■概要
この項ではメルセデス・ベンツのブーム式の軌陸高所作業車について取り上げる。
MCDBに投稿されているもので当該項目に当てはまるものは鉄道運輸機構(JRTT)が保有するものとJR九州が保有するウニモグがある。この項では比較的資料が豊富なJRTT保有の車両を中心に解説する。
△ツインバケット車。電化柱が被っているのはご容赦いただきたい。
■軌陸装置
軌陸トラックの項でも解説した軌道案内輪方式が採用されている。概要についてはこちらを参照のこと。
■高所作業装置
鉄道運輸機構所有車には「ツインバケット」と呼ばれる高所作業装置が装備されている。「ツインバケット」の由来は通常1つ装備されているバケット(作業台)が2つ備わっているからと思われる。
主な用途として新規の新幹線工事に於けるトンネル区間での下束の取り付けに使われているようである。
△ツインバケット車 出典2)より
■鉄道運輸機構以外で導入事例が見られない理由(仮説)
JRTTでは新幹線工事用にウニモグ軌陸車を多数導入しており、このツインバケット車も複数存在が確認されている。
しかしながら国内では他に同様の導入事例は見られない。その理由をいくつか考察してみたい。
理由としてまず考えられるのが国産の軌陸高所作業車で事足りてしまうことであろう。
国産軌陸高所作業車は日野のデュトロやいすゞのエルフなどより小型の車両をベースに作られていることが多い。国産車よりも高所作業性能が高ければカバーできない領域にウニモグが食い込む余地が生じるが、少しブームを伸ばす程度の作業が大半で「安い国産車で十分」となってしまうものと思われる。
もう一つ理由を挙げるとすればそれは「ウニモグが重い」ということである。
ウニモグの重量を推量する材料としてこのページを参考にした。それによると重量は7,090kgとある。高所作業架装時に必要のない荷台等が含まれているとして重量は6トン台中盤といったところであろう。
次に高所作業装置の重量を推測する。
以下の画像は日野のレンジャーベースの高所作業車である。
△新型レンジャーベースの高所作業車。
このクルマのナンバープレートを見ると大型自動車用の大判のナンバーが付いている。
(乗用車用の小判ナンバープレートとの見分け方はナンバー取り付けボルトが上2箇所だけか上下4箇所あるかで見分けると容易である)
このクルマはキャブやホイール形状、大判ナンバーであることからレンジャーのGCであると思われるが、日野自動車のサイトによると平ボデーの車両重量は4,048kg、最大積載量(≒架装余裕重量)は7,483kgとある。
架装時に平ボデー(荷台)を撤去することを考えるとキャブ付きシャシの重量は3トン半程度であり、最大で架装に充てられる重量は8トン近くにもなる。
勿論ここから乗車定員分の重量や工具等積載のための積載量(500kg程度)を差し引いた分が実質的に架装に充てられる重量になるのだが、車両総重量(車両重量+乗員重量+最大積載量)が11トンを下回れば中型免許で乗れる車となるので(大型免許が必要な車とするのであればもっと車両限度が高いシャシを選択するのが自然)この車両の架装物の重量は7トン弱ではないかと推測される。
よってウニモグ車両本体6.5トンと架装物7トンでウニモグ軌陸高所作業車は13トンくらいの重量ではないかと想像される。
さてウニモグのテクニカルデータによればメンテナンス車両の許容最大総質量は13.8トンとなっている。計算上ウニモグにレンジャー同様の高所作業装置を載せることは可能ではあるが、ウニモグが始めから油圧装置等を備えているとはいえもっと大掛かりな高所作業装置を搭載して多様な作業に使用したいという要望に応えるのは難しいというのが正直なところのようだ。
国産トラックベースの軌陸車で大半の作業は賄える上にウニモグ自体にも重量面での架装の自由度に制約があるということもあり、国内ではJRTTの新幹線工事でしか見かけないということになっているものと思われる。
■ウニモグを望みの軌陸高所作業仕様で成立させるための選択肢
海外でもブーム式ウニモグ高所作業車を見ることができる。しかしながらバケットはあまり大きくないものが多いようである。これはもしかしたら高所作業車以外の用途で多彩なアタッチメント(ロータリーカッター、除草剤散布、草刈装置等)を付けることも視野に入れているからかもしれない。
とはいえやっぱり重量級の高所作業装置をウニモグにつけて運用したいという顧客はいるようである。その要望を満たすために作られた車の例が以下のものである。
△ウニモグ3軸車。Frankfurt am Main – Stadion駅周辺にて。ブーム式の作業台のほかにクレーン装置を備えている。
3軸のウニモグはメーカーでの設定では存在しないので架装の過程で1軸追加したとみるのが自然だろう。目的は1軸追加することで許容最大総質量を増やすことにある。
△ドイツの保守用車に貼ってあるのをよく見るスペックシート。
車両重量は13.5トン仕様としながらペイロードを3.5トン確保している。
この項で扱う車両ではないがJRTTにも3軸のウニモグクレーン車がおり、恐らく発想は同じではないかと考えられる。
参考文献
1)上成工業 『ツインバケット高所作業車』
https://www.josey.co.jp/case/twinbucket/
2)鉄道運輸機構 『鉄道・運輸機構だより 2020』
https://www.jrtt.go.jp/corporate/public_relations/magazine/asset/no67.pdf
3) 5811F, 『englisch, Mercedes-Benz Unimog U400 – DLG eV』
https://pruefberichte.dlg.org/filestorage/5811F_e.pdf
4)日野自動車 『レンジャー燃費値計算条件』
https://www.hino.co.jp/products/purchase/cleansafety/pdf/ranger_20200631.pdf
5)MBS Navigator『Road-rail operations: Dual efficiency – on road and rail.』
https://www.mbs-navigator.com/fileadmin/content/Unimog_Sales/Marketing/Broschueren/U_br_road-rail_ENG.pdf