MCS-1

概要


MCS-1は、東北・上越新幹線の開業に備えて1979年から試作・製造が進められた除雪用モータカーである。

ロータリー側の機関室がとても短く、ラッセル側の機関室が長い、L字形に近いセミセンターキャブ形になっていることが大きな特徴となっている。これは従来機種(MCR-4など)では、走行用エンジン(202[PS])と除雪用エンジン(260[PS])を搭載していたものを、330「PS]エンジン1台で兼用したことによる。

除雪用エンジンの負荷が大きいとき走行用エンジンにはほとんど負荷が掛からない。一方、除雪エンジンの負荷が軽くなると、作業速度が上がるために走行用エンジンの回転数が上がる。よって、2台のエンジンの出力を同時にフル活用することは実作業においては無いものと言える。
そこで、適切な出力のエンジンを1台搭載し、出力を走行用と除雪用に分配すればよいという発想から生まれたのが、MCS-1である。出力配分は、長年の観測データより導かれ、更に走行速度の向上を図ることを鑑みて、330[PS]エンジン1台搭載とされた。

MCS-1の動力機構は、エンジンからの動力をそのまま伝達するという点において、後のN-MCR600のように走行側を油圧駆動方式としたものと一線を画する。
動力を分配するといっても、前述の通り走行系と除雪系では作動に求められる要素がまったく異なる。除雪作業中は走行系と除雪系への動力を適切に配分しなければならず、回送時には高速走行も求められるほか、しかも除雪作業時は低速無段階変速走行が要求される。
そこで、走行駆動系に可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)を設けた。

エンジンの動力は、主クラッチを通った後に動力分配機へと入り、走行用動力と除雪用動力に分配される。
走行用動力は、可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)を経て変速機に伝達され、車輪へと至る。
除雪用動力は、更に別の動力分配機を経て、ブロワ用動力とオーガ用動力に分配され、それぞれの装置に至る。

回送走行時には、動力分配機を切替えることで除雪装置への動力を断ち、更に可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)を直結する。この操作により、エンジンからの動力をすべて走行用に振り向けた上で、高速走行が可能となる。
除雪走行時には、動力分配機によって走行・除雪用動力を分配し、可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)を変速状態とする。可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)では、走行用動力伝達量が可変となるため、除雪条件に応じた低速走行が可能となる。

この可変滑りクラッチ(オメガクラッチ)は主に船舶で使われている技術である。

最高速度は70[km/h]と、従来のMCR-4の最高速度である55[km/h]よりも上がっている。
除雪装置は、レール面下50[mm]まで除雪可能なものとなっている。フランジャには反転プラウ構造が用いられており、フランジャに支障物が衝撃すると、シャーピンが切断されてフランジャが後ろに跳ね上がる構造となっている。ラッセルは、新幹線用ということもあり複線区間の除雪に特化した一文字ラッセルであることが特徴。

東北新幹線開業前に北上地区にて試験が行われたのちに東北・上越新幹線向けに量産された。
このほか東海道新幹線関ケ原・米原地区向けに2両配備されていた。
製造番号は、5001~。
 
 
諸元


■ 牽引性能

勾配 牽引重量 単車 牽引時
水平線 200[t] 70[km/h]以上 51[km/h]以上
10‰ 200[t] 63[t] 17[km/h]以上
20‰ 160[t] 54[km/h] 11[km/h]以上

 

■ 排雪性能

除雪能力
低速段 1,500[t/h]
高速段 1,100[t/h]

 
 
参考文献


1) 『新幹線用除雪機械の試作試験が行われた』, 新線路, 第34巻 3号, 鉄道現業社, (1980年3月)
2)松田務,『モロ、ハイモ』, トワイライトゾ~ン マニュアル14, ネコ・パブリッシング, (2005年)
3)『除雪車における走行動力伝達装置』, 実用新案, 実願昭55-044673, 実全昭56-146624, 実公昭62-012665, 実登1704405, 新潟鐵工所, (1980年4月)
4)奥隆・狩野正章,『新形除雪車の開発』, 新線路, 47巻11号, 鉄道現業社, (1993年11月)
5)鶴通孝,『雪で止めるな新幹線』, 鉄道ジャーナル, 30巻6号, 鉄道ジャーナル社, (1996年6月)