■概要
箱型車体の高速軌道検測車。
5[m]間隔で3組の2軸ボギー台車が取り付けられ、各台車の中央部には線路直角方向の変位を測定する測定輪が設けられている。
日本においては近鉄が1両を導入している。
■検測装置
各ボギー台車の中心に設置されたテレスコピック測定機構にて検測を行う。
テレスコピック測定機構は、軌間外方に押し付けられレール頭頂面下14[mm]に接触する検測輪と、分岐器通過時の異線進入を防ぐ誘導板、曲線区間でレールに塗布された油が検測輪に付着した場合に軌間外へ掻き落とす油取り機構から構成されている。
■検測項目
軌間 | |
水準 | |
通り | 左右 |
高低 | 左右 |
平面性 | 2[m]/5[m] |
床上動揺加速度 | 上下・左右 |
軸箱動揺加速度 | 上下・左右 |
■検測方法
1.軌間
ボギー台車の測定軸に設置したトランスジューサが測定した変位量をアナログユニットで演算し、拡大・縮小量を求める。
2.水準
ジャイロスコープにより基準面を求め、車体の傾きは車軸と車体との変位を左右垂直に取り付けられたトランスジューサで測定し補正している。
3.通り
前後のテレスコピック測定機構の検測輪を結ぶ10m弦に対し、中央の測定輪の水平方向の偏倚を測定して求める。
4.高低
前後のテレスコピック測定機構の検測輪を結ぶ10m弦に対し、中央の測定輪の垂直方向の偏倚を測定して求める。
5.平面性
前ボギー台車第1軸~第2軸間2[m]又は、前ボギー台車第2軸~中央ボギー台車第4軸間5[m]における高さ4点をトランスジューサにて測定し、各点の高低差をアナログユニットで演算し求める。
6.動揺加速度
床上と軸箱それぞれに加速度センサーを設置し、上下・左右方向について測定する。
■近鉄仕様
近鉄では従来、軌道検測車としてPV-6(標準軌用2両・狭軌用1両)を使用していた。
しかし下記し示す問題点があった。
・検測速度が20~30[km/h]であり、多くの検測日数を要する。
・車両の軸重が線路に負荷された状態で検測を行う動的検測ではあるものの、走行軸5[t]、検測軸0.8[t]と軸重が軽く、営業列車と同じ条件での検測が行えない。
・水準測定の基準として使用する揺錐には慣性が働き、この影響を補正しても完全に除去することが難しい。
・特殊分岐器(固定K字クロッシング)を通過する際に検測輪が競り上がるため、停止して検測機構を一部格納する必要がある。
これらの問題を解決する車種としてM462を選定した上、下記の近鉄仕様を追加した。
■高速運転に対応した信号・保安設備
自走による110[km/h]走行を想定し、信号条件により運行が行えるよう、営業列車と同等の自動列車停止装置(ATS)及び列車種別選別装置の装備
■列車と組成しての被牽引による130[km/h]高速検測に備えた制動・連結装置
列車と組成しての検測、列車による救援を想定し下記を装備した。
制動装置 | 近鉄仕様HSC型制動装置 |
連結装置 | 密着連結器 |
■車上処理装置
トランスジューサやセンサーから得られたデータはアナログユニットにて演算・補正され、データ収録装置へ送られる。
データ収録装置は得られたデータを一定の周期でサンプリング・デジタル化し、後述の地上処理装置で処理可能な磁気テープ・フィルムを作成する。
データ処理能力 | 140[km/h] |
磁気テープ装置 | オートローディング機構2重系 |
モニタ機能 | |
校正機能 | |
無停電電源装置 |
■地上処理装置
車上処理装置による時期テープに収録されたデータに㌔程を紐づける地点対応処理や、曲線データに介在する曲線成分(カント・スラック等)を除去する処理を行う。
■検測データ処理システムの改良
データ処理に関する迅速性と精度向上の要求の高まりから1999年より新しい検測データ処理システムの運用を開始した。
改良点は下記の通りである。
1.車上でパソコンをベースとした検測データの収集と処理を平行して行えるシステムを構築した。
2.線路上に設置したIDプレートにより㌔程を取得することで、地点対応の信頼性を大幅に向上させた。
以上の追加仕様を装備したM462は1989年に近鉄に導入され、軌道検測の効率化に貢献した。
なお近鉄では営業列車による軌道検測の開始に伴い、2022年にM462の運用終了が確認された。
■ホーム検測装置の導入
従来人力にて実施していたホーム離れ・高さ測定の測定頻度向上・労力削減を目標に導入した。
ホーム測定装置はレーザー装置・カメラ装置で構成されており、レーザーにてホームに照射したスリット光をカメラにて撮影し、ホームの離れ・高さを測定する。
測定間隔は1[m]である。
諸元
■寸法・重量
長さ | 15,900[mm] |
幅 | 2,520[mm] |
高さ | 3,700[mm] |
軌間 | 1,435[mm] |
軸距 | 2,000[mm] |
ボギー台車中心間距離 | 5,000[mm] |
自重 | 37.2[t] |
前軸ボギー軸重 | 8.85[t]x2 |
中央ボギー軸重 | 3.25[t]x2 |
後軸ボギー軸重 | 6.60[t]x2 |
■走行用エンジン
Detroit Diesel | GM-9V-92TA |
エンジン出力 | 410[Hp] |
■発電用エンジン
Deutz | F4L912 |
■ 走行性能
勾配 | 単車時 |
水平線 | 110[km/h] |
35‰ | 60[km/h] |
参考文献
1)富田都吉・後久義昭・高田憲一『高速軌道検測車について』,近畿日本鉄道技術研究所技報,20号,近畿日本鉄道技術研究所,(1989.3)
2)河村猛・高田憲一『近鉄における新しい軌道検測車』,日本鉄道施設協会誌,27巻,5号,日本鉄道施設協会,(1989.5)
3)高田憲一『近鉄における軌道検測システム』,新線路,54巻1号,鉄道現業社,(2000.1)
4)谷昌城『近鉄における検測・探傷技術を応用した省人化・保安度向上への取組み』,新線路,71巻,3号,鉄道現業社,(2017.3)