貨物型モータカー


TMC100型以前に鉄道省→国鉄へ導入されていたモータカーの内、資材運搬を主目的としたものを指す。トラックがそのまま線路に載ったような風貌をしており、運転席と助手席を備えた全室の運転室と荷台を装備し、小型トロ数量を牽引する能力を持つ。
鉄道省では昭和6年に規格化され、昭和10年に規格が細分化されA型/B型に分かれた。A型はギヤミッション式変速機を搭載し、一方のB型はフリクションドライブ式変速機を搭載し車体寸法や性能がA型よりも若干小ぶりとなっている。
戦後になるとB型は製造されなくなった模様で、A型の方は昭和23(1948)年に日本規格(JES)で規格化され(規格番号:JES-1801)、日本規格の後継として日本工業規格(JIS)が発足すると昭和29(1954)年に再度規格化されている。(規格番号:JIS-E 1801)

■貨物型モーターカーの変遷
上記の様に、時代ごとに基本となる規格が存在するため、外見から製造年代をある程度特定できる。

①鉄道省規格型(貨物A形/B形)


上段:貨物A型、下段:貨物B型 工業雑誌社(1936)より引用

戦前~JES1801規格化までに製造された形態。前面窓は3枚組で傾斜しており、屋根上に前照灯1灯を装備する。戦時中には木炭ガス発生用ボイラーを積んだ代燃仕様も製造された。

戦時中に撮影された高田機工製貨物A型モータカー。代燃装置が見える。岡本(2015)p152より引用。

②JES-1801規格型

堀川(1950)グラビア頁より引用
昭和23(1948)年頃~JIS-E 1801規格化まで製造された形態。前面が窓下を含め傾斜するようになり、車体窓下の前照灯が2灯となった点が特徴。従前では変速機の出力(変速機~後輪)はチェーンドライブであったが、並行してシャフトドライブ式の採用が開始され、規格にもシャフトドライブ仕様が規定が追加されている。自動転車装置の開発も同時期に始まり、装備する個体が出現している。

③JIS-E 1801規格型


南阿蘇鉄道が現在も保有する個体。車体にJIS1801規格の銘板が貼付されている。

昭和29(1954)年頃より製造された形態。鉄道省規格型と同様前面の傾斜が窓部のみとなり、前面窓が2枚となった。
この頃よりディーゼルエンジン装備の個体が出現し、規格にも規定が載っている。

④JIS-E 1801規格以後

昭和40年代頃より、JIS-E 1801規格型を若干手直ししたような形態の個体が出現し始める。
国鉄ではグリル寸法が拡大された個体が昭和55(1980)年頃に導入されている他、昭和45年頃に松山自動車工業が三菱大夕張と高松琴平電鉄向けに製造した個体は車体がかなり角張っており、恐らく他機種の設計を流用したものと思われる。
JIS-E 1801も昭和51(1976)年に廃止され、遅くとも80年代には貨物型モータカーの製造は途絶えた。

■貨物型モーターカーの構造

前照灯…JES1801以降2灯装備が規定されている。
尾灯…後退時に使用し後面にも装備されている。(写真の個体はランプが撤去されている)
スポットライト…屋根上かキャブ背面装備が基本。
ベンチレータ…通風孔の事で同時期のキャブオーバーバスやトラックにも多く見られる。
クランク穴…クランクハンドルをここから差し込みエンジン始動ができる様になっている。
サイレン…手動式で車内側に手回しハンドルが付いている。
グリル…カバー状で冷却水導入孔が付く場合が多い。
荷台…クレーンや除草剤タンクが装備されている場合もある。
組立式転車台…台枠から吊り下がっているレール上の部品を線路上で組み立て、車両を前進させ載せた上で転車させる事ができる。
自動転車装置…WB間に装備される油圧式のジャッキで、持ち上げられた車両をそのまま回転させ転車する。現代の軌陸車に装備されているものと全く同一。(写真の個体には装備がない模様)

組立式転車台を線路上で組み立て転車させている光景 岡本(2015)p153より引用

自動転車装置により車両が持ち上げられた様子。いくつか種類があり、写真は栗見雅由(赤羽電力線工事区長)が開発したもの。 『施設教育』7(6),鉄道日本社(1954) p1より引用)

車内の様子は以下の通り。


山田(1967)p13-14より引用

運転方法は自動車とほぼ同一で、アクセルペダルを踏んで回転数を操作しクラッチとチェンジレバーで変速する。但し変速機にリバースが装備されておらず、後退する時は前後進切替レバーを操作し逆転機を作動させる。ラジエターが前面に装備されている構造上オーバーヒート防止のため極力前進する事が推奨されており、先述の組立式転車台や自動転車装置を用いて転車した上で帰路に就くのが基本である。

参考文献
1)『鉄道用モーターカー』,工業雑誌,72(909),工業雑誌社,(1933.9)
2)鈴木哲夫 『鉄道用モーター・カー』, 鉄道技術社(1933)
3)堀川吉雄『貨物型軌道モータカーの機構と其の取扱法』,高田機工株式会社(1950)
4)日本国有鉄道『鉄道技術発達史 第2編第1』(1956)
5)山田康一 『保線新書5 軌道モータカー』,交友社(1967)
6)松田務『MC:一般型モーターカー見聞録』,トワイライトゾーンマニュアル11,ネコ・パブリッシング(2002)
7)岡本憲之『究極のナローゲージ鉄道2 失われた「狭い線路」の記録集』,講談社(2015)