△上越/東北・電気部仕様巡回車 文献15)より
■概要
トンネル巡回車は電気駆動式が主流であるが、開発当初の試作車ではガソリンエンジン駆動式も試行されていた。
このため国鉄は開発メーカーとしてダイハツを選定したと推定される。
同社製のトンネル巡回車は山陽新幹線や上越・東北新幹線に配備され、今日のトンネル巡回車の基本形となった。
■試作Ⅰ型
東京~新大阪間の明かり(トンネル外)区間の巡回用に製作されたが、走行路面の安定性に問題があり全線で使用するには至らなかった。
メーカーや駆動方式等、詳細は不明である。
■試作Ⅱ型
新大阪~岡山のトンネル区間用に製作された巡回車で、六甲・神戸・保坂の各トンネルに使用され効果を上げた。
駆動方式は電気駆動式で、操舵装置はハンドル操舵である。
しかし下記の問題があったことから試作Ⅲ型が製作されることとなった。
1.保守通路の構造が変更となり幅が狭くなった。
2.走行性能の強化が必要となった。
3.電車線設備及び軌道設備の点検用に向くよう改善に迫られた。
■ 諸元
長さ | 2,970[mm] |
幅 | 1,080[mm] |
高さ | 1,350[mm] |
車輪径 | 800[mm] |
軸距 | 1,080[mm] |
自重 | 540[kg] |
■ 走行性能
最高速度 | 15[km/h] |
登坂能力 | 11[°] |
■試作Ⅲ型(1974)
山陽新幹線には多くのトンネルが存在し、特に岡山~博多間においては53%をトンネルが占めるため開業に併せてこの間の巡視を安全に能率よく行うため国鉄新幹線総局 電気部を中心にトンネル巡回車の開発が行われた。
4輪の走行輪と側壁に沿って走行するための4輪の案内輪、車庫へ収容する際に使用する横取車輪を有した車体に背中合わせに作業員2名が乗り込み、前後それぞれの運転台を操作する構造で、この基本構造は今日でも同一である。走行性能強化のため機関にはガソリンエンジンが採用されており、試運転の結果「運転室内の騒音や温度を改善すれば実用化可能」と評価されたが、狭い運転室内でエンジンから発生する騒音と温度の問題を解決するのは難しく、量産車では電動式に変更されている。
試作車の製造メーカーは明らかになっていないが、後に製造される量産車がダイハツ製であることから試作車も同社製であると推定される。
■ 諸元
長さ | 2,900[mm] |
幅 | 1,000[mm] |
高さ | 1,250[mm] |
車輪径 | 500[mm] |
軸距 | 2,000[mm] |
自重 | 400[kg] |
■ 走行性能
最高速度 | 20[km/h] |
登坂能力 | 10[‰] |
■機関
4サイクルガソリンエンジン 空冷直立単気筒:6.5[PS]/3,600[rpm]
■量産車 AR20A/AR20B (1976)
前述の試作車の試験結果を踏まえバッテリー駆動の量産車が製作された。
量産車は岡山~博多間に導入された「A型」と、新大阪~岡山間に導入された「B型」が存在する。
この2種類の差は巡回車車庫からトンネル中央通路への連絡通路の構造の違いによるもので、岡山~博多間では通路が直交する直線のみで構成されているのに対し、新大阪~岡山間では半径5[m]の曲線が介在している。
巡回車は基本的に操舵機構を持たないため前2輪/後2輪のA型では曲線を通過できない。そのためB型では前1輪/中央2輪/後1輪の車輪配置とし操舵機構を装備している。なおB型では横取車輪は省略されている。
量産車は電気部と施設部それぞれで使用され、電気部が架線の点検を行う際は車内の窓から上部を、施設部が線路の締結装置の点検を行う際は扉を開き椅子の座面高さを上げ側方を見ながら巡回を行った。
■ 諸元
A型 | B型 | |
長さ | 2,950[mm] | 2,970[mm] |
幅 | 1,000[mm] | 1,140[mm] |
