54_跨座式モノレールの保守用車


■概要
当ページでは1本の軌条に沿って走行する鉄道であるモノレールのうち、軌条を跨ぐタイプの跨座式モノレールで使用される保守用車について取り扱う。
確認されているものだけでもニチユ(現三菱ロジスネクスト)、新潟鐵工所、堀川工機、NICHIJO、アント工業と、個体数の割には多くのメーカーが保守用車を製造している。

同じモノレール用保守用車である懸垂式モノレールの保守用車と比較するとエンジン式の保守用車の割合が多くなっている1)

 

■跨座式モノレールの軌道構造
当該ページは跨座式モノレールの保守用車について取り扱うがモノレールはよく目にする「二線軌条」の鉄道とは構造が大きく異なるので保守用車について解説する前に簡単に軌道構造と主な保守作業について述べる。

 

跨座式モノレールは軌道桁を車両が跨って走行している。

△車両と軌道桁の関係略図。き電線はこの後アルミ・ステンレス複合剛体電車線に更新されている。文献3) p.50より

軌道桁の上面を走行輪が走り、側面は上フランジを案内輪が、下フランジを安定輪が走る構造となっている。また上下フランジの間にき電線が走っている。また軌道桁は当然空中に浮かぶ形となっている。

このような軌道構造ゆえに営業運転中は検査を行うことは不可能で、ちょっとした検査であっても夜間の線路閉鎖を行っている時間に行わざるを得ない。また「軌道」と「電車線」、「信号ループ線」が同一空間に存在するため、かつ、一般的な鉄道のように保守用車用の側線があるわけではないので軌道・電気等の作業がどうしても競合しやすくなってしまっている。そのため複数の特殊作業車である「工作車」を同時且つ効率的な運用を行うことが必要となってくる。

 

■跨座式モノレールの保守作業
保守作業は主に以下のようなものがある。

・軌道桁に関するもの
モノレールでも各継目に於いての高低、通り、遊間等の管理目標がある。以下に主な整備基準を示す(昭和63(1988)年の東京モノレールのもの)。

検査項目 限度値 検査周期 備考
高低測定 9/1000[rad] 1年
通り測定 11/1000[rad] 1年
水準測定 ±10/800[mm] 軌道桁の調整、架替を行なった都度実施。
カント測定 ±10/800[mm] 標準値は設定カント値
軌道桁の調整、架替を行なった都度実施。
遊間測定 MM間:20~100[mm]
FM間:15~100[mm]
FF間:5~100[mm]
1年 標準値は40[mm]
M:可動支承
F:固定支承
鋼桁は軌道桁長により基準値は別途定める
コロ位置測定 7[mm] 1年
段違い測定 7[mm] 軌道桁の調整、架替及び伸縮継目板を交換した都度実施。
食い違い測定 14[mm] 軌道桁の調整、架替を行なった都度実施。
軌道桁幅測定 800±10[mm] 軌道桁の調整、架替を行なった都度実施。

上記表は文献4)p.33の表-1を元に再構成したものである。高低、通りの限度値は角度で管理され単位は[radラジアン]である。

軌道は橋脚の沈下や傾斜、温度変化のため狂いが生じてしまう。修正作業は基本的には軌道桁の移動となる。沓のボルトを緩め軌道桁を移動する。高さの調整はライナープレートを挿入して行われる。

△赤線の四角で囲った部分が沓(北九州モノレール)
△沓のアップ(多摩都市モノレール)

ただ沓を動かして軌道桁を移動させるのは大変な作業なので軌道面にプラスチック材料を塗布して局部的な修正のみ行う場合もある。

・フィンガープレートに関するもの
フィンガープレートとは継目板のことで手の平を上から見たような形状をしている。

△赤線の四角で囲った部分がフィンガープレート(東京モノレール)
△フィンガープレート(多摩都市モノレール)

