PLM275

(写真:PLM275E。秋元(1967.10)写真①より引用)


マルタイの導入により道床搗き固め作業の機械化を達成しつつあった国鉄では、分岐器区間の搗き固め作業も機械化する事を目論んだ1)。電マルについては昭和40(1965)年にMTT-18が開発されたが、重マルについては本機種の導入が行われた。日本で最初に導入されたPlasser&Theurer製マルチプルタイタンパである。2)

■概要
Plasser&Theurer(PT)では1962年3)に分岐器用マルチプルタイタンパであるWE75/275が開発された。
タンピングユニットの真後ろに1人用操作台が吊り下げられており、オペレーターは作業箇所を目視しながら操作を行う構造である。
機種名のWEとは独語で分岐器を意味するWeicheに由来すると思われ、75が操作台1個(オペレーター1人乗り)で275が操作台2個(オペレーター2人乗り)である3)


WE75(左)とその搗き固め作業(右)。ツールがレールより外側のもののみ選択され挿入されている。
『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』より引用。
SLUB/deutche fotothek,Plasser & Theurer,Sächsische Landesbibliothek–Staats-und Universitätsbibliothek Dresden
PURL/https://www.deutschefotothek.de/documents/obj/86000899

WE275の進化系として1965年3)にレベリング装置を搭載したPLM275が開発された。機種名のPLMとはPlassermaticの略であり4)、当時はレベリング装置付きの機種に限り命名されていた。


PLM275。車体はWE75/275と同じ箱型である。写真の個体は高低検知にワイヤーを用いる仕様。『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』より引用。
SLUB/deutche fotothek,Plasser & Theurer,Sächsische Landesbibliothek–Staats-und Universitätsbibliothek Dresden
PURL/https://www.deutschefotothek.de/documents/obj/86000899

続いて1967年3)にはSLCシリーズと称する汎用自動マルチプルタイタンパシリーズに組み込まれた模様で、SLCシリーズの他機種と同じ凸型の車体にモデルチェンジされたPLM275SLCが開発されている。SLCとはSuper Lining Control5)の略であり、機種名の通りライニング機能が追加されている。


SLCシリーズ3機種。上からPLASSERMATIC 275SLC、PLASSER DUOMATIC 06-32SLC、PLASSERMATIC 06-16SLC。後二者はラインマルタイであり、DUOMATICは当時ダブル機に命名されていた。
『Plasser&Theurer EIN NEUER BEGRIFF SAHNBAU Vollmechanisierungsmaschinen』より引用。
SLUB/deutche fotothek,Plasser & Theurer,Sächsische Landesbibliothek–Staats-und Universitätsbibliothek Dresden
PURL/https://www.deutschefotothek.de/documents/obj/86000919

■構造解説
機種名275が示す通り操作台2人乗り仕様である。タンピングユニットはマクラギ方向にスライドし、ツールは1本毎に跳ね上げが可能であるため道床へ搗き込むツール数を選択できる。3)PLM275SLCではツール1本毎の搗き込み角度も調整可能である。6)



PLM275のタンピングユニット図説(上)とタンピングツール跳ね上げ状態(下)。タンピングユニットは枕木方向にスライドし、ツール挿入位置を操作台に座ったオペレーターの目視で選択する。
『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』より引用。
SLUB/deutche fotothek,Plasser & Theurer,Sächsische Landesbibliothek–Staats-und Universitätsbibliothek Dresden
PURL/https://www.deutschefotothek.de/documents/obj/86000899

一方のレベリング装置は赤外線による光学式またはワイヤー式が用意され、いずれかの選択が可能であった。7)後述する日本へ輸入されたPLM275Eは光学式を採用している。8)

PLM275の諸元については下記の通り。

PLM275
自重 22t
前輪荷重 12t
後輪荷重 10t
ホイールベース 2,700mm
車輪径 710mm
原動機出力 100ps/1,600rpm時
回送速度 60km/h
タンピングツール
開口幅
570mm
(二重枕木用は860mm)
タンピングツール
跳ね上げ角度
レール外側に80°
レール内側に15°
タンピングツール
搗き込み深さ
レール面より最大500mm

『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』より引用。

日本においては昭和41(1967)年に東京鉄道管理局田端機械軌道区へPLM275Eが1両のみ導入された。9)PLM275は箱型の車体であったが、PLM275Eは当時の06型に酷似したボンネットを持つ車体となっており、PLM275Eという機種自体も他国で導入例が確認できない事から日本向け特注仕様であった可能性が高い。


ボンネット側から見たPLM275E。秋元(1967.10)写真②より引用。

本機種登場の翌年には06型の本格的な導入が開始され、日本において多数派に成長するPT製マルタイの礎となった事は言うまでもない。但しPT製スイッチマルタイは昭和54(1979)年の07-275の導入まで12年間途絶える事になる。同年12月現在で本機種は国鉄に在籍していたが9)、タンピングユニットの構造の複雑さから故障が多く、昭和51(1976)年時点で殆ど使用されなくなっていた。1)その後の経過や廃車時期については不明である。

■参考文献
1)『Plasser&Theurer INFORMATION』,Plasse&Theurer,BULLETIN C7(刊行時期不明)
2)『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』,Plasser&Theurer,(刊行時期不明)
3)『Plasser&Theurer EIN NEUER BEGRIFF SAHNBAU Vollmechanisierungsmaschinen』,Plasser&Theurer,(刊行時期不明)
4)秋元清『輸入されたマルタイ』,新線路,21巻9号(1967.9)
5)秋元清『オーストリア・プラッサー社製のマルタイ』,鉄道線路,15巻10号(1967.10)
6)石原一比古『マルタイのいろいろ』,新線路,30巻9号,(1976,9)
7)石原一比古『大型保線機械の歴史・開発とその経過』,鉄道線路,24巻10号(1976.10)
※1)~3)はザクセン州立およびドレスデン大学図書館(ドイツ連邦共和国)所蔵

■脚注
1)石原(1976.10)
2)ラインマルタイ・スイッチマルタイを含めた日本で最初の導入例である。
3)『Plasser&Theurer INFORMATION』(刊行時期不明)
4)石原(1976.9)
5)松田務 『腐ってもマルタイ 今、明かされるマルタイのすべて…』,トワイライトゾ~ンMANUAL5,ネコ・パブリッシング(1996)
6)『PLASSERMATIC275SLC』,Plasser&Theurer,(刊行時期不明)
7)『Plasser&Theurer ERZEUGUNGS-UND VERKAUFS-PROGRAMN』,(刊行時期不明)
8)秋元(1967.9)
9)村沢一雄『「プラッサー」マルタイあれこれ⑴』,新線路,34巻4号,(1980.4)