02_軌道モータカーロータリー

概要


モータカーロータリーとは、平たく言えば軌道モータカーにロータリー除雪装置を装備した保守用車である。
モータカーロータリーのパイオニアである新潟鐵工所では、形式名に”Motor Car Rotary”を略して”MCR”の名を冠していたが、運用サイドではこれを更に略して”MR”や「モロ」と呼称していることがある。

■ モータカーロータリーの成り立ち

降雪初期においては、営業列車や各種ラッセル除雪車により軌道内の積雪を軌道外へ除雪することができる。しかし、ラッセルされて除けられた雪は軌道の左右に溜まり側雪となる。側雪が高くなり過ぎ、一般に1.5 m以上になるとラッセル除雪が不可能となる。
したがって、側雪が高くなって来た段階で幅切と呼ばれる除雪が行われる。かつて幅切除雪は人力で行われていたほか、マックレー雪かき車と蒸機式ロータリー雪かき車により行われていた。しかし、いずれも人手を多く要する上に作業に掛かる手続きなども煩雑で、出動する頃には積雪が手遅れな状態となり、結局除雪作業に手こずってしまうということも茶飯事であった。

そこで、1950年代後半から普及しはじめた大型軌道モータカーにロータリー除雪装置を取り付けたモータカーロータリーが考案された。人手も掛からず、出動に掛かる手続きも簡便であることから雪が少ないうちからすぐに出動できるメリットがあった。更に除雪装置を取り外せばただの大型軌道モータカーであるため、夏場は保線作業にも使用することができる。
モータカーロータリーは、1959年に試作・開発がはじまり、1962年頃から量産に入った。すると瞬く間に全国の降雪線区に配備されるようになり、現在に至るまで鉄道除雪の重責を担っていくことになる。

■ モータカーロータリーの運用

長らく国鉄では幹線の本線除雪はロータリー除雪機関車(DD14形式など)とラッセル除雪機関車(DD15形式やDE15形式など)を用い、幹線の駅構内や本線の小除雪・支線の本線除雪にモータカーロータリーを用いていた。
近年では機関車の老朽化や効率化、機能上の問題からそれまで除雪機関車が担っていた幹線の本線除雪もモータカーロータリーが担う線区が増えて来ている。このため、近年のモータカーロータリーには幹線の本線を長距離除雪作業することが求められており、高馬力化や高機能化が求められている。

 
構造



△モータカーロータリーの基本的な構成(新潟鐵工所・N-MCR-600

■ 動力機構

現在のモータカーロータリーの多くは400馬力か600馬力のディーゼルエンジンを1基搭載している。動力はトランスミッションにより走行用動力と除雪用動力に分配され、走行は油圧駆動(HST駆動)によるものが主流である。
かつては100馬力から200馬力程度の走行用エンジンと、200馬力程度の除雪用エンジンをそれぞれ装備したものが主流であった。

■ ロータリー除雪装置

車両の前位側に取り付けられる。
雪は、掻き寄せ翼(ウィング)により線路中央へ掻き寄せられ、オーガによって砕かれて、ブロワーにより投雪される。

ロータリー除雪装置の方式は、オーガの有無によりワンステージ式とツーステージ式の2種類に分けられる。

ワンステージ式はオーガが無くブロワにより直接雪を掻き込んで投雪する方式である。動力効率がよく高速除雪が可能とされる。
しかし、一般に水分が多い雪質では掻き寄せ翼の部分で雪が圧縮され、ブロワへと雪が入っていかなくなり、抱え込んだ雪で走行不能になる「アーチング現象」を引き起こしがちである。
1960年代、国鉄ではモータカーロータリーやDD14形式除雪機関車にバイルハック型と呼ばれるワンステージ式除雪装置を採用したが、まもなくアーチング現象に悩まされた。

ツーステージ式はオーガにより雪を砕くことができるため、雪質によらず安定的な除雪が可能である。
除雪速度は5-10 km/hと非常に遅いという欠点があるが、高速除雪と安定除雪の両立は困難であり、1960年代以来日本国内のロータリー除雪車はモータカーロータリー、除雪用機関車問わずツーステージ式が全面的に採用されている。



△ロータリー除雪装置の基本的な構成(新潟鐵工所・N-MCR-600

■ ロータリー除雪装置の構成要素

・掻き寄せ翼(ウィング)

軌道の左右に溜まった側雪を軌道中心へ掻き寄せる。
左右に可動して掻き寄せ幅を調整できるほか、上下に可動させることもできる。
掻き寄せられた雪が詰まらないようスムーズにオーガへと雪を流す配慮が求められる。

・フランジャー

レール間を除雪する。
当然のことながら踏切や分岐器では格納する必要がある。

・オーガ

掻き寄せられた雪を砕く。
スクリュー型、リボンスクリュー型(ロルバ型)、レーキ型、スクリューレーキ型などさまざまな方式が存在するが、現在はリボンスクリュー型が全面的に採用されている。

リボンスクリュー型はスイス・ロルバ社が用いていたためにロルバ型とも呼ばれる。日本国内では日本初の除雪機関車である留萌鉄道DR101CLから使用されたのが最初で、1960年代後半から1980年代には鉄道においては採用例が少なくなるが道路用除雪車の世界では多く用いられていた。鉄道用としては国鉄DD17形式などから再び用いられるようになる。
新潟鐵工所では1963年頃から1992年頃まで独自のスクリューレーキ型を用いており、これは国鉄DD14形式やDD53形式にも用いられていた。