二線軌条の鉄道のようなレールを繋ぐものではなく桁間の隙間に対して車輪を保護するための、道路橋のジョイントと同じような役割を果たしている。

フィンガープレートは直接列車ハンマーによる打音と目視での点検等を行い異常が発見されると補修・交換される。

・沓に関するもの
前述の通り軌道を修正するための部分で、軌道桁の調整は主にライナープレートにより行う。ライナープレートの腐食や死にがないか、ボルトの緩みの有無等を確認する。

可動沓には温度変化に応じ桁が動けるようにコロが入っている。長期間の使用で擦り減ったり、トンネル区間のコロが漏水で錆びついたりした場合は更換となる。

 

■日本に於ける最初の跨座式モノレールの保守用車
日本で最初の跨座式モノレールは1962(昭和37)年に開業した名鉄モンキーパークモノレール線であるが文献で確認できる最古の保守用車は次いで1964(昭和39)年9月に開業した東京モノレールのものになる。

△モノレール作業車。文献1) p.24より

上記のような貨物型モータカーのキャビンを付けたような形状をしておりガソリンエンジンを搭載していた。作業内容に応じ発電機、クレーン、溶接機、コンプレッサー等を搭載することができた。
また現在とは異なり軌道桁上を作業員が歩いて使うような手押工作車や桁上歩行機といった器具も存在した2)

 

■現在の主要な跨座式モノレールの保守用車
現在では軌道桁の上で作業員が作業することはなく作業効率、安全側面から工作車に乗って作業を行うようになっている3)

モノレール各社により若干の形状の差異は見られるもののよく見られるタイプの保守用車は以下の2つである。

・工作車

△北九州モノレールの工作車501

箱型の形状の特殊作業車で「工作車」と称することが多い。
作業員は車外へ出ずに作業をするため見ただけでは停車しているのか作業しているのか判別は難しい(実際には作業音が出るので判断は可能である)。

・クレーン付工作車

△北九州モノレールのクレーン付工作車MOR-4N

重量物を吊るためのクレーンが付いた工作車である。工作車に牽引されて作業現場まで移動するが、現場では低速での移動が可能である。
こちらは作業時には作業員がデッキで作業するので作業中であることが分かりやすい。

上記2つの他、軌道状態を測る検測車も存在する。

 

脚注
1)文献5)6)によれば東京モノレール向け以外の国内の跨座式モノレールの保守用車は全てバッテリー式であるものの(ディーゼルエンジンの車両移動機(アント)は保守用車に含めない)、東京モノレール用にはガソリン、ディーゼルエンジン搭載のものも多く存在している(2013(平成25)年時点ではガソリン機は引退)。懸垂式モノレールの保守用車で確認されているものは今のところ全てバッテリー駆動である。
2)文献1) p.25。
3)文献4) p.32。いつ頃から変わったのかは不明であるが、東京モノレールでは1988(昭和63)年時点では作業員が軌道桁上を歩くことはできなくなったようである。また、夜間作業のためたとえ小さな音でも騒音に対する苦情が持ち込まれるため鉄またはコンクリート材を叩く作業の場合一部区間では土曜夜の一定時間内しか作業ができないといったことがあった(現在も同様な扱いなのかは不明である)。

参考文献
1)和田徳太郎『東京モノレールの電力設備と保守について』,第22巻5号,鉄道電化協会,(1968.05)
2)中島信哉『東京モノレール羽田線鉄道電気施設の保守管理』,第10巻10号,日本鉄道電気技術協会,(1999.10)
3)村上温・室井和『東京モノレールの軌道保守(上)』,第42巻4号,鉄道現業社,(1988.04)
4)村上温・室井和『東京モノレールの軌道保守(下)』,第42巻5号,鉄道現業社,(1988.05)
5)モノレール ジャパン ウェブ 『国内モノレール運行会社保有工作車(保線車)一覧』
6)東京モノレール株式会社 社史編纂委員会,『東京モノレール50年史』,東京モノレール株式会社,(2014.09) 
https://mjws.org/wc-list.html(2023.12.02取得)