ネットフェンスの突破能力


■はじめに
超望遠ズームコンデジの登場が銘板回収ひいては保守用車研究に多大なる影響を及ぼしたことはこちらのコラムに書いた通りで、もはや疑問の余地のないところであろう。それと同時にコンデジに限らずバリアングル液晶を装備したデジカメが増えてきたことも同様に影響を与えたのではないかと思う。たとえフェンスがあったとしても頭の上までデジカメを持ち上げてバリアングル液晶で被写体を確認しながら撮影することで従来は撮れなかった被写体であっても綺麗に撮ることが可能となった。

しかしながらそういったバリアングル液晶をもってしても2[m]を大きく超える高さを持つネットフェンスに対しては流石に歯が立たない。レンズ径にもよるがフェンスの網目が写りこんだ状態で撮らざるを得なかった。最近では従来の50[mm]ピッチより細かいネットフェンスも登場し撮影環境は悪化の傾向にある。

今回のコラムではスマートフォンでは驚異的な光学10倍ズームを搭載したサムスン電子のGalaxy S23 Ultraも連れ出してネットフェンス越しの被写体を狙ったらどうなるかを検証した。

 

■使用機材
今回の検証で使用した機材は以下の通りである。
・Nikon Coolpix P1000(光学125倍ズーム)
・Canon EOSR6 & RF24-240[mm](光学10倍ズーム)
・Canon PowerShot SX720HS(光学40倍ズーム)
・Samsung Galaxy S23 Ultra(光学10倍ズーム)
撮影条件としては調整できる場合は極力絞りを開き、フェンスが写らないように撮影を行った。

 

■検証1(東京メトロ和光車両基地)
まずは東京メトロの和光車両基地に赴き検証を行った。

△被写体との間に立ちはだかるネットフェンス

よくあるタイプの菱形の目のフェンスである。
高さはゆうに3[m]はありそうで、バリアングル液晶を用いてフェンスをクリアすることは困難である。

△フェンスの目は50[mm]
フェンスの目は50[mm]であった。

 

【検証1-1】 P1000の場合
まずはP1000を試す。
今回のような撮影条件では大径レンズを持つこのカメラには不利なことは承知の上である。

保線機器整備ののせ太郎を画面一杯に写るように撮影した結果がこちら。

△105[mm]相当
やっぱりというか菱形のフェンスが写ってしまっている。
銘板を狙った結果はこちら。

△1700[mm]相当
さすがにここまで望遠だとフェンスの写りこみはなかった。悪天候のなかでも安定の銘板回収能力である。

【検証1-2】 EOSR6の場合
続いてEOSR6はどうか。

△100[mm]相当
うっすらとであるがフェンスが写ってしまっている。
続いて銘板を狙ってみる。

△240[mm]相当で撮ったものを等倍切り出しにしてある
フェンスの写りこみも気にならない。等倍切り出しにしても鮮明なのは美点といえる。

【検証1-3】 SX720HSの場合
SX720HSで撮影した結果はこうなった。

△105[mm]相当
フェンスのピッチよりレンズ径の方が小さいのでフェンスの影響を回避できている。
銘板を狙った結果はこちら。

△960[mm]相当
同様にフェンスの影響を受けることなく銘板が撮れている。

【検証1-4】 Galaxy S23 Ultraの場合
今回の検証の目玉、スマートフォンのGalaxy S23 Ultraで撮った結果はこちら。

△69[mm](3倍ズーム)相当
光学ズームが0.6倍/1倍/3倍/10倍なので3倍で撮影した。フェンスの写りこみはない。
銘板を狙った結果はこちら。

△230[mm](光学10倍ズーム)相当。等倍切り出し
光学10倍だと小さいので等倍切り出しにしてみたが銘板の内容が確認できた。
スマートフォンのカメラで果たして撮れるのか半信半疑ではあったが性能を遺憾なく発揮した形である。

 

■検証2(東京都交通局馬込車両基地)
続いて東京都交通局の馬込車両基地へ移動し検証を継続した。

△馬込車両基地のフェンス。脚立なしでフェンスをクリアするのは難しい。

ここは長方形の目のフェンスである。
脚立があればバリアングル液晶でもいけそうな高さである。

△フェンスの横幅は45[mm]
フェンスの横幅は45[mm]であった。縦幅は123[mm](実測)であるので45[mm]以下のレンズ径であれば物理的にフェンスをクリアできることになる。

 

【検証2-1】 P1000の場合
検証1と同様まずはP1000の場合。

奥の方にいたマツヤマのMR1587を撮った結果がこちら。

△91[mm]相当
やはりフェンスがくっきりと写りこんでしまっている。
銘板を狙うとどうか。

△2800[mm]相当
フェンスをクリアし鮮明に撮ることができていた。
正直感覚が麻痺している自覚はあるが、天候がすぐれない中2800[mm]の焦点距離を1/60でバシッと決められるこのカメラはやはり「おかしい」と思う。

【検証2-2】 EOSR6の場合
続いてEOSR6の場合。

△65[mm]相当
画面全体が暗めなので判別しづらいがフェンスの影響はほぼないように見える。
続いて銘板を撮った結果はこちら。

△240[mm]の等倍切り出し
等倍切り出しでみるとほぼ「回収できた」感じである。フェンスの影響は感じられない。

【検証2-3】 SX720HSの場合
SX720HSで撮影した結果はこうなった。

△111[mm]相当
レンズ径の方がフェンスの目より小さいのでフェンスの影響を受けていない。
銘板を撮った結果はこちら。

△960[mm]相当
こちらの結果も申し分ない。

【検証2-4】 Galaxy S23 Ultraの場合
つづいてGalaxy S23 Ultraではどうか。

△69[mm](3倍ズーム)相当
勿論フェンスの写りこみはない。3倍だと少し小さめ、10倍だと形式写真には大きすぎるという感じである。
この間の倍率は3倍にデジタルズーム併用となるが画質の劣化はあまり感じられなかったのでデジタルズームの回避はあまり考えなくていいのかもしれない。

