写真:近鉄のC 311
小林 陽三「新しい保線機械と道床改良作業システム」『近畿日本鉄道技術研究所技報』7巻1号,1975年,pp.108-121.より
C 311はMATISA製の道床交換作業車である。
■概要
C 311の広告掲載画像(欧州向けの個体と思われる)
『鉄道線路』23巻11号,1975年,広告p.より
C 311/312は1970年代に生産されたバラストクリーナーであり、日本やイギリス、また登山鉄道といった(欧州の標準的な車両限界よりも)規格の小さい鉄道向けに開発された。生産数は10台ほどであったという1)。このうち2台のC 311が近畿日本鉄道に導入された。
C 311概要図
小林 陽三「新しい保線機械と道床改良作業システム」『近畿日本鉄道技術研究所技報』7巻1号,1975年,pp.108-121.より
本機種は固定2軸式の動力車(モータカー)と、2軸ボギー式の作業車本体から構成されている。動力車はGaston Moyse製で2)、エンジンと発電機、走行用電動機を備えている。作業車はMATISA製で、動力車から供給される電力と、それを用いて発生させた油圧動力で稼働する。回送時は動力車の電動機で走行し、作業時の作業車の台車に備えられた油圧モーターで低速走行する仕組みである3)。
当時存在した他の道床交換作業車と同じく、本機種も左右からマクラギ下にスクレイパーチェーンを通してバラストを掻き出す方式だが、チェーンの接続は油圧で行うため10分程度で組み立てることができる。スクレイパーチェーンは作業車の中央部にあり、同じ場所にレールクランプが装備されている。一般的に、バラストを掻き出すとレールの高低や水準、通りが乱れてしまうため、道床交換作業後の軌道整備作業が大きな負担となる。その対策として本機は、掻き出す地点のレールをクランプしてマルタイのようにこう(扛)上する機能や、篩い分けた再使用可能バラストを掻き出し直後の地点に排出する機能を備え、軌道整備作業の負担軽減を図っている4)。
さらに本機種は安全装置が充実しており、外部6ヶ所に非常停止ボタンがあるほか、スクレイパーチェーンに異常な力が掛かると自動的に停止する。周囲のモータカーやバラストレギュレーターと無線で相互通話することも可能である5)。
■運用
近鉄では全線の道床が開業から50~70年を経過して老朽化が目立つようになり、抜本的な改良工事が必要となった。このため、軌間1435mm区間用として1974年に本機種を2台導入し、1号機(機番74-BC-1)は上本町営業局に、2号機(機番74-BC-2)は名古屋営業局に配置された。欧州では「小型機種」扱いだったC 311だが、近鉄の車両限界に収めるために特別設計が行われた6)。
近鉄におけるC 311使用作業の概要図
小林 陽三「新しい保線機械と道床改良作業システム」『近畿日本鉄道技術研究所技報』7巻1号,1975年,pp.108-121.より
本機種は主に幹線の複線区間における道床交換作業に用いられた。上図のように上下両線で約30台もの機械を同時に使用し、夜間約4時間の作業間合いで75m(バラスト全交換)~140m(篩い分け再使用)の施工を実現したという。C 311の最大作業能力は500m/hであり、これと比較すると低い数値だが、同じく近鉄の目黒製バラスト作業車では標準作業量を35m(バラスト全交換)~50m(篩い分け再使用)としていたため、それに比べるとC 311は十分強力であったと言える7)。
防音シートで覆われたC 311
松田 務「バラクリ3年…:今年は「バラスト=クリーナー」」『トワイライトゾ〜ンMANUAL』6号,1997年,pp.182-193.
ところが、本機種も他の外国製道床交換作業車と同様に、その過大な騒音が問題となってしまった。製造時から特別仕様としてエンジンカバー、篩い分け装置、バラストホッパーなどに防音対策が施されたがあまり効果が無く、近鉄側で鉛繊維入り樹脂板による防音装置を取り付けた8)。しかしこれだけでは不十分だったようで、最終的には車体全体を防音用ビニールシートで覆う改造が施されている9)。
近鉄では1980年代後半までに道床交換がおおむね達成されたため、2号機は1990年1月に引退し、動力車のみモータカーとして残された10)。1号機はその後も残存していたようだが、1992年の時点で保守用機械一覧に計上されなくなっているため、この頃には引退していた模様である11)。
■諸元
以下は近鉄に導入された個体の諸元である12)。
電源車 | 作業車 | |
全長 | 7954[mm] | 27800[mm] |
全幅 | 2540[mm] | 2640[mm] |
全高 | 3510[mm] | 3750[mm] |
自重 | 22[t] | 59[t] |
掘削深さ | 150~420[mm] | |
掘削幅 | 3900[mm] | |
路盤勾配 | 0~±14/100 | |
最大カント量 | 110[mm] | |
作業速度 | 50~500[m/h] | |
回送時速度 | 60[km/h] | |
エンジン | 386[PS]/1800[rpm] | |
発電機 | 380[V]/350[kVA] | |
走行用電動機 | 320[PS] | |
走行用油圧モーター | 7[PS]×4 | |
チェーン駆動用電動機 | 125[PS] |
■文献
1)Construction Cayola『Dégarnisseuses-cribleuses : 75 ans à avaler du ballast !』https://www.constructioncayola.com/rail/grands-formats/2020/12/17/131608/grand-format-degarnisseusescribleuses-75-ans-avaler-ballast(2024/02/17取得).
2)Construction Cayola,前掲1.
3)小林 陽三「新しい保線機械と道床改良作業システム」『近畿日本鉄道技術研究所技報』7巻1号,1975年,pp.108-121.
4)小林,前掲3.
5)小林,前掲3.
6)小林,前掲3.松田 務「バラクリ3年…:今年は「バラスト=クリーナー」」『トワイライトゾ〜ンMANUAL』6号,1997年,pp.182-193.
7)奥村 正晴「近鉄の保線の機械化」『鉄道ピクトリアル』31巻臨時増刊号,1981年,pp.88-92.福井 英之「近鉄におけるバラストクリーナの施工記録」『新線路』42巻9号,1988年,pp.26-29.
8)小林,前掲3.
9)松田,前掲5.
10)福井,前掲7.松田,前掲5.
11)西野 泰生「近畿日本鉄道における保線作業の機械化」『鉄道と電気技術』3巻10号,1992年,pp.27-30.
12)小林,前掲3.福井,前掲7.