53_懸垂式モノレールの保守用車


■概要
当ページでは1本の軌条に沿って走行する鉄道であるモノレールのうち、車両の車体部分が軌道桁から垂れ下がっている懸垂式モノレールで使用される保守用車について取り扱う。

日本に於ける地方鉄道法に基づく最初の懸垂式モノレールは昭和32(1957)年12月17日に開業した東京都交通局運営の上野懸垂線である1)。跨座式モノレールより先行する形となったが現在運営されているのは湘南モノレール、千葉都市モノレールと廃止となるスカイレールサービス(令和6(2024)年4月末予定)、東京都交通局上野懸垂線(令和5(2023)年12月予定)と国内では少数派となっている。

顔ぶれが豊富な跨座式モノレールの保守用車とは対照的にニチユ(現三菱ロジスネクスト)製の保守用車が大半を占めるという状況となっている2)

懸垂式という車両の形状から営業列車に近い構造を持つ、き電停止しても使用できる蓄電池式の車両が多い。

 

■ランゲン(上野)式とサフェージュ式
懸垂式とひとことで言っても東京都交通局の上野懸垂線と千葉都市モノレールを比べてみると構造がだいぶ異なっていることがわかる。上野動物園線はランゲン式を改良した上野式(以下上野式と呼称)3)で軌道桁の片側に懸垂部がある。
一方のサフェージュ式は下部が開口している函形の軌道桁内を走行する台車の中心に懸垂部を設けたもので台車はゴムタイヤの2軸ボギーである。

懸垂式のモノレールはサフェージュ式が国内では主流となっている。

 

■サフェージュ式モノレールの構造
サフェージュ式モノレールの構造を図示すると以下のようになる。

△サフェージュ式懸垂式モノレールの構造。文献3)より

台車が軌道桁の中にすっぽり収まる構造となっている。
そのため跨座式に見られるような車体側に備えたガソリンやディーゼル機関を動力とし推進軸で台車に伝達するものよりも台車に備わったモーターを電力で駆動する構造とした方が理に適っているのがわかる。勿論保守用車はき電停止中も作業を行うのでバッテリー(蓄電池)駆動となっている。

■懸垂式モノレールの保守用車の構造
軌道・電車線路設備の作業は道路上の高架桁での作業となるため「道路閉鎖を必要としない」「高所作業に対する安全性及び作業の効率性」を求めた構造となっている。

懸垂式モノレールの保守用車の構造は以下の画像のように上野式とサフェージュ式では大きく異なる。

・上野式
上野式モノレールの保守用車は以下のような姿をしている。

△上野動物園線の保守用車

ゴンドラといってもいいような構造をしている。
ロープ駆動式短距離交通システムであるスカイレールサービスの保守用車はこちらに近い形状をしている。

軌道桁上へと上がれるようなステップが備わっており点検時にはこのステップを使用して軌道桁上へと上がり作業を行う。

△作業中の様子。アームにステップが付いており軌道桁上に上がれる構造となっていることがわかる。

・サフェージュ式
〇千葉都市モノレール
軌道桁が車体より上にあるため点検を行うための点検台を備えている。

△車両前後に軌道桁を点検できるような作業台が付いている

軌道桁外側の点検は幅方向に拡張した上で上方に展開する作業台を用いて行う。

△車両基地公開イベント時の作業実演の様子。軌道桁を締結するボルトの打音検査をしている

〇湘南モノレール
湘南モノレールに関しては軌道桁の外側も点検できるように車体全体が幅広の作業台といえるような特徴的な形状をしている。

△湘南モノレールの保守用車。幅広な車体が特徴。

脚注
1)上野動物園線に先立ち豊島園に1951(昭和26)年に懸垂式モノレールが作られた。地方鉄道法に基づくものは上野懸垂線が最古である。
2)記事執筆時点の2023年12月現在。湘南モノレールの保守用車は3両が確認されているが外観より製造者を特定するのが難しく、不明。今後イベント等で製造者が特定されれば勢力図が大きく変わる可能性はあるが、多くても製造者は2社と跨座式と比較すると少数の会社により作られている印象は変わらない。
3)上野懸垂線についてはランゲン式と呼ぶ文献もある(文献2))が騒音低減の観点からゴムタイヤを採用しているため上野式と区別する文献もある(文献5))。

参考文献
1)一般財団法人日本民営鉄道協会『鉄道用語事典 モノレール』
https://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16476.html(2023.12.12取得)
2)倉本東三『(1)モノレールの概要』,信号保安,第38巻10号,信号保安協会,(1983.10)
3)松尾有正・坂本勝彦・桑原秀夫・山口正博『”都市モノレール”の実用化-千葉都市モノレール-』,三菱重工技報,第32巻4号,三菱重工業株式会社,(1995.07)
4)織本哲夫『千葉都市モノレールの懸垂形蓄電池式保守用車』,鉄道と電気,第42巻3号,鉄道電化協会,(1988.03)
5)森川天喜,湘南モノレール50周年誌制作委員会『湘南モノレール全線開通50周年誌』,湘南モノレール株式会社 (2022.04)