HGS-45B2は、日立製作所が東海道新幹線向けに製造したクレーン付き軌道モータカーである。
■概要
開業直後の東海道新幹線では、バラスト輸送は品川・静岡・鳥飼の各基地を拠点として行われていた。しかし路線長に対して基地数が少なく、現場までの移動距離が長くなり、作業時間の確保に問題が生じていた。
仮設基地を用いた作業方法
秋本・増原・石丸(1967),p.27より
そこで、線路脇の各所に仮設基地を用意する方法が考えられた。基地にはトロを常備しておき、あらかじめバラストを積載しておく。そして作業時はクレーン付きモータカーでトロを吊り上げて本線に移動させ、現場まで牽引する、という方法である。
この仮設基地を用いた作業のために開発されたのが、HGS-45B2であった。
■構造
HGS-45B2構造図
秋本・増原・石丸(1967),p.28より
HGS-45B2と同時期に制作された、住友金属工業(現・日本製鉄)向けのHG-45BB形機関車。
キャブ構造の違いに注目
本機はセンターキャブ型ディーゼル機関車の運転台上に油圧クレーンを設置した形となっている。
ベースとなったのは、当時日立が製造していた産業用2軸ボギー式45tディーゼル機関車である。各所に共通点が見られるが、本機はクレーンを搭載するため台枠などが強化されている。特に、キャブには太い柱が設けられているが、視界への影響を避けるため、四隅ではなく前後と側面の中央に配置されている。
クレーン構造図
秋本・増原・石丸(1967),p.29より
ブームを伸ばして吊り上げテスト中の本機。エクステンションジブは展開されていない
秋本・増原・石丸(1967),p.32より
クレーンは本機の主用途であるトロの吊り上げ作業に合わせ、前後方向6.25m、横方向4.2mの範囲内で6tの吊り上げを可能としている。ブームは伸縮式とし、走行時はオーバーハングを短くして安定性を高め、高速走行に対応している。またエキステンションジブも備えており、これを使うと主用途以外でも半径9m以内で2tの吊り上げ作業に使用することができた。
本機は機動性を高めることを重点に設計されており、1人で扱えるよう同じ運転席でクレーンと走行の両方を操作できる。さらに重心を下げることで、展開・収容に時間のかかるアウトリガやレールクランプを不要としていた。
日立製のG2形台車
台車は日立G2形が使用されている。これはベッテンドルフ形台車をベースとした鋳鋼製台車であり、当時の日立製ボギー式DLで広く採用されていたものである。本機の場合はクレーン使用時に車体が傾くのを防止するため、揺れまくらにはストッパーや浮き上がり防止装置が備えられていた。
なお、本機の主用途とされた作業では、通常の45t機が有する大きな牽引力は不要とされたため、片台車駆動となっていた。
■運用
本機は1967年3月に1台(製番12915、当初の機番はMO-781)が製造され、国鉄新幹線支局へ納入されたことが確認されているが、追加で製造されることは無かった。東海道新幹線にはその後、追加で保守基地が多数建設されたことから、仮設基地を用いた保守作業は定着しなかったものと思われる。機番は後にMO-1037に変更されたことが確認されている。
■諸元
主要寸法
全長 | 9,000[mm] |
全幅 | 2,850[mm] |
全高 | 3,950[mm] |
軌間 | 1,435[mm] |
台車間距離 | 4,000[mm] |
車輪径 | 860[mm] |
車両性能
整備重量 | 約45[t] |
最大牽引力(μ=1/4) | 5,630[kg] |
最高速度(高速段) | 61.4[km/h] |
最高速度(低速段) | 40.0[km/h] |
クレーン性能
最大吊り上げ重量 | 6,000[kg] |
旋回角度 | 360[°] |
最大ブーム長さ | 6,250[mm] (エキステンションジブ使用時9,000[mm]) |
揚程 | レール面上:約2,870[mm] レール面下:約700[mm] |
使用油圧 | 140[kg/cm^2] Max |
機関
型式 | 日立V3V14/14T |
定格出力 | 260[PS]/2000[rpm] |
■文献
秋本 清・増原 章右・石丸 一幸「新幹線用軌道モータカークレーン」『車両技術』106号,1967年,pp.27-32.
日立製作所『日立液体式ディーゼル機関車納入先一覧表(昭和6年~44年)』,刊行年不明.
渡辺 肇『日本製機関車製造銘板・番号集成』1982年.