銘板の方はどうか。

△230[mm](10倍ズーム)の等倍切り出し
こちらは明らかに「読めない」結果となった。検証1ではRF24-240[mm]に肉薄する結果となったが大きく差が開くこともあるようである。

 

■検証3(東京メトロ行徳車両基地)
続いて東京メトロの行徳車両基地に移動した。

△立体的なフェンスに囲まれた行徳車両基地

ここのフェンスは他とは異なり立体的な造りとなっている。

 

斜め方向では52[mm]、真正面にカメラを向けると間隙は30[mm]程度である。
フェンスの上から撮ることは困難であろう。

【検証3-1】 P1000の場合
まずはP1000を試した。

△65[mm]相当
太いフェンスが入ってしまった。銘板はというと

△1600[mm]相当
フェンスの影響も感じさせずに回収できていた。

【検証3-2】 EOSR6の場合
続いてEOSR6の場合。

△55[mm]相当
うっすらながら縦のフェンスが確認できる。銘板はというと

△240[mm]相当を若干拡大している
フェンスの存在は気にならず、銘板回収ができていた。

【検証3-3】 SX720HSの場合
SX720HSで撮影した結果はこうなった。

△61[mm]相当

小径のレンズによりフェンスをクリアしている。

△デジタルズーム併用で1920[mm]相当

銘板も問題なく撮れていた。

 

【検証3-4】 Galaxy S23 Ultraの場合
Galaxy S23 Ultraではどうか。

△69[mm](3倍ズーム)相当

フェンスの目からレンズが出せているので撮影画像に影響はない。

△デジタルズーム併用で690[mm]相当(30倍ズーム)

銘板についても同様にフェンスの影響はなかったが少し遠かったのか一部文字が崩れている箇所が見て取れた。

 

■検証4(東京都メトロ綾瀬車両基地)
最後に東京メトロの綾瀬車両基地の結果を報告する。

△綾瀬車両基地のフェンス

ここは六角形の目のフェンスである。

△ピッチは最小の29[mm]
フェンスが高い上に網の目のピッチが狭く今回紹介した中で一番条件は良くない。その上フェンスから被写体までの距離が近いため余計フェンスの影響を受けてしまう。

【検証4-1】 P1000の場合
まずはP1000の場合。
保線機器整備ののせ太郎を撮った結果がこちら。

△24[mm]相当
焦点距離が短いこともありフェンスをモロに拾ってしまっている。銘板はどうか。

△300[mm]相当
銘板は撮れてはいるがフェンスの写りこみが見て取れる。被写体に対して垂直に撮っているからまだこの程度で済んでいるものの、角度をつけて撮ろうとすると影響は大きくなる。

△妻面の銘板を撮った結果。1800[mm]相当
角度をつけて撮るとフェンスの写りこみはパッと見わからないが画面全体が不鮮明(白っぽくなる)になり銘板の文字読み取りが困難になってしまう。そんな中でこれだけしっかり読める画像を撮れているというのはP1000の銘板回収能力の高さ故であろう。

【検証4-2】 EOSR6の場合
続いてEOSR6の場合。

△28[mm]相当
P1000よりは薄くはなるがそれでもフェンスの網が写りこんでしまっている。

△180[mm]相当
銘板の方は概ねフェンスの影響もなく、読み取りも問題なくできたという結果になった。

【検証4-3】 SX720HSの場合
SX720HSで撮影した結果はこうなった。

△28[mm]相当
今までのフェンスはクリアしてきたSX720HSも、さすがにこのフェンスの目をかいくぐることはできなかった。

△736[mm]相当
銘板については他3台のアングルとは異なるがフェンスの影響もなく撮ることができている。

【検証4-4】 Galaxy S23 Ultraの場合
最後にGalaxy S23 Ultraではどうか。

△23[mm]相当
4機種の中で唯一綾瀬のフェンスをクリアした。デジタルズームと併用してフェンス越しに良さげな形式写真を量産できそうである。

△69[mm](3倍ズーム)相当
銘板についても日没間近という条件で画像は多少粗くなっているものの銘板の文字読み取りに支障をきたすことはなかった。勿論フェンスの写りこみもない。

 

■まとめ
以上の結果を表にまとめると以下の通りとなる。

Coolpix P1000 EOSR6&RF24-240 PowerShot SX720HS Galaxy S23 Ultra
形式写真 銘板回収 形式写真 銘板回収 形式写真 銘板回収 形式写真 銘板回収
和光 ×
馬込 × ×
行徳 ×
綾瀬 × × ×

※形式写真…フェンスが写りこむかどうか、銘板回収…銘板文字が読み取れるかどうか

フェンス越しの形式写真を撮りたいのであれば今回検証したケースではGalaxy S23 Ultraが最適であるといえる。しかしながら銘板の回収といったことも考慮するとこの中から1台選ぶとするならば筆者はSX720HSを推す。理由は銘板回収能力の高さもさることながら殆どのタイプのフェンスで影響なく形式写真が撮れるからである。

 

この記事が皆さんの撮影機材選定の参考になれば幸いである。