08_マルチプルタイタンパー


 

■概要

マルチプルタイタンパーは、バラスト道床のつ(搗)き固めを目的とした保線機械である。マルタイMTTなどとも称される。

 

つき固めの模式図

鉄道の道床はバラスト(砂利)がマクラギ(枕木)を保持することで構成されている(図A)。レール上を列車が繰り返し通過することで、次第にバラストが動いて保持力が緩み、レールの水平・水準などが狂った状態で固まってしまう(図B)。そのため、定期的にバラストをつき固め直す必要がある(図C)。

現代のマルタイはつき固めと同時にレールを掴んで上下左右に動かし、軌道狂い(高低、水準、通り[蛇行]、軌間、平面性)の修正を行うこともできる。

 

■構造

日本で現在主流のPlasser & Theurer製マルタイ

各部名称は以上の通り。日本では現在、箱型車体のマルタイが一般的であるが、同じ形式でも仕様が異なることが多く、各車バリエーションが豊富である。

 

・検測輪

引き上げられた状態の検測輪

マルタイは軌道狂いを修正する前に、必要な修正量の情報を取得する必要がある。検測輪から得た情報を元に、作業地点のレールが上下左右にどれだけズレているか、蛇行が無いか、必要なカント(曲線部での傾き)量があるかを計算する。

 

・タンピングユニット

搗き固め中のタンピングユニット

道床のつき固めを行う。ユニットを上下させる油圧機構と、道床に貫入するタンピングツール(爪)で構成される。油圧モーターなどで振動を発生させる方式を機械式マルタイ、電気モーターで振動を発生させる方式を電気式マルタイと呼ぶ。またレール上に支障物の無い一般軌道用のタンピングユニットを装備したものをラインマルタイ、分岐器などの支障物を避けてつき固めできる特殊なユニットを装備したものをスイッチマルタイと呼ぶ。

 

・リフティングユニット

クランプ中のリフティングユニット

ローラーでレール頭頂部をクランプし、レールを正しい位置まで上下左右に移動させる。特に高低・水準の修正をレベリング、蛇行の修正をライニングと呼ぶ。

 

・防音壁

引き上げた状態の可動式防音壁

マルタイは保線機械の中でも特に騒音が大きい。日本では線路と住宅地が近接しており、また夜間作業が中心であるという事情から、タンピングユニットの周囲に防音壁を取り付けた個体が多い。

 

■歴史

ビータを用いた人力つき固めの様子
磯浦 克敏「保守間合」『JREA』16巻7号,1973年,pp.21-24より

つき固め作業はかつて、ビータ(つるはし)を用いて人力で行われていたが、これは大変な重労働であり、また多人数が必要なため非効率でもあった。この作業をオンレール機械化したのがマルタイである。

 

1949年にオランダで撮影されたScheuchzerないしMATISA製のマルタイ
169697 / collectie Het Utrechts Archiefより

現在主流の機械式マルタイがもつタンピングユニットの基本構造は、1930年代にスイスのCharles-Auguste Scheuchzerが開発したマルタイに由来する。このマルタイは第2次大戦後、MATISAに引き継がれてスタンダード形として世界中に広まった。日本国鉄も1954年にMATISA・スタンダードを導入し、これが日本最初のマルタイとなった。

 

私鉄向けに生産された芝浦製作所製電気式マルタイ・MTT-13

一方、国鉄は芝浦製作所と共にマルタイの独自開発も進め、1957年に初の国産電気式マルタイであるMTT-1Aが完成する。その後、国鉄・私鉄ともに海外製機械式マルタイと国産電気式マルタイが勢力を二分していたが、国鉄民営化を境に芝浦製作所は大型マルタイの製造から撤退したため、近年では海外製マルタイが主流である。

 

■文献

湯本 幸丸『写真解説保線用機械(改訂増補5版)』1980年,交友社.

Scheuchzer S.A.「Sur les rails de l’excellence」https://www.scheuchzer.ch/notre-histoire(2023/01/12取得).

交通建設HP「MTTが線路を作る」https://www.kotsukensetsu.jp/construction/pdf/H24kouken-spring1.pdf(2018年6月13日取得).

日本機械保線HP「線路はゆがむ」http://www.nkh-cjrg.co.jp/distort/(2020年1月5日取得).

 


 

1953年に設立されたオーストリアの保線機械メーカー。現在、日本国内へ最も多くのマルタイを供給している。

 


 

1945年に設立されたスイスの保線機械メーカー。現代のマルタイの基礎となったScheuchzerの系譜を引き継ぐ老舗である。

 


 

国鉄と共に国産初のマルタイを開発し、電気式マルタイを数多く製造していたメーカー。現在は生産から撤退状態にある。

 


 

名鉄向けに小型のマルタイを製造しているメーカー。

 


 


ドイツの保線機械メーカー。マルタイは小型機種を手掛けている。

 


 


アメリカの保線機械メーカー。1990年代に複数社に小型マルタイが導入された。

 


 


藤光は日本の鉄道商社。製造を行っているのは石田製作所であるが、車体に貼付されている銘板は藤光のものである。