△リボンスクリュー型 △スクリューレーキ型 △改良スクリューレーキ型

・ブロワ

雪を羽根車で投雪する。
ブロワはブロワケースと呼ばれる筒状の筐体に入っており、ブロワケースの側面に設けられた投雪口から投雪される。
ブロワケースを回転させることで投雪方向を変えることができるほか、後述するシュートへと雪を送り込むことができる。

すなわち、ブロワから直接車両側方へ投雪されることもあり(ブロワー直接投雪)、シュートから投雪されることもある(シュート投雪)。
ワンステージ式向けにはプロペラ状になっているバイルハック型、鉤型になっている鉄研型が存在している。

△バイルハック型 △鉄研型

(村山熙, 『ロータリー式除雪モータカー』, 新線路, 14巻3号, 鉄道現業社, (1960. 3))

・シュート(案内筒)

ブロワーから吐き出された雪を上方へ誘導し吐き出す。
シュートを回転させることで投雪方向を制御することができる。

・シュートキャップ

シュートから吐き出される雪の向きを変える。
シュートキャップを開閉させることで投雪距離を調整することができる。

■ ラッセル除雪装置

車両の後位側に取り付けられる。
1959年にモータカーロータリーが開発された当初は存在しなかったが、試用しているうちに後退時に必要であることが認識され、1961年頃から簡易なものが取り付けられるようになった。

現在では大型のプラウを持ち、開閉式のウィングを備えるなど本格的なラッセル除雪も可能になっている。


△ラッセル除雪装置の基本的な構成およびオプション要素(新潟鐵工所・N-MCR-600)

■ ラッセル除雪装置の構成要素

・プラウ

軌道上の雪を左右に除ける。
モータカーロータリーでは単線用のV型プラウが圧倒的多数であるが、新幹線などを中心に複線用の片流れ型も存在する。
また、プラウの向きを変えられるマルチプラウ型も存在する。

・ウィング

軌道外の雪を除ける。
ウィングを開閉することによりより広い幅を除雪することができる。

・フランジャー

レール間を除雪する。
ロータリー除雪装置のそれと同様。

■ モータカーロータリーのオプション要素

・氷柱落とし装置

寒冷地かつ山岳線区では、トンネル内にて湧水が凍結し氷柱となる。成長した氷柱が列車へ衝撃することを防ぐため、氷柱落とし作業を行う必要がある。
氷柱落とし装置はトンネル断面形状に合わせた枠を展開し、物理的に氷柱を落とす。

・段切装置

山岳線区など軌道のすぐ横に斜面が迫っているような場所では側雪が斜面に沿ってより高く溜まり、時として雪庇を形成する。このため、斜面の雪に対して人力で階段状にする段切除雪が行われて来た。
段切装置はラッセル除雪装置上に取り付けられたブームを展開し、斜面の段切除雪を行う。

 
メーカー


 

1959年に国鉄とともにモータカーロータリーの開発に参画し、黎明期のモータカーロータリーからベストセラー機のMCR-4に至るまで広く手掛けていた。
2001年に会社更生法を申請し、事業は2003年に新潟トランシスへ引き継がれた。
 


 

大型軌道モータカーの老舗であるが、2000年頃にMCR400-WをJR西日本向けに納入している。
 


 

新潟鐵工所の系譜を受け継ぎ2003年からMCR-400MCR-600といった機種を製作している。
 


 

1995年に黒部渓谷鉄道向けHTR170Rを開発して以来、HTR400RHTR600Rといった機種を製作している。
 


 

1985年に下北交通向けMJK-MR0120、2003年にMJK-MR0131を製作している。
 


 

2014年からJR東海や第一建設工業向けにモータカーロータリーを製作している。

 
参考文献


1)松田務, 『モロ、ハイモ』, トワイライトゾ~ン マニュアル14, ネコ・パブリッシング,(2005)
2)田中行男, 『鉄道除雪作業と除雪機械について』, 交通技術, 11巻4号, 交通協力会, (1956.4)
2)伊能忠敏, 『これからの除雪対策』, JREA, 6巻2号, 日本鉄道技術協会, (1962.2)
3)長倉徳之進, 『除雪車両について』, JREA, 8巻4号, 日本鉄道技術協会, (1965.4)
4)佐藤正和, 『JR東海在来線における除雪作業』, 新線路, 70巻11号, (2016.11)
5)井上浩『軌道モータカー入門 N-MCR-600形 (1)』, 新線路, 49巻8号, 鉄道現業社,(1995.8)
6)井上浩『軌道モータカー入門 N-MCR-600形 (2)』, 新線路, 49巻10号, 鉄道現業社,(1995.10)
7)井上浩『軌道モータカー入門 N-MCR-600形 (3)』, 新線路, 49巻11号, 鉄道現業社,(1995.11)
8)新潟鉄道管理局編, 『雪にいどむ 雪と鉄道』, 新潟鉄道管理局,(1973)
9)横山正美, 『ロータリー式ディーゼル除雪機関車』, JREA, 2巻6号, 日本鉄道技術協会, (1959.6)
10)村山熙, 『ロータリー式除雪モータカー』, 新線路, 14巻3号, 鉄道現業社, (1960.3)
11)奥村実, 『モータカーロータリーが改良されるまで』, 新線路, 16巻3号, 鉄道現業社, (1962.1)