日本車輌製造の道床交換作業車

日車のバラストクリーナー
湯本 幸丸『写真解説保線用機械(改訂増補5版)』1980年,交友社,p.78.より

 


 

本項では、かつて日本車輌製造が製造していた道床交換作業車について解説する。なお、販売は他の日本車輌製保守用車と同様に、熊谷組との合弁企業である日熊工機が行っていた。

 

■概要

日車の無閉鎖式バラストクリーナー
湯本 幸丸『写真解説保線用機械(改訂増補5版)』1980年,交友社,p.80.より

国鉄では1959(昭和34)年度の重要研究課題の一つとして、無閉鎖式バラストクリーナーの開発が進められた。これは線路下に挿入して使用する非車両型のバラストクリーナーであり、作業中に線路閉鎖が不要で、速度制限をすれば営業列車が走行できるという利点があった。このとき開発されたのが大阪型と名古屋型という2種のバラストクリーナーで1)、大阪型は目黒工業が2)、名古屋型は日本車輌製造が、それぞれ国鉄と共同開発を行った。

 

最初期のものと思われる日車製バラストクリーナー
この個体は屋根を装備していない
日本車輌製造株式会社「バラストクリーナーについて」『JREA』4巻8号,1961年,pp.36-37.より

さらに日本車輌は国産初のオンレール式(閉鎖式)バラストクリーナーも開発し、1961年頃から販売を開始している3)。線路下にスクレイパーチェーンを挿入し、ワイヤー巻き取りで前進しながらバラストを掻き出して篩にかけ、再使用するバラストは線路内に戻し、廃棄するバラストはコンベアで車外に放出するという、当時存在したバラストクリーナーの標準的な構造を採用していた。また、ホッパ部を交換すれば篩い分けせずにバラストを全排出することも可能であった。発電機は装備されておらず、別途用意する必要があった4)。なお開発には国鉄のほか、本機種の大口ユーザーであった近鉄も協力していた5)

本機種は国鉄、近鉄、阪急、南海の4事業者で使用されたことが確認されているが、日本車輌によるバラストクリーナーの開発・製造は短期間で終了し、後継機種が現れることは無かった。このため、国産の道床交換作業車はその後、後発の目黒工業製のみの時代が続くこととなった。

 

■導入事業者と各個体

・国鉄

1962年3月に上野保線区へ1台が試験的に導入された記録がある。使用結果を元にチェーン形状の変更、挿入するスクレイパーチェーンのガイドフレームの補強、パーツ交換をせずに篩い分けの有無が選択できる開閉式ホッパへの変更などの改良が加えられたという6)

 

・近鉄

近鉄の日車製バラストクリーナー
柳瀬 珠郎「近畿日本鉄道の駅改良、線路改良、スピードアップ」『JREA』4巻11号,1961年,pp.23-25.より

1961年から1962年にかけて形式30353040の2種が合計6台導入された(うち4台が標準軌用、2台が狭軌用)。近鉄ではこのバラストクリーナーとセットで運用するため、近畿車輌製の発電機付きモータカー(K-2・K-3形)も1962年から1963年にかけて計6台用意されている。しかし、固結した道床に不向きで本体構造も弱いところがあるなど、残念ながら評価は芳しくなかった。このため近鉄はより強力な道床交換作業車を求め、MATISA C 311を導入することとなる7)

 

・阪急

1970年頃に1台を保有していた記録がある8)

 

・南海

南海の日車製バラストクリーナー
南海電気鉄道編『最近の10年:南海80周年記念』,1965年,南海電気鉄道,p.25.より

1965年頃に少なくとも1台を保有していた記録がある。バラストクリーナー本体とよく似た形状の屋根を持つ発電機搭載トロと共に運用されていた模様である9)

 

■諸元

以下は国鉄と近鉄で導入された個体の諸元である。

国鉄度導入車10) 近鉄導入車(3・4台目)11)
全長 4.9[m] 4.85[m]
全幅 3.4[m](作業時)
2.5[m](回送時)
2.5[m]
全高 2.94[m] 3.2[m]
自重 5.0[t] 4.5[t]
掘削深さ 170~340[mm] 170~350[mm]
掘削幅 3400[mm] 3400[mm](標準軌)
3300[mm](狭軌)
作業速度 30[m/h] 30[m/h]

 

 

■文献

1)村山 煕「無閉さ式バラストクリーナー」『新線路』14巻2号,1960年,グラフp.

2)日本鉄道施設協会「メーカー紹介:目黒工業株式会社」『鉄道線路』24巻2号,1976年,pp.43-44.

3)日本車輌製造「バラストクリーナーについて」『JREA』4巻8号,1961年,pp.36-37.

4)湯本 幸丸『写真解説保線用機械(改訂増補5版)』1980年,交友社.

5)春永 駒男・小林 陽三「保線作業機械化の現状と方向について」『近畿日本鉄道技術研究所技報』2巻1号,1970年,pp.115-123.

6)桜井 一「閉鎖バラストクリーナー」『新線路』17巻10号,1963年,pp.28-30.

7)小林 陽三「新しい保線機械と道床改良作業システム」『近畿日本鉄道技術研究所技報』7巻1号,1975年,pp.108-121.春永・小林,前掲5.柳瀬 珠郎「近畿日本鉄道の駅改良、線路改良、スピードアップ」『JREA』4巻11号,1961年,pp.23-25.

8)京阪神急行電鉄総務部「京阪神急行電鉄株式会社」『鉄道ピクトリアル』20巻3号,1970年,pp.4-10.

9)南海電気鉄道編『最近の10年:南海80周年記念』,1965年,南海電気鉄道.

10)桜井,前掲6.

11)柳瀬,前掲7.