写真:B56 C(交通建設60-23-1-0-20003)
MATISA(Matériel Industriel S.A.)は、スイス・ローザンヌ近郊のクリシェに本社を置く保線機械メーカーである。
■概要
La Standardが掲載されたMATISAの広告。
『Schweiz Suisse Svizzera Switzerland(スイス連邦鉄道公式旅行雑誌)』26巻10号,1953年,p.Ⅵ.より
1934年、August Ritz(アウグスト・リッツ)はScheuchzer(ショイヒツァー)社を買収し、Scheuchzerが開発した自走式道床つき固め機(マルチプルタイタンパー)の製造・販売ライセンスを得た。戦後の1945年5月、RitzはConstantin Sfezzo(コンスタンタン・スフェッゾ)と共にMATISA(マチサ/マティサ)社を設立し、マルタイの開発・製造を始めた1)。
最初に発売したLa Standard(マチサ・スタンダード)は、その形状から実質的には戦前のScheuchzer製マルタイと同型であったと思われる。
1954(昭和29)年5月、日本国鉄はマチサ・スタンダードを輸入し、これが日本最初のマルタイとなった。その後、改良型のB 27が1958(昭和33)年に、さらに大型化・多機能化したB 60が1962(昭和37)年に次々と国鉄へ導入され、一部の大手私鉄でもMATISA製マルタイが採用され始める。1970年代にはB 85が当時の日本における機械式重マルタイの決定版となり、日本市場向け防音型B 85は約100台も製造されたという2)。
1980年代以降、日本国内におけるMATISA製マルタイの導入数は減少したが、その後も様々な機種が今日に至るまで輸入され続けている。B 200以降の輸入機は現在主流の箱型車体に改められ、B 40以降はタンピング性能がさらに強化された。近年では、分岐器や脱線防止ガードのある区間のつき固めに対応した特殊なタンピングツールを持つタイプの導入例が多い。
■機種
日本に輸入されたMATISA製マルタイのおおよその変遷
以下、各形式を年代順に並べた。括弧内は日本に輸入されたタイプを示している。各形式名に付くBはBourreuse(仏:マルチプルタイタンパー)の頭文字である。
・大型機種(重マルタイ)
白井(1973),p.3より
日本に初めて登場したマルタイ。タンピングツールの動力が圧縮空気式である点が特徴3)。
白井(1973),p.3より
スタンダードの改良型。タンピングユニットが車体中央から車端へ移り、ツールの昇降が油圧駆動化された4)。
以下の4機種には、機構に応じて次の文字が形式に付与される5)。
M | Multiple[複式]:2丁づき双頭タイタンパー(マクラギ2本分を同時につく) |
N | Niveleuse[平らにする]:自動レベリング機構(レールの高低・水準[傾き]狂いを直す) |
R | Ripeuse[横に移動する]:自動ライニング機構(レールの蛇行を直す) |
I | Independant[独立]:つき固め/レベリング/ライニングを独立して作業可能 |
B 27の改良型。ツールの昇降に加えて開閉も油圧化され、作業時の走行も油圧モーター式となり、作業効率がさらに上がった。レベリング・ライニング機能を搭載したタイプが初登場する6)。
日本鉄道技術協会「軌道保線機械のいろいろ」『JREA』9巻3号,1966年,写真pより
分岐器対応の機種(スイッチマルタイ)。東海道新幹線に1台のみ存在した7)。
(BNI 80/BNRI 80/BMNI 80/BMNRI 80/BNI 85/BMNI 85/BNRI 85/BMNRI 85)
B 60の改良型。B 80のマイナーチェンジに当たるB 85は、数多く輸入された著名な機種。前方へ長く伸びたアーチングビームが特徴的である8)。
特殊な機構を備え、分岐器や脱線防止ガード設置区間に対応したスイッチマルタイ9)。
『新線路』42巻1号,1988年,広告pより
さらに大型化して前後運転台・2軸ボギー車となり、タンピングユニットとレベリング装置が台車間に設置されるようになった世代。B 241はシングル機(1丁づき)、B 242はダブル機(2丁づき)、B 244はスイッチマルタイである10)。
以下の機種には、機構に応じて次の文字が形式に付与される11)。なお、この世代より形式が重量を元に命名されるようになったため、同じ形式でも製造年代によって仕様が異なる場合がある。
数字 | おおよそのトン数 |
L | Single Tamping Unit[Ligne]:一般軌道用1丁づき |
D | Double Tamping Units:一般軌道用2丁づき |
U | Universal Combination Tamping Unit:分岐器対応万能タンピングユニット |
E | Économie:経済的(少人数で高度な作業が可能) |
J A8/AC/C | タンピングユニットの形式 |
MATISA独自の高周波楕円運動方式タンピングツールが搭載されるようになり、つき固め性能が向上した12)。
軌道狂い検出がNEMO(非回転光学検測システム)化され、またコンピューター制御化が進んだ世代13)。
近年の機種の中では小型な2軸機。日本に輸入された機種はC型とAC型に分けられる14)。
