B 50

写真:交通建設のB 50 J A8

 


 

B 50はMATISA製のマルチプルタイタンパーである。本稿では特に、日本に導入されたB 50 J A8について述べる。

 

■概要

B 50はB 40よりも更に大型化・高機能化が進んだ機種である。検測システムはNEMO式で、コンピューターシステムはCATTDOGGを搭載するなど、2000年代製B 45 UEと共通の仕様を持つ。

 

J A8型タンピングユニットの外観(左)と構造図(右)
外側から3番目のツールを取り外して脱線防止ガードを避けることができる
また従来の一般軌道用機と同様、ガイドローラーで軌道中心とユニットの位置を揃えている
山田・沢田・緑川,文献2より

 

ガードレールとツールの位置関係
(よこすかYYのりものフェスタ2019の展示より 提供:まさ405)

その中でもB 50 J A8は、日本市場向けとして特別に設計され、2007年から製造された一般軌道用機(ラインマルタイ)である1)。タンピングユニットは1丁づき16頭式で、脱線防止ガード設置区間では支障するツールを取り外すことできるJ A8型タンピングユニットが搭載されている。これまでラインマルタイはB 40 DEなどのダブル機の採用例が多かったが、本機はあえてシングル機としている。これにより、レール上に障害物の多い日本の軌道にきめ細かく対応でき、またダブル機より構造が単純なためツールの脱着や清掃、点検などが容易になった2)

 

改善されたタンピング座席からの視界。以前は中心にフレームが伸びていた(左)
D型ダブルローラークランプ(右)
山田・沢田・緑川,文献2より

また、以前の機種では車体中心にフレームがあり、タンピング座席からの視界を阻害していたが、日本ユーザーの要望により本機種からフレームを廃した構造となり、視界が大幅に改善された3)。リフティング・ライニング装置についても、以前は1組のクランプでレールを掴む方式であったが、本機種では2組のクランプでレールを掴むD型ダブルローラークランプを装備している。D型クランプはDOGGの線形データと現在地情報に基づき、レール継ぎ目板などの障害物がある場所では、自動で支障しない側のクランプのみを使用する。また曲線部でも、DOGGの線形データを利用し自動的にレールを掴むことができる4)

 

連続作業走行の概念図
交通建設,文献5より

 

B 50 J A8のシャトル機構の構造
山田・沢田・緑川,文献2より

 

B 50 J A8による連続作業走行の映像
後部動力台車を含むシャトル機構が走行と停止を繰り返すのがわかる

さらに、B 50 J A8から連続作業走行が可能となった。タンピングユニット、リフティング・ライニング装置、コンパクタ装置は後部駆動台車と共にシャトル機構にまとめられている。作業中、車体本体は前部駆動台車により低速で前進し続ける一方、シャトル機構のみが後部駆動台車により前進→停車→タンピング→前進を繰り返す。これにより、車体本体に掛かる停/発車時やタンピングの振動・騒音が軽減され、乗車しているオペレーターの作業環境が大きく改善された5)

 

B 50における検測とコンピュータ処理の概要図
山田・沢田・緑川,文献6より

レベリング・ライニング用検測機構は2000年代製B 45 UEと共通で、NEMOによる検測データをCATT・DOGGシステムとリンクする方式である。これに加えて本機種は付随車側にもC’・D・Eの3点に検測トロリーを備えており、作業後のレール仕上がり状態を記録することもできる。なお、付随車側の検測装置はワイヤー式である6)

上記の改良に加えて、B 50 J A8はタンピング部の大型防音カバーや脱線復旧用ジャッキなど日本向け機種特有の機器を持つほか、日本ユーザーの声に答えて斜めの昇降ステップ、天窓、雨樋、本体-付随車間の屋根といったオプションを装備するなど、欧州向け機種には無かった様々なカスタマイズが施されている。

 

キャビンが特別仕様となったユニオン建設のB 50 J A8

さらに、ユニオン建設向け個体のみ先頭キャビンがMATISA標準のものから大幅に変更されている。斜め下向きの直線的な形状は汚れが付きにくく、車内に灯具を納めたことで風雨による劣化が防がれ交換作業も安全に出来るようになった7)。このキャビン形状はのちに、MATISA製マルタイのみならず日本へ輸入される多数の機種でも踏襲されることとなる、画期的なものであった。

 

■運用

B 50 J A8は2007年から2009年の間に4台の製造され、ユニオン建設と交通建設にそれぞれ2台が導入されたことが確認されている。このうち2023年6月現在、U1004-007(ユニオン)と30-16-1-0-10001(交通)の2台のみが現役の模様である。

 

■諸元

代表的な諸元は以下の通り8)

全長(付随車含む) 31.150[m]
全幅 2.840[m]
全高 3.960[m]
自重 55.5[t]
作業能力 800[m/h]
タンピングツール 1丁づき16頭
レベリング能力 こう上力2×110[kN]
最大こう上量150[mm]
ライニング能力 ライニング力150[kN]
最大ライニング量±200[mm]
ツール振動数 2700[rpm]
エンジン KHD-DEUTZ TCD2015 370[kW]/1470[rpm]
自走速度(回送時) 80[km/h]

 

■脚注・文献

1)山田 正則・沢田 孝道・緑川 和彦「マティサマルタイ入門(B50型)①」『新線路』67巻3号,2013年,pp.49-52.

2)山田 正則・沢田 孝道・緑川 和彦「マティサマルタイ入門(B50型)③」『新線路』67巻5号,2013年,pp.50-53.

3)山田・沢田・緑川,前掲1.

4)MATISA『マルチプルタイタンパー用装置』2018年,MATISA.山田・沢田・緑川,前掲2.

5)交通建設『MTTが線路をつくる【基本原理】』https://www.kotsukensetsu.jp/construction/pdf/H24kouken-spring1.pdf(2023/06/30取得).山田・沢田・緑川,前掲1.山田・沢田・緑川,前掲2.

6)山田 正則・沢田 孝道・緑川 和彦「マティサマルタイ入門(B50型)⑤」『新線路』67巻7号,2013年,pp.46-51.

7)MATISA『Les bourreuses légères』2013年,MATISA.山田・沢田・緑川,前掲1.

8)山田・沢田・緑川,前掲1.MATISA,前掲7.

 


 

■B 50 J A8