■概要
マルタイ作業後の軌道の仕上がり状態を確認するための5[m]弦の軌道検測装置である。装置はマルタイによる牽引式で作業開始とともに自動で測定を行い測定結果はLABOCSシステム1)上で表示可能となっている。
■開発目的
従来のマルタイ作業後の仕上がり確認は監督者の目視あるいは10[m]弦手検測により行われてきた。目視は勘に頼るところが多く、手検測は多大な労力を要する。その上過去には仕上がり確認中に触車事故が発生しているなど問題があった。これらの問題を解決するために仕上がり検測装置の開発が始まった。
初期タイプの試作は平成元(1989)年に完成し試行錯誤を重ねて当型式(通称 Dr. Blue)が完成するに至った。
■検測装置の概要
連続測定モードでの5[m]弦検測(高低・通り)に加え作業測定モードでの10[m](高低・通り)、20[m](通り)変換データの波形形式でのリアルタイム表示が可能である。
また、検出センサーやワイヤー、空気圧等の異常を検知する自己分析機能を持たせフェールセーフに対応した安全で人にやさしい装置となっている。


主要な製造時のスペックは以下の通り。
走行装置 | 動力 | 無動力不随式保守用車両 |
制動 | 牽引動力車両との貫通方式 | |
軌道検測装置 | 測定装置 | 軌間・水準・高低(左右)・通り(基準)を測定 (一方の通りと平面性は計算による) 高低・通りは5[m]弦正矢法による 距離計を装備(地点装置とシンクロさせた測定) 測定間隔0.5[m] 前後進ともに20[km/h]での測定が可能 |
処理機構 | 測定データをディスプレイにて波形形式でリアルタイム表示 測定モード(作業モード・連続モード)の選択可能 連続測定モード選択により各測定項目の表示 作業測定モード選択により10[m](高低・通り)、20[m]弦(通り)データへの演算・表示 24[m]一次移動平均による基準線補正(作業測定モード) 基準補正値が警報基準超過時に異常項目、キロ程、測定値が印字(作業測定モード) 車上測定値をフロッピーディスクに圧縮保存 測定データをSUPER1302)データ(N5200形式)に変換 |
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地上処理装置 (LABOCSシステム) |
車上の測定値を再現 距離を媒体とした複数チャートの重ね合わせ(マヤデータ含む) 区間評価値(最大値、σ値等)の計算 |
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自己分析機能 | ワイヤー切れ、空気圧異常等の検出(異常時には警報鳴動) 各センサーのチェック及び判定 |
■ホーム限界、軌道中心間隔測定装置の装備
追加機能として後年ホーム限界、軌道中心間隔測定装置が装備された。
これまで人力で実施していたMTT施工後のホーム限界および軌道中心間隔の測定を機械化することにより高精度かつ効率的な検測が可能となった。
軌道中心間隔測定では隣接線への立ち入りが不要となるため作業時間帯に隣接線を列車が走行する線区で触車リスクの低減につながっている。ホーム離れはレール頭頂面330[mm]の位置から上面を超音波センサーがスキャンして最短距離を測定している。軌道中心間隔測定は赤外線距離測定器より隣接線のレール頭部側面に赤外線を照射して測定している。

参考文献
1)藤井大三・河内健太郎・寺地俊孝・馬場賢治『5m弦軌道検測装置の開発について』,土木学会年次学術講演会講演概要集第4部,第52巻,土木学会,(1997)
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1997/52-4/52-4-0714.pdf
(2023.07.10取得)
2)今井啓貴・柳谷勝『JR西日本における保線機械の活用状況』,日本鉄道施設協会誌,2014年11月号,日本鉄道施設協会,(2014.11)
3)『軌道保守管理データベースシステム LABOCS』
https://www.jrsi.co.jp/labocs/
(2023.07.10取得)
4)江原学『効率的なMTT作業』,日本鉄道施設協会誌,1996年11月号,日本鉄道施設協会,(1996.11)
脚注
1)文献3)。LABOCS(ラボックス)とは旧国鉄の鉄道技術研究所が開発し現在は鉄道総研において開発が継続されている軌道保守管理のソフトウェア。軌道変位や車両動揺などの測定データと線路形状・軌道構造等の各種環境データを表示したりデータ波形処理を行うことができる。
2)文献4)。SUPER130とはJR西日本の自動正矢生成プログラムのことを指す。例えば在来線高速運転線区に於いて現地の10[m]弦手測定を元にして当システムで20[m]弦を生成して整備を進めるといったことができる。