KRC810N


■概要
吊上能力800[m・t](≒作業半径:10[m]1) x 吊上能力:80[t]=800)級操重車。
JR東日本ではGS-80の後継として導入された。
クレーン車(KRC810N)とワゴン車(CF350HSW)の2両1編成で運用される。

GS-80の特徴であったカント補正機構、隣接線干渉防止機構に加えてアウトリガ片張り出しの新機能を有している他、カウンターウェイトの取付方法が改良されている。

 

■アウトリガ片側張り出し対応
通常のクレーンでは前後左右4か所のアウトリガ張り出しが原則だが、施工条件に合わせてアウトリガの設置数を選択可能である。

アウトリガ張出数 備考
無し ブーム旋回を伴わない当該線施工に使用
1点・2点 隣接線干渉防止時に使用
4点 制約が無い場合に使用

この機能によりホーム脇等のアウトリガ張り出しに制約のある個所での作業が行える他、作業時間の短縮が可能になった。

△作業側へのアウトリガ片張り出し


△反対側へはアウトリガが張り出されていない

 

■カウンターウェイト取付方法の改良
横取装置通過時の軸重制限のためクレーン車のカウンターウェイトはワゴン車へ積載されている。
GS-80ではワゴン車のベルトコンベアを用いてクレーン車へウェイトの取付を行っていたが、クレーン車後方のアウトリガを張り出す必要があり建築限界に支障することがあった。
KRC810Nではクレーン車後方のブームにウェイトを取り付けることでブーム伸縮のみで容易に脱着を行うことが可能となった。
また、カウンターウェイトブームの旋回中心からの距離を大きく取ることで、GS80では32[t]だったカウンターウェイト重量を18[t]に軽減しつつ、必要な安定モーメントを確保している。

△後方ブーム伸縮によるカウンターウェイト装着

 

■ワゴン車の自走・回転
GS-80のワゴン車は動力を持たず、クレーン車で吊り上げて回転させていた。
KRC810Nではワゴン車が自走可能になった他、台枠上面を境目として運転室が回転することで単独での方向転換が可能になった。


△ワゴン車の回転

 

■カント補正機構
カント区間での作業が行えるよう、カント量115[mm]まで車両上部を水平に保つカント補正機構を搭載している。

△カント補正作用時(写真は別型式) 文献4)より

 

■隣接線干渉防止機構
KRC810Nでは荷物吊上時に前方への転倒を防ぐため、後方にカウンターウェイトを取り付けたブームを伸縮させる。
このカウンターウェイトはクレーンブーム旋回時に隣接線に張り出して干渉してしまうため、隣接線干渉防止機構としてカウンターウェイトブームがクレーンブームと別個に旋回できる機能を有している。

△クレーンブームとカウンターウェイトブームが同一線上に無いことが分かる(写真は別型式) 文献4)より

 

■甲種輸送の活用
日本国内では新製時を除いて保守用車の回送は夜間線路閉鎖による自走回送が原則であり、神奈川県の塩浜基地配備である本機は首都圏での使用に限られていたが、甲種輸送を活用し岩手県や新潟県に回送して施工を行ったことが特筆される。

 

■諸元

・寸法重量(クレーン車)

長さ 13,000[mm](連結面間)
2,890[mm]
高さ 3,969[mm]
軌間 1,067[mm]
軸数 8[軸]
自重 107.0[t]

 

・寸法重量(ワゴン車)

長さ 13,050[mm](連結面間)
軌間 1,067[mm]
軸数 4[軸]
自重 57.0[t]
△編成寸法 文献3)より

 

■クレーン

ブーム最小長さ 15,000[mm](旋回中心~フック中心)
ブーム最大長さ 25,000[mm](旋回中心~フック中心)
カウンターウェイト最小半径 6,500[mm](旋回中心~ウェイト後端)
カウンターウェイト最大半径 12,500[mm](旋回中心~ウェイト後端)
定格荷重 33.0[t]/20[m](カウンターウェイト半径最大時)
カント補正 115[mm]
アウトリガ 前後四ケ所

 

△ブーム伸縮長 ブーム作業半径は起伏角0°時を示すと推定される。文献3)より

 

△アウトリガ張出数ごとの定格荷重-作業幅 文献3)より

 

脚注
1)本型式のクレーン容量は文献3)記載の作業半径20[m]時性能33[t]より 20[m] x 33[t] =660[m・t]とも読み取れるが、文献3)記載のブーム伸縮長図に記載の「最小作業半径 15,000」はブーム最縮長であり、最小作業半径はこれを48.2°起伏した際の10[m]と解釈し、これに製造所銘板記載の「LIFTING CAPACITY」より80[t]を掛け合わせ算出した。

 

参考文献
1) 大原朋之『新型鉄道クレーン車の導入』,新線路,70巻,1号,鉄道現業社,(2016.1)
2) 大島時生『鉄道クレーン車 KRC810N』,建設機械施工,69巻,1号,日本建設機械施工協会,(2017.1)
3)『鉄道クレーン車 KRC810N』,東日本旅客鉄道株式会社 東京工事事務所 操軌課 軌道計画・操機グループ,(2021)
4)KIROW『MULTI TASKER 100/250/800/910/1000/1200/1600/2000+ RAILWAY CRANE』
https://dzwigi24.pl/files/MULTI_TASKER_EN.pdf(2022.11.04)