23_通り整正機

概要


通り整正機とは、別名「トラックライナー」とも呼ばれ、軌道の通り直しに用いられる車両である。
通り直しとは、度重なる列車の通過によりレールが左右方向へ変位してしまうこと、いわゆる通り狂いを補修するための作業である。通り直しは、補修箇所の砂利を掻いたのち、クローバ(鉄道用バール)もしくは油圧ジャッキを利用した可搬式通り整正器によりレールを寄せる方法で行われて来た。
現在では、マルチプルタイタンパの多くに通り整正(ライナー)機能が付属しており、専用のトラックライナーが必要である場面は少ない。しかし、それ以前のマルタイが単機能であった時代はトラックライナーが必要とされる場面があった。

■ 導入経緯

通り整正機が最初に導入されたのは、1964年のことで東海道新幹線向けである。高速で列車が走行するため高精度な仕上がりと、作業時間が限られることから高能率化を求められたため、米国から衝撃式のロイス・カーショウ社製TL-B3とアンカー式のフェアモント・レイルウェイ・モーターズ社製W111Bが輸入された。
1970年には建設中であった山陽新幹線向けにアーチ式のプラッサー&トイラー社製通り整正機が導入され、同時期に東海道新幹線向けにもプラッサー&トイラー・AL-250が導入され、前述のロイス・カーショウ社製とフェアモント・レイルウェイ・モーターズ社製通り整正機を置換えている。プラッサー&トイラー社製通り整正機は、東京近郊・高崎・盛岡地区の在来線にも導入された。しかし、この時期には通り整正機能付きのプラッサー&トイラー・06-32Lマチサ・BMNRI-85といった大型マルチプルタイタンパが導入されはじめており、通り整正機の導入はあくまで通り整正機能付きマルタイの普及までのつなぎであったと言える。

なお、スラブ軌道区間では通り直しの機械化が進んでおらず、手作業によりスラブ締結ボルトを緩め、スラブとタイプレートの間で調整を行う方法に頼っていた。このため、JR東日本では1992年から東北・上越新幹線向けにスラブ軌道用軌陸通り整正機を開発し、一方でJR西日本は1999年よりマルチプルタイタンパを改造したスラブライナーを開発する。

構造


通り整正機の方式には、衝撃式、アンカー式、アーチ式の3方式が存在する。

■ 衝撃式

衝撃式とは、枕木方向に可動する重錘が収められたウェイトフレームを枕木上に下ろし、重錘を枕木方向に振り、フレーム内側面に衝撃させることで慣性力を生じさせ、レールを横移動させる方式である。
過去にロイス・カーショウ社製通り整正機で採用された。


衝撃式通り整正装置の模式図
『これを知りたい 通り整正機の種類』, 新線路, 28巻8号, 鉄道現業社, 1974年8月より引用


ロイス・カーショウ社製TL-B3の通り整正装置(ウェイトフレーム部)
『伊藤, 『トラックライナー(通り整正機)』, 新線路, 19巻1号, 鉄道現業社, 1965年1月より引用

■ アンカー式

アンカー式とは、油圧により道床に基準となるアンカーを打ち込み、油圧式の押出しシリンダによってレールを横移動させる方式である。
過去にフェアモント・レイルウェイ・モーターズ社製通り整正機で採用された。


アンカー式通り整正装置の模式図
『これを知りたい 通り整正機の種類』, 新線路, 28巻8号, 鉄道現業社, 1974年8月より引用


フェアモント・レイルウェイ・モーターズ社製W111Bの通り整正装置(アンカー部)
『伊藤, 『トラックライナー(通り整正機)』, 新線路, 19巻1号, 鉄道現業社, 1965年1月より引用

■ アーチ式

アーチ式とは、軌道上に両フランジ付のローラを下ろし、このローラを油圧シリンダにより振動を加えつつ作動させることでレールを横移動させる方式である。
プラッサー&トイラー社製をはじめとし、数多くの通り整正機ないしマルチプルタイタンパで採用されている。


アーチ式通り整正装置の模式図
『これを知りたい 通り整正機の種類』, 新線路, 28巻8号, 鉄道現業社, 1974年8月より引用


両フランジ付ローラによるライナー機構

メーカー



湯本幸丸, 『写真解説 保線用機械』, 交友社, 1980年9月(5版)より引用

米国の老舗保守用車メーカ。1964年に東海道新幹線向け通り整正機を製作した。



湯本幸丸, 『写真解説 保線用機械』, 交友社, 1980年9月(5版)より引用

米国の歴史ある保守用車メーカであったが、1979年にハラスコ社に合併された。1964年に東海道新幹線向け通り整正機を製作した。


オーストリアの老舗保守用車メーカ。日本では主にマルチプルタイタンパで知られるが通り整正機も少なからず製作している。
山陽新幹線向けにマルチプルタイタンパを改造したスラブライナーが存在する。

参考文献


1) 古川巖『絵とき保線作業基準 通り直しの巻』新線路, 6巻5号, 鉄道現業社, 1952年6月
2) 酒井哲夫『通り整正作業』新線路, 19巻9号, 鉄道現業社, 1965年9月
3) 伊藤『トラックライナー(通り整正機)』新線路, 19巻1号, 鉄道現業社, 1965年1月
4) 『施設のうごき 山陽新幹線に新鋭保線機械輸入さる』, 新線路, 24巻2号, 鉄道現業社, 1970年2月
5) 近藤吉郎『新幹線の保線(8)保守作業と保線機械』新線路, 27巻9号, 鉄道現業社, 1973年9月
6) 『これを知りたい 通り整正機の種類』新線路, 28巻8号, 鉄道現業社, 1974年8月
7) 秋元清『トラックライナー≪通り整正機≫』鉄道線路, 17巻3号, 日本鉄道施設協会, 1969年3月