MTT-55

(写真:”新幹線工事に活躍した芝浦式電気式マルチプルタイタンパ”の紹介文と共に広告掲載されているMTT-55A。『鉄道線路』,12巻8号, (1964年8月)掲載の芝浦製作所広告より引用。)

■概要
MTT-15の標準軌版である。昭和38(1963)~昭和39(1964)年にかけて、東海道新幹線建設工事用としてMTT-55Aが国鉄へ導入された。国鉄以外にも、私鉄各社の標準軌線区向けとしてMTT-55BMTT-55CMTT-55Eの各機種が製作されている。

MTT-55Aと55Bについては諸元を確認できたので下記に示す。

MTT-55A(国鉄) MTT-55B(近鉄)
全長×全幅×全高 5.2m×2.8m×2.8m 5.4m×2.6m×2.8m
総重量 10,000kg 11,000kg
原動機 型式 いすゞDA220
ディーゼル
トヨタ水冷
ディーゼル
(トヨタD型?)
定格出力 48ps/1,800rpm 48ps
3相交流
発電機
25KVA-3φ-220V
-60c/s-4P-1,800rpm
不明
油圧装置 油圧ポンプ
駆動用
電動機
無し(原動機より出力) 不明
油圧ポンプ 吐出量30L/min
(1,200rpm)
不明
常用圧力 50kg/cm2 不明
タイピング
装置
起振用
電動機
600W-3φ-200V
-60c/s-2P-3,450rpm
(8台搭載)
不明
ツール数 16本 16本
上下昇降用
電動機
無し 不明
伝達機構 油圧コントロールバルブ
により左右2個の油圧
シリンダに圧油を送り
リンク機構を介して
タイタンパを上下する
ほか左右締固め装置
ごとに油圧調整可能
不明
走行装置 走行用
電動機
無し(原動機より出力) 不明
伝達機構 いすゞトラック用クラッチ
変速機(前4後1段変速)
および逆転機を介して
ローラチェーンで
後車軸駆動
不明
制動装置 4輪制動 不明
枕木間の
移動
変速機を第1速に入れ2個の
油圧シリンダーでクラッチ
ブレーキ連動
不明
走行性能 6.9~45km/h 最高45km/h

鉄道線路(1965)および春永・小林(1970)記載の諸元表から抜粋し作成

MTT-55Aについては国鉄における配備先および取得年月を確認できたので下記に示す。

配備先 取得年月 台数
静岡幹線工事局 静岡機械軌道支所 昭和39年1月 2
三島機械軌道支所 昭和39年1月 2
名古屋幹線工事局 豊橋機械軌道支所 昭和38年7月 1
大阪幹線工事局 鳥飼機械軌道支所 昭和38年3月 1

鉄道線路(1965)記載の一覧表から抜粋し作成

■参考文献
1)春永駒男・小林陽三『保線作業機械化の現状と方向について』,近畿日本鉄道技術研究所技報,2巻1号,(1970.12)
2)西日本鉄道『西鉄の線路・電力・保安・検修施設』,鉄道ピクトリアル,24巻臨時増刊号,(1974.4)
3)皿谷寿朗『京王帝都電鉄の保線の保守体制』,鉄道線路,25巻3号(1977.3)
4)吉村隆次『線路と保線』,鉄道ピクトリアル,39巻9号,(1989.9)
5)『保線データ・シートNo.8 保線機械その1』,鉄道線路,13巻7号(1965.7)

■脚注
1)三浦亮『芝浦グループと保線の関わり』,新線路,67巻7号,(2013.7)においては5台と記載されており、先述した鉄道線路(1965)記載の台数(6台)と矛盾する。
2)春永・小林(1970)
3)河村猛・出口俊和 『近鉄のマルタイ作業』,新線路,41巻10号,(1987年10月) 表3
4)西日本鉄道(1974)
5)吉村(1989)
6)皿谷(1977)
7)導入年から高尾線工事用とも考えられるが詳細不明。なお三好好三『京王線・井の頭線 昭和の記憶』(2012)には、高尾線工事中の北野駅で作業中の本機種の写真が掲載されている。
8)夏目保男・長田繁『線路と保守作業』,鉄道ピクトリアル,33巻臨時増刊号(1983.9) 表5


MTT-55A

(写真:静岡幹線工事局『東海道新幹線工事誌』,東京第二工事局,(1965)p755より引用)
製作年:昭和38(1963)~39(1965)年 製作台数:5台または6台1)
納入先:国鉄

東海道新幹線建設工事用として導入された、史上唯一の芝浦製新幹線向けマルタイである。


MTT-55B

(写真:春永・小林(1970)p116より引用)
製作年:昭和38(1963)年 製作台数:1台2)3)
納入先:近鉄

近畿日本鉄道(近鉄)向け機種である。上本町営業局(大阪線を管轄)へ1台が導入された。2)
製作はMTT-55Aと同年だが、MTT-55Aとは全長・全幅および原動機が異なっている一方で、前年に南大阪線へ導入されているMTT-13Dと諸元が近似するため、MTT-55Aの私鉄版というよりMTT-13Dの改良型として製作されたものと思われる。
密閉式キャビン装備車である事も特筆され、同年製作のMTT-55Bおよび翌年製作のMTT-17とも設計思想がリンクすると推測される。
なお近鉄においては昭和45(1970)年の時点で道床への挿入力と振動力が弱いと判断されており、古いバラストを使用している支線での運用が中心であった。2)やがて昭和55(1980)年10月付で廃車されている。3)


MTT-55C

(写真:西日本鉄道株式会社社史編集委員会『最近10年のあゆみ』,(1968)p64より引用)
製作年:昭和39(1964)年 製作台数:2台4)
納入先:西鉄

西日本鉄道(西鉄)向け機種である。
諸元などの詳細は不明であるが、外見上の特徴としてMTT-55Bと同じく密閉式キャビンを装備する他、直流発電機が左側面に搭載されていない事が挙げられる。製作と同年にはMTT-15Dの製作が開始されており、MTT-15Dと同様に直流発電機の搭載位置が右側面に変更されたものと思われる。
大牟田線へ2台が導入されたが、10年後の昭和49(1974)年にMTT-25によって置き換えられている。5)


MTT-55E

製作年:昭和41(1966)年6) 製作台数:1台6)7)
納入先:京王

京王帝都電鉄(当時)京王線へ導入された本機種唯一の馬車軌間(1,372mm)用である。昭和41(1966)年に1台が導入されたが、昭和58(1983)年時点で既に廃車となっている。8)