 日本規格 JES-1802『兼用軌道モータカー』規格原本p1より引用


戦時中に撮影された代燃装置(木炭ガス)付の個体。木炭ボイラーを積んだトロを従えており、ガス管が兼用型の機関まで引き通されている。 築山閏二『木炭自動車』,共立社,(1939) p88より引用

但し昭和27年以降は変速機が貨物型同様のギアミッション式に変更されたため4)、生産終了までの数年間に限り初めて大幅な構造変更が行われた事になる。

撮影場所および時期不明だが、引用元の内容から北海道内で撮影と推定される個体。車両中央に摩擦盤と摩擦輪が見当たらず、座席の形状もHの字では無くなっている事から、変速機がギアミッション式となった末期生産のモデルと推定される。 『北海道保線のあゆみ』,北海道保線史編集委員会,(1972) p162より引用

■兼用型モータカーの構造

兼用型を真横から眺めた写真。中央部に見える大型の円盤が摩擦輪である。 『兼用型モーターカー』,発動機製造株式会社,(出版年不明) p3 より引用

あしおトロッコ館(栃木県日光市)で保存されている米川鉄工所製産業機関車の稼働風景。兼用型と同じフリクションドライブ式変速機を搭載しており、摩擦輪と摩擦盤を接触させて変速する様子がわかる。 (在羽テヌヒト撮影動画)

貨物型同様構造は鉄道車両というより自動車に近く、組立式転車台や手動式サイレン等貨物型と共通する装備こそあるが、相違点として変速方式が挙げられる。兼用型はフリクションドライブ式という、チェーンを介して車軸に繋がった大型の円盤(摩擦輪)を、エンジンの出力軸に取付された円盤(摩擦盤)に接触させる事で変速する方式を採用している。変速機の仕様上逆転機も装備しておらず、変速レバーに後進段が用意されている。


兼用型の運転席部図解 丸茂・杉山(1955) p230より引用

車輌中央部に運転席があり、兼用A型の場合Hの字状に配置された座席のくびれ部分に跨り脚をフットブレーキのペダルに置いた姿勢をとる。ブレーキ以外ペダルは無く、クラッチレバーと変速レバーを手で操作し、回転数はキャブレターに直結したキャブレターレバーで調節する。

■参考文献
1)日本国有鉄道『鉄道技術発達史 第2編第1』(1956)
2)丸茂達夫・杉山実『保線機械の構造と取扱』(1955)

■脚注
1)日本国有鉄道(1956)p744-747
2)日本国有鉄道(1956)p746
3)片倉穂乃花『鹿島鉄道の貨物型(?)モーターカーの正体を探る』,RM MODELS vol.325(2022)
4)日本国有鉄道(1956)p747 但し丸茂・杉山 p228では昭和25年以降と解説されている。



※貨物型だが兼用型の改造の可能性あり