逸脱防止ガード敷設運搬車


■概要
平成16(2004)年10月の新潟県中越地震で新幹線車両が脱線したことを踏まえて地震等による車両脱線時の減災対策として平成23(2011)年10月より山陽新幹線の軌道内に逸脱防止ガード設置が開始された。平成27(2015)年12月に新大阪~姫路間の敷設が完了し山陽新幹線全区間の作業完了は令和11(2029)年度の予定となっている。

逸脱防止ガード敷設運搬車は逸脱防止ガードを運搬し設置するために開発された車両群で、2[両]の搬送台車と1[両]の敷設台車の計3[両]からなり、重連の軌道モータカーで牽引して作業を行うものである。

 

■逸脱防止ガードとは
逸脱防止ガードとは受台とガード材からなる鋼製の設備で以下の要件を満たすものである。
1.脱線車輪から受ける水平方向の200[kN]の衝突荷重を受けてもガード材に有害な損傷が発生しないこと
2.脱線車両をマクラギから外れない位置に誘導すること
3.脱線車両の高剛性部材が衝撃しないこと
4.日常の列車運行を阻害させることがないようガード材を持続的に強固に固定できること
5.信号システムの機能に影響を与えないこと
6.ガード材を付けた状態でマルチプルタイタンパによる作業を支障しないこと

受台装置を予めマクラギに穿孔して取り付け、本車両群でガード材を被せボルトと楔で固定する。
逸脱防止ガードはバラスト区間およびスラブ区間等の軌道構造の種別により複数の品種が存在する。

なお、バラスト軌道区間については平成28(2016)年より後述の転用レール方式の逸脱防止ガードに変更となった。

 

■導入の経緯
バラスト区間用のガード材は過去の試験に於いて鉄製トロを活用して約120[m/日]の施工が可能であることが確認されているが、施工量を増大させるために本車両群が導入された。

開発にあたっての性能要件は以下の通りである。
1.ガード材は既存設備を活用して積載すること
2.一度に約500[m]のガード材を運搬すること
3.ガード材を軌間内の定めた位置に敷設すること
4.敷設作業は人的操作によらず自動化すること
5.複数のガード材品種に対応すること

 

■車両構成
逸脱防止ガード敷設運搬車は2[両]の搬送台車と1[両]の敷設台車で構成されている。
・搬送台車

△搬送台車

ガード材を現場まで搬送するための台車である。ガード材は専用のパレットに搭載した状態で搬送台車に積み込まれる。1[両]の搬送台車に4[パレット]、1[パレット]あたりバラスト区間用9[体](スラブ区間用12[体])が搭載可能で2[両]の搬送台車で約500[m](4[パレット]×9[体]×2[両]×7[m/枚]=502[m])のガード材を運搬することが可能となっている。

搬送台車には取卸装置と移送装置(ローラーコンベア)が備えられており鋼製のガード材を取卸装置が電磁石を用いて吸着し車両中央の移送装置へと移動させる。移送装置に載せられたガード材は敷設台車へと移送される。

・敷設台車

△敷設台車

逸脱防止ガードを軌間内の受台装置上に配置させるための車両で、ガード材移動のためにローラーコンベアと敷設のために開閉式コンベア装置を備えている。搬送台車から送り込まれたガード材は敷設位置を調整する押出装置で位置を調整した上で取卸装置が受台へとガード材の取り卸しを行っている。
また敷設台車には推進運転を可能とするための添乗設備を設けている。

なお敷設台車に車両停止位置測定装置を備え予め設定した基準ピンを光学式センサーで検知し搬送台車の停止位置から基準ピンまでの距離を計測しガード材の押出装置で規定位置にガード材を取卸できるようになっている。

 

なお、一連の作業についてはYOUTUBEのJR西日本公式チャンネルの動画で分かりやすくまとめられている。
https://www.youtube.com/watch?v=gJ79f_8YbTc

 

■装置の自動化
性能要件を満たすため前述の取卸及び移送、押出といった装置は制御盤により制御が自動化されている。また軌道モータカーには監視モニターを搭載し運転者が装置の稼働状態、移動の可否及び移動距離等の情報を確認できるようになっている。

 

■主要諸元

編成長 約70[m]
ガード積載量 約500[m]
車両構成重量 約137[t](満載時)
取卸方式 電磁石(自動制御)
導入 平成25年3月

 

■転用レール方式への変更
転用レール方式の逸脱防止ガードは平成28(2016)年度から設置が始まっている中古の60[kg]レールをガード材としてマクラギに固定するものである。従来の逸脱防止ガードは既設のPCマクラギを交換せずに加工し特製のガード材を取り付ける構造であったが高価であったためバラスト軌道区間においては転用レール方式へと変更となった。

ただ転用レール方式のガード材を既設のPCマクラギ上に設置してしまうと脱線車両の高剛性部材と干渉してしまうためガード材を取り付けるマクラギ中央部を凹形状とした新型のマクラギに変更する必要がある。これを受けて導入されたのがマクラギ交換機編成である。

△新型マクラギの概要。文献6)より

なお、バラスト軌道区間であっても地上子箇所や特殊区間は高さ調整用部材を用いた上で引き続き従来品を用いている。

 

・参考文献
1)大鉄工業株式会社『山陽新幹線 逸脱防止ガード新設』
https://www.daitetsu.co.jp/produce/railroad/r-ex-maintenance/post-170(2023.03.09)
2)西日本旅客鉄道株式会社『ニュースリリース ~新幹線の安全性・信頼性向上をめざして~山陽新幹線 姫路~博多駅間の逸脱防止対策の整備計画を拡大します。』
https://www.westjr.co.jp/press/article/2017/02/page_9946.html(2023.03.09)
3)YOUTUBE『JR西日本公式チャンネル 【<公式>JR西日本】逸脱防止ガード敷設運搬車』
https://www.youtube.com/watch?v=gJ79f_8YbTc(2023.03.09)
4)柳谷勝、金岡裕之『逸脱防止ガード敷設運搬車の開発』,土木学会第68回年次学術講演会(平成25年9月),(2023.03.10)
5)河村伸行、柳谷勝『山陽新幹線における地震対策 -逸脱防止ガードの整備-』,新線路,第69巻12号,鉄道現業社,(2015.12)
6)井上卓也『特殊区間用の転用レール方式逸脱防止ガードの開発』,新線路,第71巻10号,鉄道現業社,(2017.10)


 

敷設台車

搬送台車