名古屋鉄道の軽トラック改造モータカー



ヨシイケ式軌道検測車を牽引する軽トラ改造モータカー。写真は昭和56(1981)年撮影なので、遅くともこの時点では実用化されていた事になる。
『軌道検測車データ処理システムの開発』,名古屋鉄道株式会社研究報告,26巻,(1986年9月)p1-30より引用

■概要
名古屋鉄道(名鉄)が保有している軽トラックを軌道自動車に改造したモータカーで、保守作業時における人員および機材運搬や台風等災害時の線路巡視用として使用されている。1)名鉄全線に10数台が配備されているが、軌道自動車をここまで大量に運用しているのは同社くらいであり、40年以上も継続して導入されている点も珍しい事例といえる。

名鉄が軽トラ改造モータカーを愛用している理由については、同社の社風にあると推測できる。名鉄は昭和34(1950)年に枕木交換を外注化したのを皮切りに、その後数十年間で保守作業の殆どを傘下の建設会社に外注するようになった。2)これはMTT-13導入時と同様の、名鉄独特の合理化思想によるものであり、外注化により名鉄本社の土木部門はスリム化され、本社の業務は巡回点検が中心となっていった。3)


犬山線犬山駅に留置されている松山重車輌製軌道モータカー。側梁に表記が見られる通り矢作建設工業が自社で保有している。

保守作業の外注化は他社でも見受けられるが、名鉄の場合で特徴的なのは全作業の大部分を外注化している点と、作業に用いる機械も外注先に保有させている点である。従って工事用の軌道モータカーは外注先が保有しており、一方で名鉄本社では通常の鉄道会社なら当たり前であるモータカーを用いた巡回や輸送が出来なくなってしまった。この解決策として軽トラ改造モータカーが開発されたものと思われるが、開発時の資料が未発見であり詳しい経緯は不明である。

なお伝統的に三菱自動車工業のミニキャブをベース車としているが、これは90年代まで名鉄グループ内に名古屋三菱ふそう自動車販売(三菱自動車のディーラー)を抱えていた事4)によると思われる。

■参考文献
1)河村勝彦・伊藤優・加藤正人『名古屋鉄道の保線作業の外注化について』,鉄道線路,34巻5号,(1986年1月)
2)森正樹『線路と保線』,鉄道ピクトリアル,56巻1号,(2006年1月)p66

■脚注
1)森(2006)p69
2)矢作建設工業名鉄エリアパートナーズ(旧名鉄木材防腐)が外注先の代表格である。なお各作業がどの時期に外注化されたか等の経緯については、河村・伊藤・加藤(1986)の他に大岩一三・村松義雄『名古屋鉄道の保線の保守体制』,鉄道線路,25巻7号,(1977年7月)が詳しいが、本稿では詳細を省略する。
3)河村・伊藤・加藤(1986)p32および森(2006)p68
4)この影響で名鉄グループ内が保有するバスやトラックは基本的に三菱自動車製で揃えられていた。


第1世代

確認できる限り最古の世代で、この世代のみ普通自動車をベース車としている。ベース車はトヨタ・ミニエース(1967~1975年販売)で、確認されている個体はフロント窓下にガーニッシュが付いた1971年以降のモデルである。ミニエースは当時市販の普通自動車で最小クラスの車種であったが、1975年に販売が終了し、翌年には軽自動車の規格が改訂され従前より大型化が可能となったため、以降はベース車に軽トラックが選定されるようになったものと思われる。


第2世代

ベース車は三菱・ミニキャブの3代目モデル(1976~1984年販売)で、この世代からベース車が軽トラックとなった。前輪に足場らしき枠が嵌まっているのが特徴。大量に導入された模様で00年代前半まで名鉄に残存していたほか、大井川鉄道に元名鉄と思われる個体が譲渡され現存している。導入当初はボディ色が黄色であった様で、大井川の個体は今なお同色となっている。


第3世代

この世代に限りベース車がスズキ製で、キャリィの8代目モデル(1985~91年販売)である。
写真の個体はヘッドランプ形状から1989年式以降生産分である。
導入数が少なかったのか写真を殆ど見かけない。


第4世代

令和5(2023)年現在最も多く見かける形態で、ベース車は三菱・ミニキャブの5代目モデル(1991~1999年販売)である。ヘッドランプが2代目ブラボー後期型と同品に変更された以降のモデル(1997年~)しか見かけない事から、導入時期もこのあたりであろう。


第5世代

令和4(2022)年より導入が開始された最新型で、おそらく第3世代の置き換え用と思われる。
ベース車は三菱・ミニキャブの7代目モデル(2014年~)であるが、この世代からミニキャブはスズキ・キャリィ(11代目モデル)のOEM車種となったため、事実上キャリィベースに回帰した事になる。
改造は群馬県桐生市に工場を構える石田製作所が担当し、同社よりRT658という型式を与えられ令和5(2023)年4月より正式に発売される予定である。今後は名鉄以外にも導入される可能性があり興味深く観察したい。


石田製作所公式Youtubeチャンネルで公開されているRT658の走行動画。名鉄の作業服を着た作業員が多く見られる事から名鉄の研修施設で撮影されたものと思われる。