さらに大型化したB50をベースに、日本の作業環境向けとして設計された2車体式の機種。脱線防止ガード区間のつき固めに対応15)。
B 50 J A8の後継に当たる、日本向けに設計された最新機種16)。
・小型機種(ライトタンパー)
根本(1959),p.223より
国鉄在来線・近鉄に導入されたライトタンパー。手押し式で線路上から容易に取り外せる17)。
湯本(1980),p.15より
東海道新幹線・阪急に導入されたライトタンパー。BL07の発展型で、自走できるようになった18)。
JR東海・建設工事部に導入されたライトタンパー。
・その他
日本鉄道施設協会『鉄道線路』14巻10号,1966年,グラフpより
※編集中
タンピングツールとライニング用ジャッキを備えた機械。MCDBでは本機を通り整正機として扱うが、文献によってはマルタイとして扱われる場合もある。
■脚注・文献
1)Dictionnaire historique de la Suisse (DHS) – Histoire suisse『Ritz, August』https://hls-dhs-dss.ch/fr/articles/030816/2009-11-02/(2023/01/12取得).Dictionnaire historique de la Suisse (DHS) – Histoire suisse『Sfezzo, Constantin』https://hls-dhs-dss.ch/articles/030818/2010-12-28/(2023/01/12取得).Scheuchzer S.A.『Sur les rails de l’excellence』https://www.scheuchzer.ch/notre-histoire(2023/01/12取得).
2)白井 国弘『保線機械の取扱と事故防止:マルチプルタイタンパ』1973年,アース図書.湯本 幸丸『写真解説保線用機械(改訂増補5版)』1980年,交友社.Construction Cayola『Les bourreuses Matisa : 75 années d’innovation』https://www.constructioncayola.com/rail/grands-formats/2020/10/13/130523/grand-format-les-bourreuses-matisa-75-annees-innovation(2023/01/12取得).
3)白井,前掲2.湯本,前掲2.
4)白井,前掲2.湯本,前掲2.
5)石原 一比古「マルタイのいろいろ」『新線路』30巻9号,1976年,グラフp.白井 国弘「マチサ・マルタイを動かしてみよう」『新線路』32巻7号,1978年,pp.38-42.湯本,前掲2.
6)白井,前掲2.湯本,前掲2.
7)施設局保線課『保線用機械一覧表:昭和41年3月31日現在』,1966年.
8)白井,前掲2.湯本,前掲2.
9)保線機械研究グループ編『保線機械便覧』1978年,日本鉄道施設協会.
10)小倉 賢治「マルタイの概況」『新線路』41巻10号,1987年,pp.24-28.松田 務「腐ってもマルタイ:今、明かされるマルタイのすべて…」『トワイライトゾ~ンMANUAL』5号,1996年,pp.190-209.
11)MATISA『Les bourreuses légères』2013年a,MATISA.MATISA『Les bourreuses de ligne』2013年b,MATISA.猪狩 信人「マティサ型マルタイ(B45)の特徴」『新線路』62巻2号,2008年,pp.44-46.白井 国弘「新型マルタイの保守:マチサB-40形式(1)」『新線路』47巻2号,1993年,pp.28-33.宮崎 進「スイッチマルタイの効率的活用」『新線路』45巻1号,1992年,pp.6-10.MATISA『TOOLS FOR TAMPING MACHINES』https://www.matisa.ch/jp/matisa-tools-tamping.php(2023/01/15取得).
12)小倉,前掲10.
13)三原 利一「高性能新型マルタイ(マティサB45LE)の導入」『新線路』52巻6号,1998年,pp.32-34.
14)MATISA,前掲11a.
15)MATISA,前掲11b.山田 正則・沢田 孝道・緑川 和彦「マティサマルタイ入門(B50型)①」『新線路』67巻3号,2013年,pp.49-52.
16)MATISA『PLAIN LINE TAMPERS』https://www.matisa.ch/jp/matisa-line-tampers.php(2023/01/15取得).
17)近畿日本鉄道『50年のあゆみ』,1960年,近畿日本鉄道.春永 駒男・小林 陽三「保線作業機械化の現状と方向について」『近畿日本鉄道技術研究所技報』2巻1号,1970年,pp.115-123.村山 熙「保線機械化の話(2)」『交通技術』14巻9号,1959年,pp.36-39.根本 幸次郎『鉄道保線施工法:最新土木施工法講座14』,1959年,山海社.国鉄に導入されたものは形式名が不明だが、近畿日本鉄道(1960)掲載のものと村山(1959)および根本(1959)掲載のものがほぼ同一のため、同じ形式と思われる。
18)湯本,前掲2.