■概要
平成11(1999)年度に相次いだトンネル内のコンクリート剥落事故を受けて運輸省のトンネル安全問題検討会が設置され新しいトンネル保守管理体系が定められた。
これを踏まえてトンネル内を十分な照明のもと至近距離から機動的に検査できるツールとして製作されたのが当車両である。JR東日本及びJR西日本への配備が確認されているが、JR西日本向けは平成13(2001)年度から平成17(2005)年度にかけて計6両が配備されていることが明らかになっている。
■要求性能
製作に当たり要求性能として掲げられたものは以下の通りである。
1.トンネル覆工のアーチ部及び側壁上部を見渡せる広い検査床を有すること。
2.アーチクラウン(天端)部を含め全断面へ容易にアプローチできる足場性能を有すること。
3.補修作業に活用が可能な十分なけん引能力を有すること。
■外観
キャビンを車体中央部に配置し、キャビン上部に覆工全面を至近距離で見渡せるアーチ部検査台を配置している。ブームバケットは後部に配置し収納時にアーチ部検査台と一体の検査台として使用できる構造となっている。
車体前部のエンジンルームの左右に側壁上部付近の打音検査等を専用で行うことができる接合部検査台を設けている。
車体後部には至近距離検査用の照明や個別検査用の電源として15[kVA]の発電機を設置し、最後部には検電装置収納箱を設けている。

■作業走行装置
回送時はトルコンによる駆動走行でスイッチの切替で油圧駆動走行による低速走行(0~10[km/h])も可能となっている。車軸の板バネを固定する車体安定装置を付加しブーム使用時のバケットの安定性を向上させている。
■ブームバケット
アーチクラウン(天端)部のき電線の間に入れるようバケット幅を90[cm]に抑え奥行きを長めとし全体として機動的なスペースとしている。カントによる車体の傾きをブームベースから手動で水平にできる「カント修正装置」を装備している。ブーム操作は電子制御により斜め上下左右へも簡単な操作で直線移動が可能なものとしている。
ブームバケットは鋼板による補修とコア抜き(コンクリートの穴あけ)作業を想定し積載重量を350[kg]としている。
■アーチ部検査台
手摺高さを考慮しできるだけ高い検査床とし、3[m]×3[m]と広いスペースを取っている。また、検査台全体が覆工へ油圧により60[cm]移動する構造としている。さらにA2サイズの展開図が確認できる収納式の机を設けている。
■接合部検査台
接合部付近を専用で確認できる作業床をレール踏面より1.7[m]の位置に設けている。検査台の収納はエアー式である。
■各検査台の附属機能
各検査台に100[V]電源や圧縮空気を配管し検査・補修等あらゆる使用に対応できるようになっている。
■保安装置等
保安装置としては従来機種同様「保守用車接近警報制御装置」等の走行用安全装置を装備し、車体前後のボディは搬送台車がアタッチメントにより積載可能な強靭な構造としている。隣接線路に対する安全対策として予め設定した作業線路以外にはブーム装置が旋回できないようにする「隣接線防護スイッチ」を備えている。
ブーム等の移動稼働時の対応として台枠4か所に「緊急停止ボタン」、ブームバケット四隅にトンネルとバケット間に検査者が挟まれないように「挟まれ防止棒」、ブームバケット乗込台が開口部にならないように乗込台が収納されないとブームバケットが稼働しないようにする保安装置を備えている。さらにバケットとキャビン間に有線の連絡回線を設け小移動時の検査者と保守用車作業責任者との連絡を密にできるよう配慮している。
■主要諸元及び走行性能
当車両の主要諸元及び走行性能については以下の通り。
・主要諸元
項目 | 主要寸法 | 備考 |
全長 | 10,000[mm] | 台枠間 |
全幅 | 3,300[mm] | |
全高 | 4,480[mm] | |
車輪径 | 762[mm] | |
重量 | 22[t] | |
ブームバケット | 900×2600[mm] | 稼働高さ10[m]未満制御 |
バケット積載量 | 350[kg] | |
転車台 | なし |
・走行性能
勾配 | 牽引荷重 | 単車速度 | 牽引速度 |
水平線 | 50[t] | 70[km/h]以上 | 45[km/h]以上 |
10‰ | 50[t] | 70[km/h]以上 | 45[km/h]以上 |
20‰ | 50[t] | 50[km/h]以上 | 30[km/h]以上 |
30‰ | 50[t] | 50[km/h]以上 | 20[km/h]以上 |
参考文献
1)松尾廣和『新幹線トンネル検査車(TK)の開発』,日本鉄道施設協会誌,2002年第2号,日本鉄道施設協会(2002.02)
2)濱田吉貞,藤井大三,鎌田和孝『山陽新幹線トンネルにおける覆工剥離対策の取り組み』,インフラメンテナンス実践研究論文集,2022年第1巻第1号,土木学会(2022.03)