高さ | 1,450[mm] | 1,550[mm] |
トレッド | 550[mm] | 800[mm] |
軸距 | 2,000[mm] | 1,080+1,080[mm] |
自重 | 780[kg] | 550[kg] |
■ 走行性能
A型 | B型 | |
1充電走行距離 | 30~40[km] | 32[km] |
充電時間 | 8~10[h] | 8~10[h] |
回転半径 | – | 5[m] |
トレッド | 550[mm] | 800[mm] |
軸距 | 2,000[mm] | 1,080+1,080[mm] |
自重 | 780[kg] | 550[kg] |
■制動方式
油圧式及び駐車ブレーキ
■上越/東北新幹線・電気部仕様(1982)
上越・東北新幹線の開業に合わせ量産車(AR20A型)を改良した型式で、改良点は下記の通りである。
・横取装置展開用手動油圧ポンプの電動化
・タイヤのチューブレス化(パンク対策)
・走行用バッテリー保温装置追加
・座席ヒーターカバー追加
・案内輪大型化
・動力伝達方式変更(チェーン→タイミングベルト)
・窓傾斜角度変更(架線(上方)視認性向上)
■ 諸元
長さ | 2,950[mm] |
幅 | 1,000[mm] |
高さ | 1,250[mm] |
タイヤサイズ | 145SR2 |
軸距 | 2,000[mm] |
自重 | 850[kg]以下 |
■ 走行性能
走行速度(1速/2速/3速) | 4/8/16[km/h] |
登坂能力 | 110[‰] |
■電動機
強制空冷式直流 直巻
■制動方式
主ブレーキ | 4輪制動 油圧内部拡張型 |
駐車ブレーキ | 2輪制動 機械式内部拡張型 |
■量産車 RBC (1983)
新大阪~岡山間に導入されたAR20Bの後継と見られる型式で、ハンドル操舵方式である。
なお、同時期の岡山~博多間ではAR形が使用されている。
参考文献
1)『トンネル巡回車のテスト』,新線路,28巻,9号,鉄道現業社,(1974.9)
2)『トンネル巡回車の試運転実施さる』,新線路,28巻,9号,鉄道現業社,(1974.9)
3)馬渕正毅『新幹線トンネル巡回車の話』,鉄道ピクトリアル,25巻,4号,鉄道図書刊行会,(1975,4)
4)熊谷厚一『新幹線 長大トンネル用巡回車』,新線路,30巻,1号,鉄道現業社,(1976.1)
5)黒正純『最近の話題 トンネル巡回車について』,鉄道線路,24巻,1号,日本鉄道施設協会,(1976.1)
6)『新幹線のトンネル巡回車』,新線路,30巻,5号,鉄道現業社,(1976.5)
7)余頃靖『開業一年を迎えた 新幹線の軌道保守』,新線路,30巻,8号,鉄道現業社,(1976.8)
8)古賀勝彦『保線機械と作業環境問題』,鉄道線路,24巻,10号,日本鉄道施設協会,(1976.10)
9)稲積武彦『きでん室 トンネル巡回車』,電気鉄道,34巻,2号,鉄道電化協会,(1980.1)
10)佐藤昭『新幹線におけるトンネル巡回車の使用』,新線路,34巻,9号,鉄道現業社,(1980.9)
11)深沢義朗・小林茂樹『新幹線の保線』,日本鉄道施設協会,(1980.12)
12)石井一元『新幹線用トンネル巡回車の仕様について』,会計と監査,34巻,3号,全国会計職員協会,(1983.3)
13)祥雲武治『知っていますか トンネル巡回車』,鉄道電気,36巻,3号,鉄道現業社,(1983.3)
14)山下靖二,『灘の生一本とモグラ新幹線(神戸支所)』,新線路,38巻,7号,鉄道現業社,(1984.7)
15)櫛田文夫『長大トンネルの保守管理』,新線路,38巻,10号,鉄道現業社,(1984.10)
16)堀籠健『新幹線新型トンネル巡回車の導入』,新線路,65巻,4号,鉄道現業社,(2011.4)